積羽舟を沈む
「あぁ……だりぃ」
起きてても何もする事ねぇ。上半身起き上がらせても、窓からは空しか見えねぇ。
ったく、目が覚めた時は生きてるだけで嬉しかったし、個室でラッキーなんて思ったもんだけど……こうも何も出来ないんじゃつまらなくてしょうがねぇよ。担当の看護師は不細工だしなぁ。
そもそも、こうなったのもアイツラに俺の働いてるトコ教えた奴のせいだ。一体誰だ? ムカつくわ。
大体、女と寝たからって何だってんだ。それに俺だけのせいじゃねぇだろ? フリーだって言ったのはあの糞女だ。あぁ思い出すだけで腹が立つ。
あれから1週間くらいか? マジィな。アイツラいきなり店に来やがったからな……一目散に逃げたけど店大丈夫か? 店長に怒られんだろうなぁ……でもまぁぶっちゃけテンチョー嫌いだし? いい気味か。
……いやいや、問題はそこじゃねぇ。給料日間近で、借金の返済しなきゃいけねぇのに……返済日過ぎてるわ。やべぇ、こっちの方がやべぇ。何とか期限伸ばしてもらってたんだけど、こうなったら世良に何されるかわかんねぇよ。
ん? 待てよ?
それはそうだけど、世良も含めてアイツラ俺がこの病院に居る事なんて知らないんじゃね? 必死こいて逃げてたら、東京からめちゃ離れたトコまで来てたし、関東でも端の辺りだし? もしかしたら退院出来たらそのまま借り逃げ出来んじゃね? しめた。こりゃツイてるぞぉ。
ん? ツイてる? ……全然ツイてなんてねぇよ。
逃げて、車に轢かれて、両足骨折で歩けねぇし、ずっと寝たまま。おまけに今の所はまだ借金まみれ。
あーあ、俺ってばどうしてこうなったんだ?
一山当ててやろうと高校卒業して東京来たけど、最初の仕事は長続きしなかったなぁ。いや? ありゃ求人票と中身が違ってたからだろ? 俺は悪くねぇ。その次だって、次の次だって……全部嘘っぱちの会社ばっかりじゃねぇか。
まぁそれに比べれば、酒も飲めて上手くいきゃぁ女と寝られる今の仕事は良かったのかもしんねぇ。まぁ人の客とちょっと仲良くしようとしただけで、胸倉掴まれたりしたのは意味不明だったけどよぉ? だったらちゃんと紐で繋いどけってんだ。
いっその事辞めちまうか? 違う所にも店なんて腐るほどあるだろ? だな、そうしよう。それにしても両足骨折ってどんくらいで治んだろ? 早く治してぇな。黄金の右足が泣いてるぜ。
あぁそれにしても暇だ。暇すぎる。
昔はこの年になったら、どっかのクラブチームに居るはず! って思ってたんだけどなぁ……そう考えると小学校とか中学ん時ってパラダイスだったわ。
糞みたいに田舎だったけど、まぁ勿論モテたし? それなりに女とも遊べたし? なんか変な噂もあったみたいだけど、別に俺が強制してた訳じゃねぇよ? 優しくして、女も同意の上だったぞ。んで冷めたから別れる。ただそれだけ。ファーストキスなんかがどうたらこうたら……なんて知ったこっちゃねぇ。別れたら俺はちょっかいも出さないし、スッパリサッパリしてるもんだろ?
って、こう考えたらやっぱ問題は高校じゃねぇか! 小学校は勿論、中学校でも天才サッカー少年と呼ばれた俺だぞ? なのに皇仙の奴ら3軍スタートだと? 来てくれって行ったくせに3軍だぞ?
まぁ速攻で2軍になったけど、周りが下手くそでなぁ。結局1軍にすら上げないでやんの。無駄な時間だったわぁ、監督も含めコーチの奴らの目も節穴。
しかも全寮制でむさ苦しいったらありゃしねぇ。女も連れ込めねぇしよ。まぁ女とはそれなりに遊べたし? 校舎の中でってのはスリルがあってなかなか良かったけどな。
けどやっぱ……俺の実力を見る目がなかった皇仙の連中が悪い。じゃなきゃ1年から活躍して? 年代別代表にも選ばれて? マジで今頃はクラブチームでスタメンで、更に日本代表だったって。間違いないね。
あぁやっぱそこだよ。高校ミスった。
そこさえミスんなかったら、こんな事にはなってねぇんだよなぁ。
はぁマジで溜息しか出ねぇわ。まっ、さっさと両足直して、どっかとんずらしよっと。そうだな? 沖縄とかどうだ?
いいねぇ。開放的で海、海、海! のんびり女と過ごすには最高だな。
……って想像したらヤベッ。
あっ、そうだ。ここ最近ご無沙汰だったんだわ。けど……1人でなんて絶対嫌だね! プライドってもんがあるんだよ。
とは言っても、ここに来るのほとんどはあの看護師。マジで不細工なんだよなぁ。まぁ、それ以外にもたまにここに来るけどよ? 最悪な事にあいつ以下しか来ねぇ。マジでここ終わってんなレベル。
でもこの際、背に腹は変えられねぇ。ちょっと手伝ってもらうか? なぁに、どうせ男とも付き合った事ねぇ感じだし、優しくしてやればイチコロだって。
ガラガラガラ
おっと? あの不細工な看護師か? ナイスタイミングじゃねぇか! じゃあまずは、く……
「よぉ、ご機嫌はいかがかな? たぁーがぁーわぁーくぅーーーん?」
「えっ……」
なっ、なんで? なんで……
「えっ? じゃ、なぁーいーでーしょぉぉ?」
「あっ……」
なんでここに居るんだ? なんでここに居る……
「何? 忘れた? 車に轢かれて記憶無くなっちゃった? しょうがないねぇ。もっかい頭に衝撃与えたら思い出すかもねぇ」
ややっ、やばい! こいつマジだ!
「おっ、覚えてますよ! 世良さん」
「おぉ、良かった。覚えてるんだ」
「あっ、当たり前じゃないですか」
「うんうん。じゃあさ……お金の返済日の事も覚えてるよね?」
こんなトコまで取りに来やがるのか!? ししっ、しかもマジでどうやってこの場所を……とっ、とりあえず適当言って許してもらえっ!
「すっ、すいません。変な奴らに追われて……けっ、けど金なら給料入ってるはずなんで……」
「変な奴らぁ?」
「はっ、はい。いきなり店に来て……」
「なぁんだ。
「えっ?」
覚えてる? なんで世良が店にアイツラ来たって知って……
「だってさ? 店に挨拶行ったの俺の
「とも……だち……」
「そりゃさ? 友達の女が、他の男といい事したとなっちゃ……動くよねぇ? それはもう当たり前のように、
友達の女……勝手に動く……待て、まさかあの糞女はアイツラの女じゃなくて……
「そっ、それは……」
「まぁまぁ、わかるでしょうよ? 田川ちゃん?」
「あの……」
「さぁて、田川ちゃん? 怪我の状態も酷いみたいだし、療養旅行でも行こうか?」
はっ、はぁ……?
「そうだなぁ、沖縄でもどうかな? 誰も居ない島、青い海に照りつける太陽。それにね……女の子も居るんだよ? 田川ちゃんも知ってるね?」
知ってるって……まさか……まさかっ!
「その子もちょっとやらかしちゃった子なんだけどさ? 同じく失敗しちゃった同士、仲良くできると思うのよ?」
「いっ……嫌だ……」
マズいマズい! そそっ、そんなの旅行でも何でもねぇ! 行ったら……何されるか……
「まぁまぁ、だからさ? 怪我の事もお金の事も忘れて楽しもうよ?」
嫌だ、いやだ、やだ、ヤダ、ヤダヤダヤダヤダ……
「きっとさ……」
誰か誰か誰か……
「天にも昇る楽しさだよぉ?」
「誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
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