第148話 クリスの慟哭

          クリスの慟哭

「何で?何で開かないの?ザインの部屋!?」

 クリスが、声を震わせながら必死の形相でザインの部屋だった所をこじ開けようとしている。

 その眼には、溢れんばかりの涙を溜め、美少女が台無しな事に鼻水まで垂れている。

 私はザインを抱いてその現場を目撃してしまった。

 あらぁ~、不味い所に来たなぁ、クリス。

「クリス、ちょっと私の部屋に来なさい。

 キースも連れておいで。」

 と、少し強い口調で突き放すように声を掛けてそのまま通り過ぎた。

 そのまま私は自室へと戻り、ベビーベッドをクリエイト。

 ザインを寝かした。

 ちなみにザインの名前は、未だ未定になって居る。

 新しい名前を付けろと言う事なのだろう、クリスとキースの承認を貰ってから名付けをしようと思っている、勝手に付けようとは思って居ない。

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 もっとすぐに来ると思って居たんだけど、クリスが泣き顔を整えるのに時間が掛かったのだろうか、かれこれ1時間近くたつが、来ない。

 その間に、ザインは目を覚ましたので、ミルクを作って飲ませていた。

 私は母乳出ねぇから仕方ないよな。

 っつーか、多分必要成分と回復用と病原体排除のナノマシンを一緒に入れた上で電脳化ナノマシンも序でに配合してあるミルクだ。

 電脳化さえ出来れば、ザインの記憶のバックアップもクラウド同期で簡単に戻せる。

 多分あの苦しんで居た時に記憶も恐らくは、今はね。

 ミルクを飲ませていると、ようやく来たらしい、どうぞと促して招き入れる。

「さっきは取り乱して御免。」

「邪魔するぜ、エリー、女の子の部屋に入るのは少し気が引けるけどな。」

「キースは一言余計だぞ、そんなだからクリスが不安になっちゃうんだぞ?」

「で、エリー、用件は?ってその子は?」

「ああ、その事でちょっとな。」

「まさか、その赤ん坊って。」

「ああ、キース、お前にしては勘が良いな、そのまさかだ。」

「ザ・・・ザイン・・・」

「噓でしょ・・・」

「残念ながら、本当にこの子が、ザインだった子だ。」

「どう言う事よ、説明して、エリー。」

 クリスは冷静さを保とうとして居るようだが、その顔はこわばっているし、声も上ずって震えている。

「話し、長くなるけど良いかな?」

 事前に断ってから話を始めなければならない。

「クリス、気持ちはわかるが、落ち着いてエリーの話を聞こう、な?」

 キース、こう言う時はお前って割と頼れる・・・よな。

 そして、研究成果の一部始終を、小一時間かけてクリスに説明をする。

 そして、ザインの部屋での私とザインの話の様子を録画して居た映像と音声を出す事にした。

 それを見たクリスの瞳は、涙が止めども無く溢れていた。

 私の覚悟、ザインの覚悟、その全てが、クリスにとって、納得できる物でもあったし、逆にクリスの頭の中では納得出来るものでは無かった、きっと身を引き裂かれる思いだったのだろうと思う。

 そして、キースとクリスは、それぞれ自室へと戻って行った。

 そして、その直後から実に8時間近くもの間、クリスの部屋の前の通路には、クリスの泣き声が、慟哭が延々と響いていた。

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