第202話 番外編17.王都にて(セドリック辺境伯)
番外編17.王都にて(セドリック辺境伯)
王都より、使者がやって来た。
「辺境伯殿、この度は、第四王女セレナ様とのご婚約、おめでとう御座います。
つきましては、大々的に国内外へと公表する為の舞踏会が催されます。
主賓たる辺境伯殿へ、招待状をお持ち致しました。」
「うむ、ご苦労であった、長旅、さぞ疲れたであろう、当家には温泉がある故、常時風呂に入る事が出来る、ゆっくり浸かって旅の疲れを取ると良い。」
「有り難きお言葉に御座います、では、遠慮なく湯浴みを頂きます。」
この温泉は、エリーが強化装甲の工場を建築中についでと言って掘ってくれた物だ、マグネシウム炭酸泉で切り傷などにも効果が有ると言って居たかな?
しかし24時間風呂に入れると言うのは私としてもとても満足して居るので、この風呂は私のお気に入りの施設となって居る。
その温泉の脱衣所には、服を洗って乾かしてくれる全自動洗濯乾燥機なる物も、エリーが用意してくれた。
少し長めに風呂に使って温まってから体を洗って上がれば、既にそのまま着られる程に仕上がって居ると言う優れものだ。
使い方も、ジュドーに教示させておくとしよう。
「ジュドー、案内を。」
「畏まりました。」
知らせを持って来た近衛騎士を丁重に案内し、風呂へと連れて行くジュドーを尻目に、招待状の封印を解く。
中の手紙を取り出しながら、思わず笑みが零れてしまう。
そりゃぁしょうがないだろ?
念願のセレナ様との婚約が確定して居ると言う事なのだから。
こんなに嬉しい招待状はこれまでもこれからも存在し無いだろう。
早速、騎士が風呂を堪能して居る合間に、支度を初める事にした。
もうね、ジャイアントクルーザーのお陰で、こんなに大急ぎで支度をしなくてもいいのだが、逸る気持ちが抑えられん。
直ぐにでも王都へ向けて出立したい気分なのだ。
王都にも一応、私の家はある。
ここより多少狭いし温泉は無いが、王都邸と言う立派な屋敷が有るので、早い所あちらへ行ってしまいたい。
逸る気持ちが抑えきれない、もはや、子供に戻ったような気持なのだ。
夢にまで見たセレナ様との婚約、婚姻、これが嬉しく無くて何だと言うか。
街の門の外まで、強化装甲で出た私は、そこでジャイアントクルーザーを召喚する、私の声に反応して亜空間と言う所から出て来るのだと言う説明だったが、全く意味は解らない、でも実際、出て来るのだから不思議だ。
「出でよジャイアントクルーザー!」
うん、何度見ても何も無い空間に突如現れるその姿は、巨大で驚くしか無いな。
強化装甲の格納庫へと進み、強化装甲の固定器へと近づけば、自動的に固定される。
私も慣れたものだな、大概の事には動じなくなった、ジャイアントクルーザーが何もない空間から出て来る時以外はもう大概の事には驚かん。
待機動力のみで主動力を稼働して居なかったジャイアントクルーザーのブリッジへ上がり、主動力を入れる。
すると、このジャイアントクルーザーのAIとか言う物が反応する。
『おはようございます、セドリック様。』
「ああ、おはよう、もう暫くしたら、王都へ向かうぞ。」
『畏まりました、では、いよいよお披露目ですね?』
「ああ、そのまま、セレナ様を連れて帰れるかも知れぬ。」
『念願、叶いますね、おめでとうございます。』
何でそんな事知ってるんだろう、この魔道具は・・・
「兎に角、準備をしておいてくれ。」
『畏まりました。
全施設、稼働いたします。』
これで良し、いつでも走らせる事が出来るだろう。
さて、そろそろ湯浴みも終わろうかと言う頃合いかな?
一度屋敷へ戻るとしよう。
「いやはや流石はグローリーにこの人ありと謳われたセドリック辺境伯領ですな~。
こんな素晴らしい湯が地下から沸いて居るなんて、堪能させて頂きました。」
「それは何より、早速だが、出立の準備が済んで居る。
今すぐにでも出られるが如何だろうか?」
伝令騎士は思った、不眠不休で早馬を走らせてきた俺を休ませる気が無いのかよ!? と・・・
「しかし、私目も疲労がたまって居ります故に。」
「なぁに、馬に乗れとは申して居らんよ、食事も出来るし遊技場も完備して居る、ベッドも今までの記憶に無い程の心地良い物が完備してある。
ゆっくり寛いでいる内に王都の様な近い場所へは一晩で着いてしまうからな、むしろ物足りぬかもしれんぞ。」
騎士は更に思った、何言ってんのこの人、意味解んね~。
「あの、辺境伯殿、それは一体??」
「はっはっは、判らぬであろう、判らぬのも仕方が無いがな、私の初めは、驚いて開いた口が塞がらなかったほどであるからな。
まぁ物は試しだ、一緒に来ると良い。
ジュドー、馬車を用意しろ。」
「畏まりました、ですが、折角ですのでヘリの方が宜しいかと。」
「成程、ではそのように。」
「すでに用意は出来て居ります。」
騎士を中庭へと案内すると、既にヘリのエンジンは温まって居るようだ。
「あの、辺境伯殿、これは一体どのような・・・」
「はっはっは、まぁ乗りたまえ、乗って見たら判るさ。」
騎士を先に乗せ、私も乗り込んだ、操縦席にはジュドーが既に乗っている。
「では、参りましょう。」
ローターの回転速度が速くなっていく。
そして、ヘリが浮きあがる。
「なっ!? 何ですかこれはぁっ!?」
「何って、空を飛ぶ魔道具だ。」
「ひぃぃっ!お、落ちるっ・・・お、降ろして下さぁ~い!」
「大丈夫だから落ち着きたまえ。」
屋敷から飛び立ったヘリは、街の外に停めてあるジャイアントクルーザーの上部甲板へと降り、エレベーターで格納庫へと降ろされた。
「はぁ、生きた心地がしなかったですよ。」
「高い所は苦手だったかね?」
「むしろ逆に聞きますが、落ちる事なんか考えた事は無いんです?」
「いや、この魔道具の制作者がアレだからなぁ、そんな心配は一切した事が無い。」
「はぁ、本気ですか? こんな恐ろしい乗り物初めて乗りましたよ。」
「はっはっはっは、こっちは快適だから安心したまえ。」
ジャイアントクルーザーの内部施設を案内して周る。
「ここが食堂になる。
食堂ではいつでも好きな物が食える。
そして食堂のちょうど反対側にあるコッチの施設が、遊技場だ。
この遊技場では、1人でもルーレット等が楽しめる上に、自由に好きな飲み物がいつでも頂ける。」
「何なんです?これは、乗り物なのでしょう?」
「勿論乗り物だとも、ブリッジへ案内しよう。」
ブリッジへのエレベーターに乗り、ブリッジへ騎士を入れる。
「た、高いですね・・・」
「やはり高い所は苦手なのかね?」
「いえ、好きでは無いですが、苦手と云う程では・・・」
「では、出発しよう。
ジュドー、騎士殿を客用寝室に。」
「畏まりました。」
寝室に通された騎士は、そのクオリティーの高さに、むしろガックリ来ていたそうだ。
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王都邸で期日までゆっくり過ごしていたが、いよいよ今夜だ。
今日の日程は、先ず午前中に私の叙爵式、ここで侯爵の地位へと昇進する。
その後、セレナ様との婚約発表。
昼に会食会をし、一時解散、衣裳替えをして夕刻よりダンスパーティーとなる。
念のため、此方に到着した後にはすぐさま城へと赴き、王の体調を気遣いに見舞いと称して行ってみたが、既に王は生き生きとしていた。
本当に良かった、クリスには感謝してもし切れない。
お陰で私の株も跳ね上がったと言うものだ。
さぁ、そろそろ城へ赴かねばならぬ時間か。
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「セドリック辺境伯、前へ。」
「は、ただいま。」
数歩前に出て、傅く。
「面を上げよ、セドリックよ、此度の働き、大儀であった。
我が国を侵略より守り、又、朕の病をも治療するに至った経緯、見事であった。」
寄ってここに、侯爵への昇進申し付ける。」
「有り難き幸せに御座います、益々精進し、国の為、民の為に尽くす事を誓います。」
「おめでとう、セドリック侯爵。」
「有難うございます。」
これで一旦、下がる事に成る。
そして、その他の何かの功績を上げた者への表彰や叙爵が行われた。
叙爵式が終わった後、王が未だ謁見の間より退室しない様にと促す。
さぁ、いよいよだ。
「此度の、ランクル帝国よりの侵攻により、第四王女セレナの婚約は破棄されたのは皆も知る所であろう。
そして、その進行を食い止め撃退したセドリックは、未だ婚姻を結んで居らぬ。
両名は、この王都の貴族学園で、同級の学友であった事もあるので、この両名を婚約、婚姻を結ばせるものと致したい、この決定に対し不服の在る物は居るか?」
しばしの沈黙が謁見室を支配する。
「どうやら反対意見は無いようであるな、それでは、セドリック侯爵、此方へ。」
「は、ただいま。」
「セレナよ、近う寄れ。」
「はい、父上。」
「セドリック、並びにセレナよ、貴公らも宜しいかな?」
「はい、有り難き幸せに御座います、父上。」
「陛下、これ以上無い幸せで御座います、このセドリック、全力でセレナ様をお守りし、幸せに致す事を誓います。」
「宜しい、セレナよ、念願叶ったのう、幸せになるのだぞ?」
「お父様、有難う御座います。
思えば私は、学園時代よりセドリック様をお慕いいたしておりました、これ以上の幸せは御座いません。」
「陛下、私セドリックも、学園時代よりセレナ様をお慕い致して居た次第に御座います、此度の采配、大変見事に御座いますれば、セレナ様を我が妻と迎えられる喜び、感謝を申し上げとう御座います。
此度は大変、おありがとうございました。」
セレナ様の目に、涙が溜まって居るのが判る、そして私にも・・・
「時に、両名よ、セレナは年齢的には、既に塔に子が居ても可笑しく無い歳になってしまって居る。
そのまま、連れ帰っても良いが、いかが致すか?」
「お、お父様、宜しいのですか??」
「良い、良いともセレナよ、辛い思いをさせてしまい、済まなかった。」
「陛下、有り難き幸せに御座います、では、我が自慢のジャイアントクルーザーにてセレナ様を輿入れさせてしまうお許しを頂きます。
後日、王都は貴族会館にて披露宴を行わせて頂きます。」
そう挨拶をすると、セレナ様が私にハグして来た。
他の貴族からも、拍手が漏れ始める。
「では、本日の謁見はこれまで、貴族会館にて会食会の準備が出来て居るので、又後で見えようぞ。」
王は立ち上がると、謁見室を上手に退室された。
私は、セレナ様をエスコートして貴族会館へと向かう事と成った。
私とセレナ様の席は、国王のすぐ近く、主賓の席で並んで居た。
もう、その緊張から、何を頂いたのか、いかな味であったか等、全く覚えていない。
午後よりのダンスパーティーでは、私の新たな寄り子となった、もいや、子爵を新興貴族として他の貴族達へと紹介して周る方が忙しくて、殆ど踊る事は出来なかったが、ラストダンスだけは、セレナ様と踊れと言うリクエストが多く寄せられた為に、丸々一曲踊り、セレナ様とお互いの気持ちを確かめ合う事が出来たのだった。
ああ、明日からの生活がバラ色に見えるようだ。
今日の会が終わり、セレナ様は一度自室へ。私は、ジャイアントクルーザーを起動しに王都の外へと向かい、翌朝、再会するに至った。
セレナ様のお気に入りの調度品や衣装などを、王城の中庭へ用意させると、4機のヘリを二往復づつさせ、ジャイアントクルーザーへ強化装甲で積み込む。セレナ様には、天蓋付きベッドの設備のある部屋を宛がい、連れ帰るのだった。
「あの、セドリック様?」
「何ですか?セレナ様。」
「これは一体、何なのでしょうか?」
「これは、ジャイアントクルーザーと言う、私の所有の陸上戦艦になります。
内部施設にはご満足いただけましたか?」
「ええ、満足・・・というか、このベッド、私の持って来た調度品のベッドより寝心地が良いのですけど?」
ああ、そうだった、そう言うレベルの代物だったわ、忘れてたよ・・・普通になっちゃってた。
慣れとは恐ろしい物だ、多分以前のベッドには戻れまい。
「お気に召しましたか?
ならばお部屋へと運び込ませましょう。」
「はい! お願いします。」
満面の笑顔で即答された、やはりセレナ様、お美しい、いや、お可愛らしい。
この笑顔に心臓を撃ち抜かれた気分であった。
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