第17話 人生のバイブルは美少女ゲーム?

「マツダイラモトヤス、松平元康。うーん

 絶対聞いたこと有るんですよ。

 誰でしたっけ?」


 三浦葵衣が大原刹那に言うのである。


「いやー、俺は聞いたコト無いな。

 俺が知ってるマツダイラって言ったら、サンバ踊っちゃう人だぜ」

「だー、サンバじゃ無いです。

 マツケン様じゃないんですよ。

 だいたいその省略の仕方だと、モトヤスさんなんてマツモト様ですよ。

 ドラッグストアですよ」


「そりゃマツキヨだからキヨシだろ。

 この世界ドラッグストアってどーなんだろな」

「アレじゃないですか。

 薬を売って歩く人、旅の行商人、富山の薬売り」


「富山の薬売り!

 伝説で聞いたコトあるナニカだな。

 都市伝説じゃなかったのか」

「都市伝説じゃないです。

 何かの雑誌で見ましたよ。

 ビジネスモデルとして再評価されてるって。

 会社や家庭に薬箱を置いてもらって使った分だけ請求。

 ウォーターサーバーやネスプレッソ。

 企業に入ってるビジネスにも影響与えてるってハナシです」


「マジか!

 富山の薬売りすげー」

「古きをたずねて新しきを知る、ってヤツです」



 セツナはノートPCをデイバックから引っ張り出したりしてみる。コイツは前は何でも調べられる魔法の箱だったのだ。今ではタダのヤクタタズ。

 バッテリーは少しでも消耗しない様に外してある。それでも少しづつ無くなって行ってしまうハズ。


「あのさー、Google様のキャッシュから取り出せないかな。

 戦国の情報とか」

「キャッシュ情報ですか。

 セツナさん、戦国自体のコトとか武将のコトとか調べた覚え有ります?」


「無い!

 キッパリハッキリ、間違いなく調べたコト無い!」

「胸を張らなくて良いです。

 んじゃ、ムリですね」


 ちぇー、セツナはノートPCをしまうため、デイパックを開く。取り外したバッテリーやらスマホが入ってる。一緒にCDケースも見える。

 アレである。『電脳遊戯研究会』のイトゥーくんから貰ったシロモノ。



「ああ、イトゥーくん、どうしてっかな。

 ゲームの感想教える約束してたのに……

 裏切っちまったな。

 俺が居なくなったって、ケーサツ沙汰とかにしてくれてるかな」

「ウチの親もさすがに一ヶ月連絡つかなきゃ、ケーサツに届けてると思いますけどね」


「でも日本のケーサツだって、この世界までは追って来てくれないよな」


「……セツナさん、今ゲームって言いましたよね?」


「ん? そーだよ。

 イトゥーくんから預かったゲーム。

 感想教える約束してたのにな。

 もうとっくにナツコミ終わっちゃったろ」

「それです!」


 なにが? ……と言いかけてセツナも気が付いた。

 イトゥーくんは『戦国美少女ゲーム』と言っていなかったか。


 セツナはノートPCにバッテリーを突っ込んで、電源を入れる。ランプも付かないウチにドライブを開けてCD-ROMを突っ込む。

 すぐ後ろにアオイも寄ってくる。


「ホントに情報有るかな?」

「うーん、少なくとも有名武将の名前くらいは確認出来るでしょう。

 シミュレーション系って言ってましたよね。

 武将とか地名情報まで出てれば良いんですけど」


「そりゃ欲張りすぎじゃねーか」


 PCが起動してCDを読み込む。ドライブランプがチカチカして画面に何か立ち上がる。

 『戦国に舞う、戦乙女』

 そんなタイトルが現れ下にはインストールボタン。


「ああっ、メンドくせー」

「早くしてください、早く!」


 セツナがインストールボタンを押すと、画面が切り替わる。下には〇〇%と数字が出て進行具合を教える。背景は煌びやかな画面、二次元美少女なのである。鎧や兜を着て、剣や槍を構える少女。何故だか胸元やウエストは生身の素肌を晒しているのである。胸も腹も出して無いと思うと生足、太ももばいーんだったりするのである。

 そんな画面を後ろでは後輩女子が見ているのである。

 18禁ゲームじゃないのだろう。決定的なシーンは無いが……なんだか温泉に入ってるらしき美少女とか、着替えてるらしいシーンが次々映し出されるのである。ウルトラ気まずいのである。 


「は、はははは。

 イトゥーのヤツもしょうがねーな」

「フーン」


 イトゥーくんのせいにしてみるが、後輩女子は冷たいマナザシなのである。


「大原会長。

 生身のアイドルだけじゃなくて、そっちの趣味も有ったんですね」

「ちっ、ちげー!

 イトゥーくんのだよ。

 オマエだって知ってるだろ」


 なんだか言い訳してしまうセツナなのである。アオイの呼び方までセツナから大原会長に戻ってるし。

 

 しかしアオイはそんなコトは気にも止めす、画面を指して言う。


「おっ、終わったみたいです。

 早く進めてください」


 セツナが画面を見るとインストールは終わったらしい。ゲームのスタート画面、中央にはSTARTボタンが見えている。


 STARTボタンを押すと、説明文が流れ出す。


『時は戦国、天正10年6月2日。

 天下統一を前に織田ノブナガちゃんは、哀れ明智光秀の裏切りでこの世を去ってしまったのでした』


 なんだか黒髪の眼つきがキッツイ美女が映し出され、その姿が黒いワクに収まる。この美女がノブナガ様で死んじゃったと言う意味か。更にハゲ男が悪い顔で笑ってる。これが明智ミツヒデ……ミツヒデは美女じゃないんだ。


『……しかし』

 そこで画面は切り替わって、サル顔の青年が映し出される。猿顔の青年てゆーか、まんまサルじゃん、みたいなの。

 その青年がキツイ目つきの美女に蹴られるのである。


「サルッ! とっとと私の仇を討ちなさい」

「分かってますよ、ノブナガちゃん」


「ちゃんじゃない!

 私はお前の主君だ。

 ノブナガ様と呼べ!」

「そんなー、水くさいじゃないですか。

 ノブナガちゃん」


「ちゃんじゃないと言うのに……

 良いか、サル。

 首尾よく裏切者のミツヒデを倒したなら……

 お礼に私がイーコトをしてあげるぞ」

「イーコト?!

 やります、やりますっ」


『かくして世間の目を欺き、生き延びていた織田信長。

 木下藤吉郎は彼女の為、明智光秀討伐隊を組織するのであった。

 あなたはトーキチローです。

 部隊を組織して、明智光秀を倒してください』


 なるほど。ゲームの主役は秀吉であるらしい。美女な信長はチラリと胸元をはだけて、下着らしきものを覗かせて秀吉に上目使いなのである。イーコトと言うのがどんなコトなのか、あからさまなのである。

 信長は生き延びていて、ほんでもって美女で、その色気に惑わされて主役は戦うと。そーゆー設定のゲームなワケだ。

 

 なんだか後ろで見てる後輩少女が気になっちゃうセツナなのである。イライラしてるオーラを出してる気がしてるのである。

 美女に惑わされてニヘニヘみたいな萌えーなのもセツナは別に嫌いでは無いのだ。男の子なのである。モチロンである。二次元では有っても、都合よすぎても。えちえちな格好の女の子とか、見てて楽しいに決まってる。

 だけど。

 後ろから後輩女子に見られながら、そんなゲームやるとか。ナニコレ、羞恥プレイ。精神がガリガリと音を立てて削られていくのである。


 一端メッセージが止まって、ゲーム画面は部隊を組織するような画面になっている。


「それです。

 キャラクターの横に出てるステータスボタン!

 ステータス映してください」


 後輩女子の言う通りにしてみると……キター!


【木下藤吉郎】

通称:トーキチロー、後の関白・豊臣秀吉トヨトミヒデヨシ

産まれは一般庶民だが、織田信長に気に入られる。美濃の攻略、墨俣一夜城建設で名を上げ有力武将の一人となる。その後明智光秀に討たれた信長の後を継ぎ戦国をまとめ、公家の頂点である関白職となり豊臣秀吉を名乗る。


 ゲーム的なステータス強さやら素早さやらと一緒に数字が出ているが、そんなの知ったこっちゃ無い。欲しかったのはこの武将ウンチク。ウィッキーさんに比べれば微々たる情報量だが無いより1000倍マシ。


「これ、全部の武将に有るのか」

「有ればサイコーです。

 知識チートも夢じゃない」


 トーキチローの配下にいる男達。顔はノッペラボー、タダの雑魚っぽいけど、一応名前が付いてる。池田恒興、丹羽長秀、覗くけどウンチクは着いてなかった。

 前田利家、このキャラだけ顔が有るとゆーか美少女だ。ショートカットで槍を持った美少女。


【前田利家】

幼少期から信長に使える少女。『槍の又左』と呼ばれる槍の遣いて。

成り上がりのトーキチローと仲が悪く見えるが、実は信長ちゃんと仲の良いトーキチローに妬いている。

某有名傾奇者・前田慶次の叔父に当たる。


「……これさ、ゲームの設定と史実が入り混じってて分かんなくね?」

「うーん。ナニがホントウだか、難しいトコです。

 でも前田利家って名前聞き覚え有りますよ」

「俺も前田慶次は知ってるぞ」


 セツナが知ってるのはマンガだ。セツナが産まれる前に週間少年チャンプで連載されていたモノだが、未だに外伝が連載されている。だからコンビニで廉価版が何度も発売されてるし、パチンコに使われてテレビCMも見かけるのである。



「なら、そのマンガに戦国時代の人も出てたでしょう」

「うーん、覚えてない。

 確か……ノブナガ様が死んで大分後なんだよ。

 ああ、でも秀吉出てたな、エライ人なの。

 怖いキャラのようで意外といいヤツみたいな。

 そー言えば前田利家も居たかも。

 主役のオジキ、性格ワリィ悪役なの。

 卑怯で臆病、イイトコ無しなんだけど何故か奥さん美人なの。

 そいで主役はちょっと奥さんに憧れてるのな」


「セツナさんに不倫願望が有ると言う話は後にしましょう。

 ノートPCのバッテリーも限りが有ります」

「俺のハナシじゃないー!

 マンガの前田慶次の設定だってば」


 アオイは既にトーキチローや前田利家のウンチクをレポート用紙に書き込んでいる。

 セツナも慌ててノートPCを弄るが……ダメっぽい。主役のいると思しきマップ、そこにいるキャラはさっきの部下たち。前田利家ちゃん、池田恒興、丹羽長秀。別の場所に人影は居るのだが、マウスカーソルで選択できない。他のキャラクターもマップに見えてるのだが、ステータスを見る事まで出来ない。



「これ、ゲームを進めて敵を配下にして行かないとダメみたいだな」


 戦国シミュレーションゲーム、こんな時にやらなきゃいけないのか。ウソでしょ。

信長が美女にされてるよーなゲームだし、多分難易度低いよな。それでもスマホのカジュアルゲーじゃ無いのだ。どれだけ時間かかるんだよ。


「だー!!

 貸してください」


 切れたのはアオイ。ノートPCを奪ってゲームのウインドウ切りやがった。

 しかも『SAVEしますか』と画面に出てるのに『NO』押してやがる。ナニしてんの、ナニしてんの。


「おいおい、何してんの」


 セツナが言うとギロリと後輩女子が睨みつけるのである。おっそろしい視線なのである。


「……アオイさん、落ち着きませんか?」


 思わず後輩をさん付けしてしまうセツナなのである。

 後輩女子はノートPCのキーボードを何やらガチャガチャやっている。セツナが画面を覗き込むと……画面いっぱいにバグった文字が並んでいるのだ。


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 みたいなの。これはヒドイ。見てるだけで頭おかしくなりそー。


「何してんだよ、アオイ。

 壊さないでくれよ」

「黙っててください!

 ゲームDATA直で覗いてんです。

 どっかにパラメータやコメントデータ絶対有ります。

 同人ゲーなんだし見れないハズありません」


 なんのこっちゃ? ひょっとしてアオイってばハッカーだったりしたのか。ゲームからなにか特殊スキルで情報だけ抜き取れるの?


「特殊スキルじゃないです。

 どんなゲームだって誰だって出来るんです。テキストで覗けばプログラム覗けるんです。

 プロが作ってたら文字データも簡単には覗けなかったりしますが、大学の同好会が造ったモノならどこかに素のテキストデータ有ると思うんです…………

 有りました!」


 アオイに言われてノートPCを覗くとバグった画面の中にマトモな言葉が。

 

通称:トーキチロー、後の関白・豊臣秀吉トヨトミヒデヨシ

産まれは一般庶民だが、織田信長に気に入られる。


 それもさっきゲーム内で見た文字がそのまま映っているのだ。


「OKです。この周辺見て行けば全武将のテキスト見られるハズです」

「マジか? やるなアオイ。

 ……しかし作った人、イトゥーくんに少し悪い気がしちゃうな。

 チート改造以上にヒドクねーか……」

「だー!!!

 通常時なら! 確かに失礼な行為ですが。

 現在はそんな場合じゃ無いでしょ。

 必要悪です。

 このゲームの情報は天の助けです。

 人生を生き抜くためのバイブルです。

 きっとイトゥーさんもこのゲームがあたしたちのバイブルになったと知ったら喜んでくれます」


 いや、必要悪ってそういう意味じゃ無かったと思ったが。アオイの目は血走っているし、まー確かにそんな場合でも無い。


「分かった。んじゃ俺がテキストデータ探すよ。

 お前レポート用紙に書き留めてくれ」


 かくしてセツナとアオイは武将のウンチクを書き写している。だが早々に驚くべき情報で二人の手は止まるのである。


「おっ、徳川家康来たぞ」

「イエヤス様。

 大物ですね」


「これって?!」

「どーしました、セツナさん」


 ノートPCには出ていたのである。



【徳川家康】

若い頃は松平元康と名乗っていた。

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