第14話 マツダイラモトヤス

「あのな、イマガワヨシモトってのは……」


 大原刹那は二人の男に聞き込みをしている。

 この世界で生きていくためにイロイロ情報収集してるのである。頑張ってるのである。褒めて欲しいのである。

 内心は、チキショウWikiさん、いまこそ役に立ってくれよ、とか思ってはいるのだが、『スマートフォン電波なければ、ただのハコ』なのだ。


 彼らの言う所によると、イマガワとゆーのは元々遠江の守護。現在セツナがいるのが遠江国、その東の方が駿河。駿河も現在ではイマガワのモノ。

 足利将軍家と近い家柄で偉そうにしてるだけのローカル大名だったイマガワ。

 ヨシモトが大名を継いで変貌した。『今川仮名目録』とか言うイマガワの法律を作った。これってばアシカガにはもう従いませんぜってコトらしー。


 甲斐の武田家、相模の北条家、さらにイマガワで駿河の領土を取り合ったらしー。

 相手はセツナも聞いたコトのあるメジャー戦国大名。ピンチな状況。北条と結んで武田と争ったり、武田と結んで北条と争ったりいろいろしてたのだが、上手いコト二家と縁を結んで同盟を組んだ。

 結果的に駿河はほとんどがイマガワのモノとなった。タケダともホウジョウとも同盟を結んでノリにノッたイマガワ。三河に攻め入り、さらにその先尾張も窺う。

 

 そして出てくるのが織田。三河の西にある尾張の大名。

 尾張の有能大名、織田ノブヒデが死んで変人と名高いノブナガが跡目を継いだ。周りの人間は今がチャンスと攻め入るが、なかなかどうして。『尾張の大うつけ』等と呼ばれていたのに意外と頑張る。

 

 『美濃のマムシ』斎藤道三、『海道一の弓取り』今川ヨシモトに攻め込まれても踏ん張る。

 ノブナガの実の弟、信行が離反。家老で豪勇と呼ばれる柴田勝家が信行の味方をする、ノブナガ絶体絶命! ところが、それをするりと躱してみせた。斎藤ドーザンの娘を正妻として娶った。梟雄として名高いドーザンを後ろ盾に着け、尾張内をまとめる。

 ノブユキを下し、柴田カツイエを再度家来とした。他にも織田家内部争いは苛烈を極めたらしいのだがその中で勝利をもぎ取って、尾張は繁栄に向かっていると言う。


 って言うかー、情報イキナリ有り過ぎ!

 地名が分からん。遠江ってどこ?! 駿河、三河、尾張。全部日本語にしてくれんかな。いや、日本語だったか……令和語でヨロ。

 ドーザンとかカツイエも聞いたコト有る気はするんだが……



「ただな、春になったらイマガワが大軍で攻こむってウワサだ」

「オダじゃかなわねーと思うぜ」


「そうなのか?

 今のハナシじゃオダだって結構出来るんだろ」


 とゆーか、セツナは知ってるのだ。知っちゃってるのだ。織田ノブナガ、ノブナガ様である。日本史の数ある偉人の中で坂本竜馬と一、二を争う有名人。

 つまるトコロ、イマガワとノブナガが争うなら織田ノブナガが勝っちゃうのだ。セツナだって知ってるのだ。そのハズなのだ。

 ……アレもしかして……イマガワって……



「人数が違うな

 イマガワは松平も仲間に付けて、多分数万の軍団だーな」

「オダはいくら頑張っても一万行くかどーかじゃねーか」

 

「マツダイラは頼りになるぜ。

 あの三河侍ども、当主の松平元康が人質に取られてるからよ。

 必死で戦うんだ」

「オダはな。

 若いのはノブナガに傾倒してるようだが、年寄どもはまだ反発が根強くあるらしーぜ」


「お前ら、いろいろ知ってんな」


「アタリマエよ。

 戦がありゃ、そこに参加して稼いだりもするんだ」

「どっちが勝ちそうか、調べるに決まってんだろ。

 負ける側に着いちまったらサイアクだぜ」


「それにアニキがやたら、オダに詳しかったからな」


 アニキ?、アニキってあれか。薛茘多プレータと一緒に逃げちゃった男。この二人の男たちはチンピラ風。それより遥かに殺気立ってた危険な雰囲気を漂わす侍。

 

 その男のコトを訊いてみようかな、セツナがそう思った時。



「そうか、マツダイラは強いか」


 そう声が聞こえた。

 セツナが振り向くと三人男が立っていた。

 

 多分偉い人。着てる着物が偉そうだ。セツナに着物の区別などつかないが抑えた色合いに細かい模様で彩られているのだ。

 セツナが着ている柔道着モドキとは値段が十倍は違うだろう。いや下手したら100倍かもな。


「殿、あまり気にする物では有りません」


「いいだろう。世間のマツダイラへの評価を知るいい機会だ。

 なぁ、平八郎」


「はいっ。モトヤス様」


「マッ……松平元康様?!」

「なっ……殿様?!」


 セツナの前で二人の元盗賊は慌てて頭を下げてる。

 え、え、俺もアタマ下げないとマズイ? 「無礼者」とか言われて切られちゃう?



「よいよい、気にするな」


 その松平モトヤスとか言う若い男が言う。

 セツナの見た処、セツナより若そう。一つか二つ下じゃねーの。


 後ろに居る中年男は武装している。兜こそ付けていないが甲冑を付けて腰には刀を持っている。グリーンの鎧、何となく温和そうな雰囲気。

 さらにヘイハチロウと呼ばれた少年。顔立ちは若そう、まだチューガクセーくらいじゃねーの。だけど背は高く、体格は良い。高校生くらいは有る。中年に比べてケンカっぱやそうな危険な雰囲気。ツッパリチューガクセーか。


 そして松平モトヤス。

 セツナより年下だと思うのだけど、雰囲気が違う。

 後ろの中年男は年上なのだけど、見た目にモトヤスの方がエライとゆーのが伝わって来ちゃうのだ。

 ふんぞり返ってエラそうと言うんじゃない。ピンとした背筋、前を真っすぐ見る視線に卑屈なモノが無い。

 スポーツマン風。セツナより少し背は低いだろう。だけどガッシリした体格、小柄には見えない。テニスとかバスケみたいなカッチョイイスポーツの雰囲気では無い。山岳部とかラグビー、柔道みたいなアレ。それでいて脳筋なカンジもしないのである。

 この人は信頼できる人。そんな気がしちゃうのである。カリスマ性ってヤツだろうか。


 

 セツナも頭下げようかなー、なんて思ってるとモトヤス君が言ってくれた。


「良い良い、楽にせよ」


 それでセツナは頭下げるの止めてしまったが。元盗賊二人はまだかしこまった風情。


「マツダイラは強い、と言われておるか?」


「はいっ!

 それはもう……三河侍の強さは誰でも聞いています」

「それを従えるモトヤス様の偉大さも」



「トノ、やはり元康様の偉大さは知られているのだ」


 ヘイハチロウと言う名の若者は喜んでいる様だ。モトヤス君の方はそうでもない。


「ヘイハチロウ、あれは世辞と言うモノだ。

 自分は本当の話が聞きたかったんだが。

 そこの男?

 其方はどうだ?」


 エッ? モトヤス君の視線はセツナに向いてる。

 えーとマツダイラ? 知らない。

 知らないけど、それ素直に言って良いの?

 モトヤス君は笑って許してくれそうだけど……後ろのヘイハチロウとか中年男は許してくれそうに無いよ。


 

「正直に申して良いのだぞ」


「申し訳無いんですが……

 マツダイラ……分かんないです。

 自分はこの辺に来たのはつい最近でして、この辺りの事はよく知らないです」


 モトヤス君が正直に、と言うのでホントに正直に言ってみる。とりあえず頭を下げて丁寧な言葉は使っておく。

 


「ハッハッハハ」


 予想通りモトヤス君は笑ってくれた。

 こっちも予想通り、ヘイハチロウと中年侍は殺気立っている。

 中年侍は腰に刀持ってるし、ヘイハチロウの方は槍を持ってるのだ。

 槍?!

 ヘイハチロウが持ってるのは途方も無く長い。 身長の3倍程度じゃ効かない。セツナが練習してるのが4メートルくらい。その倍は間違いなく有る。10メートル近く有るのかも。

 ナニアレ? 槍なの? 槍のギネス記録でも目指してんのかよ。


 そのアホみたいな槍を握りしめたヘイハチロウ、年若い少年が殺気立つのだ。

 毛が逆立って瞳が赤く光る。顔こそ少年の顔だけど、セツナよりゴツイ身体に筋力が漲るのが分かっちゃうのである。

 えー、俺マズった? だってしょうがないじゃん。

 二人の元盗賊を真似てオセジ言おうにもオセジ言う為のネタを知らん。相手の機嫌取るんだってそのタメの情報とゆーヤツが必要なのである。

 


「コラコラ、ヘイハチロウ、殺気立つな。

 正直に申せ、と言ったのは自分だ」


 モトヤス君が諫めてくれる。ありがたい。

 セツナより少し年下だと思うのにな。フツーなら自分より年下のガキがなんだか高そーな服着やがって、二人も取り巻き連れてんのか、とムカついてもおかしくない。でも頭下げてるコトに、ムカつかないのである。

 この人、やっぱカリスマ性有る。なんだか無条件で信頼できる気がするのだ。人間が出来てる。若いのに苦労でもしてきたんだろうか。


「フム、良いだろう。

 我らは寿桂尼じゅけいに様の知り合いでな。

 しばらくここに世話になる。

 よろしく頼むぞ」


 中年侍が言う。こっちも一瞬殺気だっていたのだが、ヘイハチロウとは年季が違う。すでに殺気は抑えて温和な雰囲気を出してる。

 モトヤス君も言葉を重ねる。 


「柳生宗厳殿もこの寺に居るそうだな。

 ムネヨシ殿はどこにいるか知っているか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る