起床
「おはようございます、一宏様」
聞きなれた玲の声が耳に届いて、意識が覚醒した。
「っ……」
目を開けると傍らに玲が正座で控えていた。
恰好も着物に割烹着で、いつもの玲の格好だ。
「……時間通りか?」
「はい。朝の7時です」
「そうか……」
つまり、玲は7時よりも前に起きていることになる。
これもいつも通りだ。
「ふぁ……」
大きなあくびが漏れる。
起きたばかりの体が睡眠を求めている証拠だ。
睡眠時間は7時間以上取れているはずだが、それでも寝起きは眠い。
「まだお眠りになられますか?」
「……いや、起きる」
「かしこまりました。では、着替えをさせていただきます」
「ああ……」
体を起こすと玲が近づいてくる。
玲は掛け布団を剥ぐと手早くジャージのファスナーに指をかけ、勢いよく下ろした。
「一宏様、腕を」
「ああ……」
腕を持ち上げると上半身のジャージを脱がされ、代わりにワイシャツの袖が通される。
皺一つ無い、しっかりとアイロンがかけられた真っ白のワイシャツ。
玲の細い指が、1つずつボタンをとめていく。
「一宏様」
「ああ……っ、しょっと」
立ち上がった途端、すかさず玲に下半身のジャージをはぎ取られる。
夜伽の時は俺が脱ぐことを拒むくせに、朝になった途端にこれだ。
玲は自身が教育されてきた内容のちぐはぐさに何も思っていないのだろうか。
玲にされるがままに、黒のスキニーを履かされる。
玲の手がファスナー、ボタン、ベルトと次々に着替えを進めていく。
「終わりました」
脱いだばかりのジャージを胸に抱えながら、玲が俺から離れる。
今朝の玲の様子はとことんいつもどおりだ。
凛としていて。
機械的で。
夜伽の時の玲は別人だったと言われても納得してしまうくらいに優秀だ。
昨日は夜伽が終わった頃には死にそうで、
俺がシャワーを浴びてから戻ってもまだ片付けが終わっていなくて、
結局は俺の手を借りながら片付けて、
部屋から出ていく時には四つん這いという有様だった。
そんな玲は俺よりも遅く寝て、俺よりも早く起きて、そしてすっかりいつもの玲に戻っている。
夜伽の度に思うのだが、玲は就寝によるリセット機能が優秀すぎやしないだろうか。
「……」
「……一宏様? 昨日の分では足りなかったでしょうか?」
試しに尻を触ってみたが、玲は昨日のように喘いだりしない。
それどころか眉一つ動かさず、冷静な表情を一ミリも崩していない。
「一宏様がお望みでしたら、朝食前にお相手を務めさせていただきますが」
「いや、別にそういうんじゃないんだが……」
「?」
「……どっか痛かったり、辛かったりはしないのか?」
「一宏様にご心配をおかけするようなことはありません」
「いや、心配とかじゃなくて……単純な好奇心なんだけど……」
「左様ですか」
「……」
「…………下半身が筋肉痛です。少々」
「そうか……」
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