第160話 サルべージ

          サルべージ

-ルーデリッヒ・フォン・バルデス(エリーmkⅡ)-

間も無く、オットー殿の魔物に襲われた海域と見られる、ソナーの反応も、下に何やら沈んで居る事を示し始めた。

「オットー殿、そろそろ指定海域に到着します。」

「ああ、何から何まで大変すみません、有り難い。」

「お気になさらずに、エリー様のご指示ですから、私はそれに従う迄です。」

本当は私自身なんだけどね。

「いえいえ、本当に何と礼をすればいいか・・・」

「本当にお気になさらずに。

ファム、サルべージ準備、目標、海底の難破船。」

『了解しました、探索の後、サルべージ開始いたします。』

「さて、これで後は船のAIに任せれば概ね終わります、オットー殿はエリー様より風の魔法書を賜って風の魔法が使えるようになったそうですな、昼食がてらお話をお聞かせ願えますか?」

食堂へ移動した二人は、周囲にオットーさんの船員も食事をしている賑やかな席で、向き合って会話を始めた。

「ええ、彼女は本当に大した賢者様ですよ。

船まで新調して下さって、感謝の念に堪えませんな。

私でお力になれる事があれば、何処へでもはせ参ずる所存だよ。」

直ぐにオットーさんの注文したパスタが運ばれて来た。

食事をしながら会話が始まった。

「私の様に?」

「そうですね、何かあった時には、微力ながらにもお手伝いさせて頂きたいと思っとります。」

「でも私は、この船に縛られた人形です、自由に動ける貴方とは違う。

なのでオットー殿貴方は貴方の使命を全うする事がエリー様への礼の証と成るのでは無いかと思うのですが。」

「成程、では私はこの魔法書で魔法を広め、自らも上位属性雷の魔導士へと至る事こそ・・・

うん、確かにそうかも知れない、事実、ここに無るまで毎日、イメージトレーニング、詠唱の暗記、魔法の行使と特訓を重ねて来て、ようやっと船を動かせる程の風を扱う事が出来るようになって来た所。

成れば私は、魔導士として、行く先々で魔法を広めるお手伝いをいたそう。」

「そうですね、それが一番、エリー様が喜ぶと思います。

あの方はご自分が開発した魔法と言う技術をこの世界に広めたいと常日頃から申して居ましたので。」

「ああ、あの人は本当に凄かった、可憐な姿であれ程苛烈な極大魔法を行使する、まさに大賢者と呼ぶにふさわしい。」

何だかすっかりエリーの信者と化してしまって居るオットーだった。

「ええ、残念ながら私は機関室にて調整して居て見逃してしまいましたが、エリー様の魔法はそれは美しくも強大で、何人であろうとあの領域に達する事は不可能では無いかと思わせる、少しでも近づく事こそあの方への恩返しになると思いますよ。」

エリーの並列存在の癖に、このルディー君はすっかり彼の人格をもコピーして居た。

更にルディーは続けて。

「実は私、あの方に作られたホムンクルスでありながら、実際に存在する、と言うか、した?いや、生まれる存在らしいのです、自分で言ってて解釈の仕方が判りませんが。

しかしあの方は何故か懐かしいような、そう言った雰囲気を感じるのです、もしかしたら、私はあの方の血族なのかもしれません。

いや、だったらいいなと思います。」

「成程、私はそう言う感覚は感じません、むしろ畏怖とか、憧れとか、そう言った様々な感情が入り乱れた何とも言えない気持ちになるので、きっとあなたはエリー殿の血族なんでしょうね、そう思いたいです。」

「あ、そろそろサルべージ作業は終わりそうです。」

「ははは、何でもすごい勢いでこなしてしまう、まさにエリー殿のお造りに成られた船だね。」

「では、そろそろ支度をさせて頂くとしよう。」

残ったパスタを、オットーはもったいないとばかりに一気にすすり上げる。

「そうですね、拾い上げた交易品等は既に積み込まれている筈です、後は皆さんが乗船されれば、この艦より船をクレーンで降ろして、メインマストの柱を立てるだけです。

全てこの艦がやってくれます。」

「何から何までお世話になってしまって、本当にありがとう、エリー殿にもお伝えください。」

「いえ、此方こそ貴重なお話を伺えました、良い航海を。」

こうしてオットーは、エリーに建造して貰った新造帆船に乗り込み、帆船の船旅を再開するのであった。

後に、風使いのオットーと言う二つ名を、各港街の人々より呼称される。

そしてその使命は、彼の息子へと受け継がれるのであった。

それは又別の話。

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