第45話 生活訓練

          生活訓練

 奥さんの様子を見て抱きしめに行こうとするカイエンを止める。

「待て! 奥さんを絞め殺す気か!?」

「あ・・・そ、そうか、訓練・・・」

「そうだ、今のお前はサイクロプスすら殴り殺せる程だ、力の制御も出来ない状態で奥さんに抱き着いたらそれこそ大惨事になるぞ。」

「ああ、あれだけ耳が痛いほど聞かされたからな、忘れてない。

 で、その訓練は始めて貰っても良いのか?」

「ちょっとまってくれ、先ずはどの位の力が有るのかを認識して貰いたいんだ。」

「ああ、そうだな、それは俺も気になってる所だ。」

「そうだな、ではまずこれを。」

 そう言って私は、ストレージから割と硬いので武器に加工出来ると言う話だったから溜め込んであった熊さんの骨、それも一番太い太もも辺りの物を取り出した。

「ジャイアントベアの大腿骨か。」

「一目で判るとは流石だね、そうだよ、例えばこいつを思いっきり握って見ろ。」

「こ、こうか?」

 カイエンが骨の丁度げんこつに当たる部分を掴んで力を入れると、何の抵抗も無かったかのようにアッサリ砕けてしまう。

「こ、これが俺の力?」

「どうだ、こんなので奥さんに抱き着いたらただ事ではすまんだろ?」

「ああ、止めてくれてありがとう、感謝する。」

「もう一つ行ってみようか、これなんかどうだ?」

 今度は、植物油脂を絞りたくて切って来たは良いけど硬すぎてどうやって絞るか悩んでいたこの世界の木だ、地球のそれと同じ木の筈なのに地球のそれよりも遥かに硬度が高く、たった一本の木を切り倒すのに鉄製の鋸が4本も使い物に成らなくなった代物、そんな木の丸太を取り出した。

「奥さんに抱き着く積りだったんだろうからその代わりに抱きしめて見ないか?」

 ニヤリとほくそ笑んで聞いて見る。

「なんだか嫌味を言われている気がしてきたが、まぁ良いだろう、代わりと言っては何だけど、やってみよう。」

 カイエンが丸太に抱き着いてぐっと力を入れると、普段木々からは絶対しないような、擬音として書き出すと”グギョッ”とでも表現するのが近しいかと思われるような異音がして見事に潰れる。

「・・・流石にこれは凄まじいな。」

「そうだろう?さっき君はこの力で奥さんを抱きしめようと、もとい絞め殺そうとしてたんだ。」

「判った、もう言わないでくれ、大人しく訓練受けるからよ、な?」

「まぁ、問答無用で訓練はして貰わないと困る、私よりおまえ自身がな、カイエン。」

「ああ、どうしてそんな面倒な事をしなきゃなんねぇのかは良く分かった、始めよう、訓練て奴を。」

 私はストレージから、薬草採集の際に序に採って溜め込んで居た野鳥や魔鳥の卵を取り出して、解体台の上に置いて行った。

「カイエン、今お前は全身義体とのリンクがやっと終わったばかりなのでエネルギーゲージがほぼ空な状態だ、そこで、この卵で料理を作って自分で食べ、エネルギー補給をしろ、それが訓練だ。」

「そんな事で良いのか?」

「簡単と思うか? その力の制御が完全で無い状況で卵を割らずに掴めるとでも?」

「成程、つまりは卵を割らずに掴んで、調理をして旨い卵料理を作れるようになれば力の制御が完成と言う事か。」

「察しが良いな、その通りだ、一応レシピはそこのノートに書いてある、だがそのノートもこの世界の羊皮紙では無く植物由来の原料で作った紙だ、制御の出来ない状態で掴んでもくちゃくちゃになるだけで読める物ではなくなる、先ずは卵をしっかりつかめ。」

「判った、やってみよう。」

 そしてその後4時間程、カイエンは卵を掴めずにひたすら潰しまくった。

「くそう、難しいな、こんなに難しいとは思わなかったぜ。」

「いや、だけど私の見立てではカイエン殿は筋が良いと思うので腐らず頑張ってくれ、卵ならまだまだあるぞ。」

「ああ、任せろ、今日中にやり遂げて見せるぜ。」

「うん、良い覚悟だ。」

 ちなみに、奥さんのマカンヌさんは泣き崩れた後疲れちゃったようでその場でうずくまったまま寝てしまって居る様だ。

 今こそ旗振って応援してやって欲しいのだけどねぇ。

 その後1時間も経過すると、どうやらコツを掴んだようで、10回に2回くらいは割らずに持ち上げる事に成功し始めた。

「ほらな、言った通り筋が良い、あともう少しだな。」

「ああ、そろそろエネルギーゲージもヤバくなって来たからこの辺でがっちり終わらせたい所だな。」

 と、そこへ子供に起こされた奥さんが突然旗振り応援を再開した。

「あなた頑張って~! 卵なんか掴もうと思わなければ割れないわよ~!」

 こら、思いっきり正解をばらすなって、ってか何で判った!

「成程、掴むから割れるのか、それじゃぁ、こう、下からすくい上げるように持ち上げて、包むようにふわっと・・・・おぉっ!割れないぞっ!」

「さぁ今度はそいつを調理器具の上で割って調理するんだ、やってみろ。」

「そこはまた難しそうだが・・・こ、こうかな?」

 キレイに割ったじゃないか、やはりカイエンは勇者として剣を極めただけはある、器用なのだろうな、センスも抜群だ。

「出来たぞ、目玉焼きだ!これで多少のエネルギー補充が出来る。」

「流石奥さんだな、一言でカイエンに成功させやがったか、もう少し寝ててくれたら楽しめたのになぁ。」

「俺の困る所でも見たかったのか?趣味悪いぞ?」

「何を言ってる、楽しいじゃないか、じゃなくて苦労した方が忘れないだろう?」

「今楽しいっつったよな、お前。

 まぁ良いか、おかげで何とかなりそうだぜ。」

「ああ、もう大丈夫だろう、フィールド解除するぞ、奥さんとハグでも何でもしたら良い。 ただここでエッチすんなよ?」

「するかっ!」

「あなた~!」

「マカンヌ~!」

 暫く抱き合った二人だったが、子供に諭されて我に帰ったらしい、私にこれでもかと云う程お礼を言って帰って行った。

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 その晩・・・

「あぁぁン・・・いぐぅ~ダメダメいっちゃうぅぅぅ!

 もっとぉぉぉ! あなだあいぢでるぅぅぅぅ!!!

 またいっちゃう!ごわでぢゃうぅぅぅぅ!

 おがじぐなりゅぅ~~!!!

 らめぇぇぇぇぇ~~~!!!

 ・・・ぎンっっっもっぢいいぃぃぃひぎゅぅぅぅぅ~~~!!!」

 私の泊まって居る宿屋のほぼ真裏にあったカイエンの家から一晩中、悩ましい悲鳴にも似たマカンヌの喘ぎ声が延々と響き渡ったのであった・・・お前ら覚えとけよ?

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