1DAYS 共同生活なんて聞いてません!

そういえば、彼女の名前位は、聞いておいた方がいいかも知れない。

「お前名前なんて言うの?」

彼女は、堂々と名前を語り始めた。

「私の名前は、結城アリシア美音、日系の父とフランス人の母を持つハーフよ。」

彼女の髪の毛の色が黄色っぽいのは、そう言う理由だったらしい。

「そうか、えっと、、、」

「アリシアでいいわよ。」

少し怒っているような口調で話すアリシア。

「ねぇ、人が名乗っておいて名乗らないのは礼儀に反しているんじゃない?」

あっけをとられた気持ちになってしまった。

「ごめん、俺は歩、斎藤歩だ。」

「そう、それでいいのよ。やれば出来るじゃない。」

正直イライラする。一言余計だと言う勇気があればいいのだが。

「とりあえず、今日は遅いし、明日にでも連絡くれよ。バイトじゃなければ付き合うし。LINEのアドレスは、、、」

「泊まる家が、、無い。」

彼女は、恥ずかしそうにこちらを見つめていた。

「え、今なんて?」

自殺しようとしていた彼女の言葉が放った言葉は、驚きだったが、それと同等の混乱が頭で処理されようとしていた。

「だから、泊まる所が無いって言っているでしょ!」

「自殺するから、家も車も全部売ってここまで来たんだから!」

それはそうだと思っていたが、覚悟の仕方が以上にも感じた。

「じゃあ、今日どうすんの?」

俺は、どうするか心配で聞いてみた。

知らない間に自殺されていたらたまったものではない。

「今日、、、泊めてよ。」

顔を赤らめてこちらを見てきた彼女を見ると、本当に数分前まで死のうとしていた人かもと、疑ってしまった。

「あんたのせいだからね。あんたが自殺を止めさせたから、、、野宿は嫌だし泊めさせてよね。」

頭がとうとうオーバーヒートしてしまった。

「えっ、、それってもしかして、もしかしなくても二人きりってことでしょうか?」

「何度も言っているじゃない。しつこい男は、嫌いよ!」

予想外の事が起きすぎて泣けてきた。

まず自殺しそうな女性を見つけて、止める代わりに彼女になれと言われて、その上共同生活かよ。

「わっ、分かったとりあえず一旦家に帰ろう、そこから話の続きをする。」 


――数分後―――


「やっと着いた。」

いつもよりもへとへとで、カードロックが面倒に感じたのは、初めてかもしれない。

扉を開けて家の中を見る彼女は、絶句していた。

「これ、本当に人すんでいるの?」

「今日は、たまたま散らかっていただけで。」

もちろん自覚もあった。

仏壇の前以外は、カップ麺のゴミや、使わなくなった商品と箱が落ちていたからである。

「これじゃダメ、、、」

「すぐに戻ってくる。」

「えっ、」

そう言うと彼女は、走って近くのコンビニに行き、黒いゴミ袋を持って帰ってきた。

「おい、そのゴミ袋何に使うんだよ?」

その問に彼女は答えず、黙々とゴミをかたずけた。


――30分後――


リビングは、久しぶりに純白の色を取り戻し、冷蔵庫は、栄養ドリンクで散らかっていたが、一般家庭と変わらない清潔感が漂っていた。

「あんた、栄養ドリンクの飲み過ぎ。いつかカフェイン中毒になるよ。」

そう言うと、出合いの惣菜とは違う、出来立てのハンバーグが机に置かれていた。

「早くしないと冷めるわよ。」

優しく暖かい、愛情のような物を感じたのは数年ぶりだった。

毎日が同じ手順で繰り返される人生、正直嫌でしょうがなかったが、ほとんど初体験に近い愛情を感じて、気づけば目から涙が出ていた。

「どうしたのよ、泣いてるわよ?」

「泣いてねぇよ。」

「なんかわかんねぇけど涙が出てくるんだよ。」

「そう。」

心情を察してくれたのかそこからは、何も言わなかった。

その後は、疲れてすぐに横になって眠った。


――こうして30日間の短い交際が始まった―――

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