第13話 異人さんに攫われた
三浦葵衣が大原刹那に言うのである。
「考えたんですけど、異人さんに攫われて帰ってきたって言う設定はどうでしょう?」
「なんだ、それ。
赤い靴履いてた女の子~、か?」
「それは明治以降、文明開化してからです。
つまりなんか……同情を誘うような感じで、ですね。
子供の頃外国人に攫われて、こき使われていたんですが、
なんとか逃げて生まれ故郷の日本に辿り着いたんです……
みたいなカンジの設定に出来ないかなと」
「あからさま過ぎないかー。
どこの『シンデレラ』だよ。
お前は『母をたずねて三千里』か、って言われて終わりじゃねーの」
「『レ・ミゼラブル』とか『家なき子』の方が状況に近い気もしますけど。
未来から来ました、あなた達の子孫です、と言うよりはマシかなと」
「そうだな、それじゃ『ノラえもん』だ」
国民的アニメ。子供の頃見なかったヤツは居ない。未来から来たノラ猫型ロボット。猫というよりタヌキの置物だろみたいな体形では有るけれどな。
セツナと三浦葵衣は既に山寺に世話になって一ヶ月以上経っている。
どこから来たんだと問われるコトもトーゼン有るのだ。あはははは、なんかその辺からといい加減に誤魔化してきたのである。そろそろテキトーに誤魔化すのは限界なのでは、そうセツナもアオイも思っているのだ。
「そーゆーコトにすれば、この世界のコトあまり知らなくても不思議は無いですし。
大っぴらに色々聞き込み出来るじゃないですか」
「まー、確かにな」
ここはどこで東京に帰るにはどーしたらいーの?
その疑問をセツナもアオイも回りにあまりぶつけて無いのだ。どう考えてもこちらが怪しまれて終わる。
この山寺は来訪者や訳アリの客が多いらしく、セツナが自分のコトを語りたがらなくても許された。
「分かった。
その設定、通じるかどーか、訊いてみるよ」
「えっ……誰にですか?」
ナイショなのである。あまりアオイにはバラしたくないが、セツナは多少仲良くなっていた。誰とかと言うと。
「あのさー、どう思う?」
セツナが訪ねているのは寺に居る男、白の作業着を着せられている。袈裟なんて呼ぶような立派なアレじゃない。セツナの感覚で言うと柔道着みたいなヤツだ。ゆったりした和服をテキトーな帯で締めている。元は白い服だが、既に着古して汚れているのである。
「あのなー、なんで俺らに訊くんだよ」
「俺はてめーの仲間じゃねーぞ」
彼らは元盗賊、セツナに絡んできたチンピラである。アニキ分に逃げられた二人組。
ムネヨシに捕まった彼ら、山寺でこってり説教されたりはしたみたい。だが、親分格が逃げた、見捨てられたと言うコトでそのまま寺で下働きとしてこき使われているのだ。
この男たちは現在、山に登って取ってきた木を斧で割って薪をこさえているのだ。
セツナも斧で木をエイッと斬るだけなら楽しそうだし、ストレス発散にやってみたいところだが。木を一本一本同じような長さに揃えて、同じような太さに揃えていく。まだ乾いていないモノは乾かしてすぐに火にくべて燃える様にするのだ。重労働だし、見た目より神経も使うと男たちは言う。
捕まった二人のチンピラだが、別に縄で縛られてもいないし牢に放り込まれている訳でもない。最初の頃はずっと監視役の寺男が着いていたが、最近ではそれもいなかったりする。だからセツナが相談に来れるのだ。
セツナから見れば、逃げちゃえるんじゃないの、と言った環境。
でも二人は逃げたりしない。ここを逃げたって、どうやって食っていく。二人だけで村を襲えるもんでも無い。下手に村人に見つかったりしたらリンチにでも逢いかねない。だったらこき使われても寺なら飯も食わしてもらえる。そんなカンジらしい。
「そう言うなよ。一緒に寺に来た、いわば同期じゃんか」
「何言ってやがる」
「だいたい、一緒に寺に来たってのにてめーらだけいい思いしやがって。
こっちは完全に下っ端扱いだぞ」
別にセツナだっていい思いはしていない。ただなんとなくお客さん扱いにはなっている。ムネヨシが寺に連れてきたのでその知人みたいな扱い、三浦葵衣の方も
下働き扱いでは無いのは事実。
セツナも男達と似たような服を来ているが、色が黒い。黒い服の方が偉い立場の人が着るようなのだ。
「服だけじゃねーよ」
「お前ら、肉食ってんじゃん」
「こっちは完全に雑穀米と汁に山菜だけだぜ」
「あれは……寺の人間にに出して貰ってるんじゃなくて、ムネヨシが取って来てるんだ」
イノシシだけじゃない。山鳥、鹿、時に川魚なんかまで器用に柳生ムネヨシは山に行って、持ってくるのだ。少しだけセツナも手伝ったりしている。
もちろんセツナもご相伴に預かっている。
だってセツナもアオイも令和、飽食時代の日本人なのだ。ご飯と山菜だけもたまになら、菜食主義者気分を味わえていいかもしれない、一ヶ月も続いたら悪夢だろう。
「分かった、今度少し肉貰って差し入れるよ」
「ホントか」
「やったぜ」
「だからさ、意見聴かせてくれよ」
「え、なんだっけか?」
「だから、俺と三浦だよ。
実は俺、子供の頃異人に連れ去られてずーっと外国で暮してたんだ。
そいで最近やっと日本に帰ってきたの。
って言ったら信用するか?」
「え、え?
なんだって?」
「え、なに?
お前らそーなの?」
セツナの質問が複雑だっただろうか? 要するにその設定、作り話がどの程度通用するものか、知りたかったのだが。二人とも質問が良く呑み込めていない。まーいーや。
「そーなんだ。
実は小さい頃、親に売られてよ。
そのまま外人に連れ去られて異国で大きくなったんだ。
苦労したんだぜ」
セツナからすると言うのも恥ずかしい、あからさまな作り話。
「ほーー。
そういや、薩摩の方では異人に人が売っぱらわれてるってハナシ、アニキから聞いたコトあるぜ」
「そうか、だからお前変なんだな」
誰が変だ、と言いたいところをグッと堪えるセツナ。
まー、この二人の反応でだいたい分かった。とりあえず、アリらしい。そんなに素っ頓狂でもムチャすぎるハナシでも無いようだ。
「だからさ、日本の最近の状況をもっと知りたいんだよ」
「最近ねー」
「まー、この辺はもうイマガワのモノだぁな」
イマガワ、セツナも何度か聞いた名前。
「イマガワってのが偉い武将なんだな?」
「あのなー、イマガワヨシモトだよ、今川義元」
「この辺で一番ブイブイ言わせてんだぜ。
さすがに知らねーってコトは無いだろ」
そう言われると確かに立ち寄った村でもイマガワの殿さんがどーこー言ってた気がする。
それ以前にアレじゃないのか。動く城、その壇上で「イッマガワ!イッマガワ」言ってたヤツ。
「それってアレか。
城の上から イッマガワ! イッマガワ!とか叫ぶヤツ」
「そうだけど、城の上から叫ぶのはみんなやってるだろ」
「イマガワ、言ってるんなら今川に決まってるじゃねーか」
みんな言ってるのか?!
ひょっとしてと思ってはいたが、やはりあの非常識な動く城はこの世界じゃフツーらしい。
「あの動く城、アレのコト聞かせてくれよ?
あんなん異国には無かったんだ」
「城? 戦国大名の城って言ったら動くに決まってんだろ」
「砦じゃねーんだぞ。
動かなきゃ攻め込めねーだろ」
………………あー、うー。
文化の違い?! なんて言ったら良いんだ。言葉が通じない。
「うー、つまりあの城。あんなデカイのがどうやって動いてんのか? とか」
セツナは色々訊ねてみたが、男たちも良くは知らないらしい。まーセツナだってジェット飛行機ってどうやって動くんだと言われたら説明できない。
「俺たちが城の動く原理なんか知るわけねーだろ。
鳥之石楠船神の力。とか聞くけどな」
「城の主材料を楠の木で造り、ヒヒイロカネで覆う。
アメノトリフネの力が宿るんだと。
それ以上知らねーよ」
動く城に関してはこれ以上二人に聞いてもムダっぽい。
にしても今川義元、イマガワヨシモト。聞き覚えが有る名前なのである。
まぁまぁ有名なんじゃないのか。誰だっけ。
武田信玄。
疾きこと風の如し、静かなること林の如し、侵略すること火の如し、動かざる事山の如し。
戦国最強とか言ってたアレ、騎馬軍団が強いとかそんなハナシじゃなかったか。
上杉謙信
武田のライバル、敵に塩を送ったとかゆーカッチョイイ人。
実は女性だとかゆー怪しげなウワサも聞いたような。
なんだったかな。この時代跡取りを残すため武将なら正妻は勿論、おメカケさんも何人もいて子供造るモノなのに。奥さんもいなきゃメカケもいない。だから女なんじゃね。みたいなそんなハナシ。
男装の麗人武将、なんだソレ、オスカル様か。本来のセツナの年齢的に知らない時代のマンガだけど、親の本棚に入っていて読んだコトがあるマンガ。
セツナがパッと思い出せる戦国武将なんてそんなモノ。
後は 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康。
最後に明智光秀、信長にハゲハゲ言われて謀反しちゃったコンプレックスな人。いつの時代も人間の身体的欠点をあげつらっちゃいけないのだ。
教科書に載ってたコトや研究者の発表と違うかもしれないが、セツナにとってはそんなカンジである。
あとは無理やり思い出して島津、九州のほうでメチャ強かったんじゃなかったか。それもマンガで読んだ気がする。
そんなセツナのいい加減かつ乏しい戦国武将知識。
だけどその中に今川義元とゆーのもナニカ聞き覚えがあるのだ。
えーとえーと誰だっけ。テストには出てこなかったよな。ゲーム『信長の野望』だってやったコトある。すごい昔だけど。あのゲーム、時間が掛かりすぎるんだよ。ゲームに何時間かかってもかまわないとゆーヤツ以外やってられねーだろ。
ゲームで見たのだろうか、それとも授業。ドラマの類かもしれない。どちらにしろ名前程度で何をしたヤツなのか、どんな輩だかはサッパリ。
スマホで検索出来ればいいのにな。ノートPCになにかそんなデータ入ってないかな。漢字の辞書データと一緒に武将データとかそんなの。有る訳ねー、知ってますよ。
後輩少女がいないので自分ボケ、セルフツッコミするしか無い大原セツナなのである。
「イマガワヨシモトってどんなのだっけ?」
「は?」
「は?」
セツナが尋ねると二人とも口を開けるのである。
「お前、この遠江にいてイマガワヨシモト知らないとかマジで言ってんのかよ」
「フッ、何を隠そう……
知らないぜ!」
「なにを威張ってんだ」
「胸を張るような事か」
「だってよ、俺ははるばる海外から故郷を探し求めて海を渡ってきた冒険者なんだぜ」
「そっか、そうだったな」
「なら仕方がねーよな」
二人ともしんみりとするのである。お前も苦労してきたんだな。分かるぜ、あえて聞かないけどな。とゆーのが顔にハッキリ出てるのである。
困っちゃうなー。
そこは「設定でしょ。なにその気になってんですか」と後輩少女のツッコミが欲しいトコロなのである。
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