第2話
「おはようございます。先輩」
「あ、ああ」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
小さな形の良い頭が揺れた。
左後ろで緩く結んだ髪色は、落ち着いた亜麻色。
ブラウンとまではいかないが、いい感じに染まっていて、制服の着こなしもどことなく、ゆるっとしている。
胸元あたりまで伸びた髪先には軽くシャギーが入っていて、全体的にボリュームのある髪型だった。
前髪は目元まであり、その奥には杏型の大きな瞳が、収まっている。
好奇心をたたえた瞳だ。
なぜかブルーグレーっぽいカラコンをつけていて、見つめていると意識が吸い込まれそうになるから、そっと視線をずらした。
すっと抜けた鼻梁と、つけまつげをしなくてもいいほどの、長さを誇る二重。
目元には左側だけに小さなほくろがあって、切れ長と評するのだろうか。
垂れ目のくせに、どこか冷たい印象を与える。
「風見……先輩、ですよね?」
「え?」
その冷たい印象がどこから来ているのか理解した。
唇だ。
薄くて、リップも特に塗っていないだろう唇は、細くて常にきゅっと引き締まっていて、頬が緩むことがない。
喋るとき以外は。
「そうだけど」
「やっぱり」
胸のネームプレートを見れば、それくらいは分かるな。
抱介は一瞬慌てて、それから思い直した。
無意味な心の衝動だったと思っていたら、爆弾が降ってきた。
「NTRゲームしません?」
「はあ?」
抱介の目の前が真っ暗になった。
心理的な表現じゃなくて、目の前に新入生のスマホが。
その真っ黒な画面が突き付けられたからだ。
長方形の闇の向こうに、ブラウスとブレザーを身にまとった新入生の顔から下が見て取れた。
ぐいっと右腕を突き上げて、こっちにさらにそれを押しつけようとする。
小柄なくせに、相応しくない胸が、ちょっとだけ揺らいだ。
薄いパステルブルーの下着が、白の向こうに押し出されていた。
「なにが……言いたい?」
「これ、先輩ですよね?」
途端、画面がタップされる。
暗黒の世界に、カラーで男女の姿が映っていた。
あまり他人には見せたくない、彼女の部屋での一風景が……そこには切り取られて保存されている。
「これ先輩と私のお姉ちゃん……ですよね?」
お姉ちゃん?
これが?
俺の……一年前に俺からNTRされていった、あの……槍塚季美が……お姉ちゃん?
「おい。なんだよ、これ。お姉ちゃんってお前……季美の妹? 隠し撮りしたのか、俺たちの……」
「ええ、そうです。やりました。うちが、やりましたよ」
「なんだよ、お前。どういう意味だ、これ」
「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」
「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」
抱介の悲鳴が一瞬、小さくだが図書室にこだました。
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