第22話 困惑する領主
困惑する領主
聖女の出現より3日が経った頃。
グローリー王国に属する領主、セドリック・シーマ辺境伯は、あまりにも唐突な事に困惑していた。
たった三日でと思うかも知れないが、有能な執事兼諜報員であるジュドーのお陰でこの辺境伯は王族以上の情報網を築いていた。
「何なのだ、いったい何が起こっておると言うのだ。」
彼が困惑している理由は、突然に自分の領地に現れた聖女、そしてその聖女が齎したと言うローポーションだ。
「旦那様、此方がその薬で御座います。」
執事のジュドーが商業ギルドから直接買い付けてきたローポーションを辺境伯のデスクの上にそっと置く。
「ご苦労・・・これがローポーションかね・・・うっすら光っているように見えるが。」
「はい、この光を湛えて居るのが最大の特徴のようでした。」
「そうか、それではこれがどの程度の効果が有るものなのかと言う事だな。」
「でしたら、昨年西の森でのオーガ討伐の折に怪我をされて現役を退いた旦那様の私兵の元団長、ローレルをお呼びいたしましょうか。」
「そうだな、あ奴はこれまでの功績で新人教育に駆り出すと言う名目で解雇はせずに居たが、願わくばもう一度現場に復帰して欲しい人材だ。」
「では早速お呼び致します。」
「ああ、頼む。」
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「セドリック様、どのようなご用件でしょうか。」
ジュドーに先導され、杖を突いて左足を引きずったローレルが執務室へと連れてこられた。
「うむ、お前のその怪我なのだが、もしこの薬で治るものならば、もう一度部隊長として現役復帰して欲しいと思って居るのだ。」
と言って件のローポーションをとりだしたセドリック。
「こ、これが巷で噂になって居る”ローポーション”とか言う薬ですか。」
「うむ、お主の耳にも入って居ったか、どうだ、飲んで見ぬか?」
「し、しかし、このような高価な薬。」
そう、先日初めて市場にお目見えしたばかりの薬なので、どの程度量産出来るかも不明な物であり、高額で取引されていたのだ。
「いや、わしはお主の足が治ってくれて現役復帰してくれると非常に心強いと思って居る、このぐらいは安い物だ。」
実際、現在の新人教育でローレルが貰って居る給料の凡そ5か月分と言う高額だったのだ。
「しかし、もしその薬でも治らなかった場合、金を焼却抗に捨てるも同然ではありませんか。」
焼却抗とは、再利用の出来ない程になってしまった端切れや汚れが激しく使い物に成らなくなった雑巾等を燃やす為に掘られた穴の事である。
「私はそれでも構わんと思って居る。
それにだな、この薬、これほど規格外な薬が我がシーマ領のみに出回って居るとしたら、これはこれである程度隠蔽する必要性も出てくる可能性もある。
その効果の真意を確かめたいと言う部分も正直な話、あるのだ。
実験台になる気で飲んでくれぬか?」
「判りました、ご命令と有れば、実験台ともなりましょう。」
ローレルが薬を受け取り、一気に飲み干した。
するとローレルの体がうっすら輝きだし、そして納まった。
心なしか痛みが治まったかな? と思いつつ、恐る恐る怪我をしていた左足で片足立ちを試みたローレル。
そして、ローレルは倒れ込む事も無く、一年間ほぼ動かして居なかった事で筋力こそ落ちては居たものの、片足立ちに見事成功したのであった。
「セドリック様、立てます、立てますぞ!」
「おお、良かった! 明日からお主も体を動かし、現役復帰へ向けて訓練を再開して欲しい。」
「はい、ありがとうございます! この命尽きるまで、誠心誠意お仕えいたします!」
ローレルは、足が動くようになった喜びを噛みしめるかのように小躍りしながら退室したのだった。
「さて、ローレルの足が治ったのは良かったが・・・」
「ええ、左様ですね、旦那さま。」
そう、今度はローポーションのぶっ壊れ性能が問題になる。
「仕方が無いか、このローポーションの出所の教会を当たってくれ、これがどの位のペースで生産出来るかを調査せよ。
もし材料等が手に入らず生産が追い付かないような物であった場合、それなりの対応をせねば成らないだろう。
状況を見てから判断せねば成らない問題だ、そして聖女の所在が明らかになったらそれも報告を頼む。」
「は、かしこまりました、では早速情報部へ。」
始めにも触れたが、ジュドーはただの執事では無い、彼は手練れの諜報員でもあるのだ。
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