第16話 いつも通りの月曜日……じゃない!

 



 月曜日、それは何て憂鬱な日なんだろう。

 できれば今日も休みたい。いや休ませてくれ。頭も体もそう言って利かないよ。


 そんな1週間の始まりと見慣れた光景。そして今日も俺は、ゆっくりと列車の座席へと腰を下ろす。


「ふあぁぁ」


 あぁヤバイ。欠伸が止まらない。そう言えば昨日ずっと動画見てた気がするなぁ。たしか昼に起きて? ご飯食べて? 動画見て? 昼寝して? 動画見て? ……振り返ってみると結構無駄な休日を過ごしていた?


 いや、昨日は仕方ない。土曜日部活だったし、午後からはさくらまつり行ったし? でもうちの部活、基本的に日曜日は休みで良かったなぁ。それだけは言える。


 まだぼやけてる目を擦りながら、手に取ったスマホを見ると、丁度列車の発車時刻。


 あぁ、今日からまた始まるよー。

 そんな心の叫びとは裏腹に、無情にもゆっくりと進み出す列車。けど、その振動が心地良く感じるのにそう時間は掛からなかった。


 あぁ、いい感じ。何て静かなんだろう。こんな静かな登校時間は初めてだな……ん? 静か? そういえば、いつもならあいつがやって来て、何事も無いかのように隣に座って、朝から俺のことからかってるはずなんだけど……そういや居ないな?

 ゆっくりと自分の居る車両を見渡してみるけど、やはりあいつの姿は見当たらない。


 まぁ違う車両に乗ってるかもしれないし、たまにはこんな静かな通学も良いだろう。大体中学ん時のノリそのままで絡んでくるからさ? やっぱほぼ全員が初めましての人達の前ではちょっとな……まぁそれに反応しちゃってた俺も悪いか。現にそれがキッカケで仲良くなった人も多いしなぁ。


 窓から見える景色をボーっと見ながら、今更だけどそんな事を考えていた。よくよく考えれば、毎日40分も列車に乗ってるというのに、その殆どを湯花との会話で過ごしていた。最近は晴下先輩とか白波、他のバスケ部の皆と一緒に話すことも多くはなったけど、それでもどこかには湯花が居た。乗る駅が一緒だとか中学校が一緒だとか仕方ないかもしれないけど……もしかして俺自身、湯花に頼り過ぎてたのかもしれない。


 嫌だ嫌だと思いつつ、あいつが居れば何とかなる。あいつが居れば知らない人とでも仲良くなれる。知り合いの居ない黒前高校に来たことで尚更……知らず知らずの内に楽、しようとしてたのかな。


「ふぅ」


 溜息1つついても、あいつは何かしら話し掛けて来るだろう。けど、今聞こえてくるのは時折聞こえる列車のガタンって音と、学生達の話し声だけ。

 ははっ。少し居ないだけで、こんなにも違いを覚えさせるなんて影響力強すぎだろ? でも逆に、そうじゃなきゃわからなかった。


 ……今までなあなあで来ちゃったけど、やっぱりちゃんと話した方が良いよな? あいつがどんなこと考えてるかは知らないけど、やっぱりちゃんと話すしかないよな?


 湯花の為っていうか、俺自身が成長する為に……接し方というか関係というか。


 色々さ?


 まぁとりあえず……やっぱちゃんと名前で呼んでもらおう。あのあだ名で呼ばれる限り、俺達は一生中学ん時のままな気がする。 

 ……なんか1人で考えて、1人でしんみりしちゃってるよ。笑える。 


 ふぅ。うわぁ、こんだけ色々考えててもまだ次の駅にすら到着してないんですけど? やっぱ今日はめちゃくちゃ長く感じる。 

 ……そう言えばあいつ手首大丈夫だったかな? 帰る時も大丈夫そうにはしてたけど、次の日痛むパターンもあるからな。もしかして、それが原因でこの列車にも乗ってないとか……もしそうなら俺のせいだよな?  


 うーん。とりあえず、ストメでも送っておこう。



 ――――――――――――



 さて、あれから普通に学校まで来たものの、それまでに湯花の姿は見当たらなかった。

 駅で降りる黒前高生の中にも居なかったってことは、今日はいつもと違う時間の列車に乗ったってことか? それとも、マジで手首に異常があって……か。それにストメが既読にならないのも、いつものあいつからしたら少しおかしくも感じる。とりあえず……3組行ってみるか?

 そんな事を考えながら、階段を上り1年の教室が並ぶ廊下へと出た時だった。


「あっ……」

「あっ」


 意外な事にその人物は、至って普通に、至って普通の姿で、廊下の真ん中をこっちに向かって歩いていた。

 ん? 手に包帯とかは……ないな。見た感じ普通だよな? けどなんだよその、あっ……って。そんな驚くようなことじゃなくね? まぁいいや、とりあえず手首に関しては気になるしな。


「なんだ、今日早いじゃん。一本前の列車か?」

「えっ? あぁ……そうだよ!」


「にしてもストメ気付かなかったのか?」

「スッ、ストメ? ごめんごめん、朝練やっててさ? スマホ見てなかった」

「朝練?」


 先輩達の話聞いても朝練やってる人って居なかったよな? なんで急に?


「なんでいきなり?」

「いっ、いやぁ! 私まだまだ下手くそだからさ? もっと練習しとかなきゃって思って」

「へぇ、そうか」


 まぁ練習できてるってことは、手首は問題ないのか。


「一応聞くけど、右手大丈夫か?」

「右手!? あぁ! 大丈夫だよ! 全然大丈夫!」


 なら良かったわ。けど……なんだろ? 違和感というか、よくわからないけど……なんか湯花の雰囲気変じゃね?

 いや、その辺の事話さなきゃって思ってたのに……いつも通りの感じで来てもらわないと話し振り辛いんですけど。


「あっ! じゃ、じゃあ私トイレ行くからっ!」

「えっ、ちょっ……」


「またね! かっ………海!」

「おいっ!」


 なんだよ、走って行っちまったよ。そんな急いでたのか? 

 ……あれ? そいえば、あいつさっき…………はっ!!



 マジか? まさか……



「なっ、なっ、名前で呼んだっ!?」



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