コンプラの街

はんぺん

コンプラの街

  ————窮鼠、狡猾にて穴中に籠る。猛虎、水引き、座して待つ————


 やや甲高く補正のかけられたその合成音声が私の耳に入った。私は無意識のうちに振り返っていたらしく、その私の目にはとある人物が映っていた。背景では、戯曲『窮鼠※』が何度も、繰り返し流されていた。


※…戯曲『窮鼠』とは、----年に流行ったとされる劇で、悪事を働く窮鼠とそれを追う猛虎の物語となっており、諺である『猛虎の掘った穴』の語源ともなっています。また、その有名な一節は親しみやすい童謡に変えて歌われています。差別的、過激的な描写がなく、勧善懲悪な歌詞は国民の心の成長に良いと政府は判断し、一日に二度都心で流されています。(尚、全編は毎日9:00にテレビで放映されています)


『猛虎の掘った穴』…相手の思惑通り、術中にはまってしまう事。




 目には黒い棒線がかかり、上は白地のTシャツで、下はジーパンというラフな服装をしたその人間は、私の友人で、名前は○○ ○○〔風評被害の防止の為伏せ字〕といった。○○の格好はいささか単調かつ平凡的で詰まらなかったが、性別法の第二項(※)を考えると、いかに模範的で賞賛に値する格好か、その答えは言うまでもない。


※…性別法 第二項より 性を最早顔、声、も分からない状態で判別する事は、ジェンダー問題も含め困難であり、その極めて効率的な解決として、中性的な服(性を区別出来ない程の服装)の着用を義務付け、性という概念の廃止を決定する。


 「……どうした」

私は話しかけてきた○○に最小の単語のみで答える。私の口から発せられたその最低限な回答は、喉部に埋め込まれた音声補正装置によって、はっきりとしない発音の多声的な低い合成音声に変わり、○の耳に入る。ここでは常識だった。

「いや、……なんでも。今日の…予定は?」

○○はたどたどしく言葉を発した。近くには事務的に仕事をこなす〔注釈:模範的にすべき仕事をする〕禁句防止専用ポリスロボが赤い目を光らせて走っているからだ。

「……空いている」

「……そうか」

ほぼ隠語となっているこの構文は、この一週間で十三回、いや今回ので十四回だった。友人は手仕草で「付いてこい」と言うと、踵を返してあたかも他人のように振る舞いながら先に進み見始めた。そして皮肉を込め、我々の計画が分からないあのロボにも聴こえるようにこう叫ぶのだ。

「嗚呼!なんて素晴らしい街なんだ!」


 私はまるでこの街に初めて観光に来たような初々しさで努めて、この街をさりげなく見渡し、そしてまたさりげなく友人の後を追って行った。ビルのテレスクリーンでは無音のコマーシャルが延々と流されている。音を付けでもすれば、さぞ規制音で一杯になるのだろう。またそんな液晶の中のロボットが、無音の中で必死(※1)に動くのは少し滑稽で、バレない程度に吹き出してしまった(※2)。


※1…CM上の演出です。ロボットに感情はありません。あくまで比喩表現です。

※2…その光景で抱く感情は個人差があります。また、隠し事は容認されません。


 今いる場所は充分の広さを持った大通りなのだが、人の気も、ましてや車の音さえも聞こえない。二人以上で話せば一体どれ程の【禁句】が口に出されるか分かったものでもないし、そもそも車は音が[規制]なので、ニュータイプが発表されるまで皆××(遠慮)されているのだ。そのため今外で歩く人は、皆手に持った【規制:商法目的とした商品の宣伝は許されません】で楽しんでいるようだ。


 ○の跡を追い、気付けば鬱蒼とした路地裏に来ていた。あの大通りよりもさらに人の気も、ロボの気配もしなかった。別にゴミなどはない。綺麗な場所だ。しかし、これはここ以外の場所でも言えた事だが、やはり空気が[規制]。


 「——ここだよ」

いついかなる所でも、友人はロボに警戒を払っていた。何もないように見える薄い青色の壁を触り、右に手を払う。すると壁一面はドットで覆い尽くされ、かつての青白い壁ではない、赤黒く、グロテスクな色をしたドットに変わり果てていた。そう、○○はバグ※を犯していたのだ。

          ☝︎

 物語上の演出です。当然禁止されています。


※…『バグ』とは本来プログラムやコンピュータの欠損、誤りを指す言葉で、今では電子的構築プログラムの違法改造の際に用いられる事が多くなっています。----年からバグは厳しい取り締まりを受け、現在ではその犯罪件数を大幅に減らす事に成功しています。


 その後、突然○はその目の前のバグの結晶に向かって歩き始めた。バチバチと不吉な音を立てるその壁に、とうとうぶつかるかと思った瞬間。友人は壁にゆっくりとのめり込み、みるみるうちに姿を消した。○○は壁を貫通していった。


 私もそれに続き恐れながら入る。壁は予想外にも柔らかい感触で、体重をかけるだけで沈み込んでいく。壁の中は真っ白で、目の前が眩しい光に包まれて行く感覚があり、どこか気持ちよかった。※


※…これは[規制]による悪質な物で、実際には危険かつ犯罪なのでおやめ下さい。


 中は比較的広く、充分な生活を送るには少し不便な内装だったが、そもそもこの部屋は一般生活をする為の物ではなく、いわゆるありふれた『規制』を 【犯罪誘致】為 の隠れ家である。       

「どうだい、あの扉とこの部屋。前と違うだろう。最新型の【禁句】に変えたんだ。仕組みを知りたいか?」 

あの扉とは、グロテスクな壁の事なのだろう。私が返事を言う前に○は話し出した。

「まず今の時代、木とかコンクリートだとかをまともに使ってる壁なんて物は存在しない。基本的には電子の集合体であり、結晶な訳だ。簡単に言うとそれを××××××××××××にして、×××××××××、だから××××××××になる訳だ。これで簡単にあの××しきロボットを●●●●事が出来る。この家自体は『裏』で見つけたんだが。見てくれ。この指輪は、俺が考えた物なんだ」

○の指にはめられたのは、青く多角的に輝く結晶がはめられた小さな指輪だった。当然今は婚約という意味を果たさず、ただ束縛、見せつけ、自己満足の為だけに付けられるような金持ちの為の装飾品であり、かの昔のように、輝かしい意味を持てるような時代では無くなっていたのであr ☜勿論今の時代も素晴らしい。

              素晴らしい。

         素晴らしい。     

       素晴らしい。

  n:禁句


○○はいつの間にか長ったらしい説明をしていた。

「——つまり、これは常に監視してくる上空の●●の●●を狂わせるんだ。奴もまた、電子の変動で俺たちを見抜くからな!これで、俺たちを見つける事は●●●なんだ……」

これは○の発作的、かつ病的な悪い癖だった。○○は狂気のような笑い声で口をいっぱいにし、部屋に響き渡らせた。しばらく残響を呼んで、その残響も止む頃、○○は打って変わって落ち着いた口調で話した。

「……まあ、とどのつまりはこの●●ったれた(不適切な表現の為伏せ字)[規制音]の行動が悪いんだ。こんな××で、一体俺たちは何をすれば良い?(※)奴らは、●って物を知らない。このままじゃ、きっと●●の●●何て目にみえている。つまり××××××××××××、

×××××××××××××××!【全て許容出来る言葉ではありません】」

××××××××××った。☜嘘の文は書いてはいけません。 きっと○○の言葉には、多くの人が賛同すr 〔しない。しないだろう。〕

  

※…仕事こそ幸福のためになり、最大の義務であるため、仕事をする事を推奨します。


         ×

「まあ、愚痴もそれ程にして。早速始めようじゃないか」

○はまた先程のような笑みを浮かべ、机に置いてあったとある機器を持った。それはボタンが多く配置されたリモコンのような物だったが、一般的なテレビのリモコンはチャンネルが一つしか無いはずだ。……これもまた、『裏』からだろうか?


「よく見てろ」

そう言い○はその内の一つのボタンを壁に向かって押した。リモコンの先端から青白い光が放出され、それはその壁に長方形の光源モニターを出現させた。気付けば友人の息遣いは荒かった。


 映像が流れ、私達はモニターの映像に釘付けになる。目に前には1人の○と○がいた。彼らは寝室のベッドの上に居り、しばらく互いを見たかと思うと、次第に●●●しく、ねっとりとした手つきで彼らの体は重なり合って行く。隣の友人はさらに息を荒くし、咄嗟に腰に手を当てそのジーパンを降ろし、●●●に付いている●●な●●●を●●●●●。


 ……吐息が纏わりつく。それがあのビデオからか、それとも隣にいる野蛮な獣からかは分からなかった。どちらにせよ私もあの獣同様●●を立派に●●せており、我慢ならない点ではまた同じと言えた。ビデオでは、目の前の○が可愛い○○をあげており、○○をここまで○らしく全面的に押し出しているのは、数多見た動画の中で一番だった。私も、隣の友人も、手はそっちの方に向かっており、激しい●●●●を気付けばしていた。それは私達が酷く××××××いる様子を現す何よりの証拠だった。


 両者、ビデオも同時に●●を果たして、完全に落ち着きを取り戻した。完全な【禁句】に対して、それを堂々と××し、自身が何か特別な存在になったその背徳感は、今までどのような人生を送ってこようがこれが一番だろう。確信が持てた。☜虚偽です。健全に生きる事が最大の義務です。


 その日は、日常的に使う便利な転送装置によりすぐさま家に帰った。今回はあの電子を操る機械の影響もあるのか、電子量探知空式ロボに警告を●●●●●●●●帰還する事ができたのだ。このような事は××××で、改めて○〔我が国〕の凄さを実感し、晴々とした気分で意気揚々に眠りにつくのだった。


 しかし、毎日××な目覚めだった。昨日のような心地よさはすっぽりと抜け落ちており、またあの時を待ち遠しく待つその××的な症状は前からだったのかと自問をしたが、その答えは偶然にも出てこなかった。


 準備を軽く済ませ、大してもう眠くもない目を擦りながら装置の上に乗り、仕事場へ行く。目の前には椅子があり、そこに座ると同時に机上のキーボードから真上に光が射出され、顔と同じ位置に現れた光源モニターが目に入る。普段何気なく見ていたその一連の動作が、昨日のそれとほぼ同一の物であると気付いた私は、思わず唾を飲んだ。


 仕事場は常に静寂だった。隣り合っている人も、向かい合っている人も、ずっとモニターを見ている。誰も何も言わず、仕事に取り組んでいる。皆×××目をしてモニターに目を向けている。誰も、彼も、そして私も。他人を気にする余裕なんてないのだ。〔互いが互いを信頼しあっている証拠です〕

 

 皆一回はこう思う筈だ。何故働くのか。この仕事は何になるのか。私は知っている。———きっとその答えは、「お国の為※」なのだ。どんな質問をしようが、何の文句を言おうが、それらは全てこの回答に回帰される。その一個の返答しか帰ってこない。まるでbotのように機械的だ。……これが比喩的表現であり、皮肉になっていたらどれほど良かった事か。私は酷い顔をしていた。


※…正しくはそれと幸福の為です。


 仕事は至って単調で、とてつもなく×××××物だった。何をしても××は無い。××だ。本当に×××。モニターには常に文章が表示される。その下の段に上記の文章を打ち込む。そうするとまた次の文章が……。


〔☜それは幸福の為です。それ以外の何物でもありません〕●●●● p-34 五行目 :補足


[ここに打ち込んでください......... ]


 当然他の文もあるが、特にこの文章は見飽きるほど見てきた。タイピングがさほど上手く無い私でも、この文だけはキーボードを見ずに打てる。これが何の文章の補足として出されたとか、この小説、または雑誌は何かとか、そんな物はとうに考えなくなっており、私も皆と同様、無表情に、機械的に作業するのみだった。


 もうそろそろ昼が来ようとしていた。作業には当然会話は要らないため、何かしらの活気が映える事もなく、早く昼休みを待ち望んでいるようには感じない。〔勿論模範とするべき〕しかし確実に作業のスピードは早まっていった。そして皆が昼のベルを聞こうと耳だけ澄ませ、カタカタと音を鳴らさせていたその瞬間に———


    ビーーー!


異常な警報音が鳴り始めた。想像していた音とは違い、皆は焦らせ周りを見渡す。例外なく私も、席こそ立たなかったが、異常な雰囲気を察した。何故なら、この音は間違いなく禁句を言った者にかかる規制音だったからだ。

 

 そして突然私の目の前が暗くなったのは、そう間もない頃。きっと、私以外の全員の視界も真っ暗だろう。皆焦りを無くし、また物音ない程静かになる。この皆にかかってる黒い棒線が、ようやく機能を発揮したのだ。


 この『目伏せ棒※』は恐らく皆等しく一回は世話になっている。それ程今の時代は禁句が多く、知らなかったとか、×××××とかでつい言ってしまう人が必ずいるのだ。そしてまた今日も、起きてしまった。どんな禁句を発し、どんな目に遭ったのか。……考えようとも、答えは出なかった。ふと視界が開け、不意に入る光に目が慣れた頃には、とうに皆仕事に取り掛かっている。そして何事もなかったかのように、昼を告げるベルが鳴った。


※…目伏せ棒とは、プライバシーを護る為に古くからTVなどで使用された規制の事です。現在ではそれに付け加え、緊急時の際に視界を防ぐ効果を付け、安静を取り戻す効果を生み出しています。生まれた瞬間に安全な技法で取り付けられ、人体や視力に影響も無いため、プライバシー保護の条例により義務付けられています。


 今日も長く××な仕事が終わり、皆次々と転送装置に乗り、家に帰る。私も1人しか居ない、静かな家へと帰る事にした。そして家に帰り、荷物を置き、スーツをハンガーにかけ……。そして思うのだ。


……いつからここに居たのだろう。


 毎回だ。毎回この不毛な時間は設けられる。過去の記憶は一切残っていない。子供の時、働くことが決まった時。そんな瞬間の思い出が全てない。それに、お話や、劇などには、親なんて言葉がある。私を産み、作った人。私には親の記憶がない。体形とか、性格とか、今の時代なんら他の人と変わらないだろうが、それでもどこかで違和感があった。私の一番の過去の記憶は、この部屋に居る時で、その時にはすでに明日から労働をする事を決心していた。そんな事が、実際に起こり得るのか?いや、××××××××××。××。××、×××××××。×。×。×。


       不毛な質問だ


          ×

 部屋は何も無かった。しかし、●しさとか、暮らしづらさとかは一切感じなかった。TVは一応あるし、金銭は勝手に私の家の中のデータに転送されているし、もし食料が足りなくなったら勝手に冷蔵庫が補充をしている。(勿論その分の金はデータから引かれる訳だが)○国曰く「満ち足りた」環境。だが、そんな何もしなくていいこの環境こそが、私にとっては何も無いと言わざるを得ない理由になるのだろう。


 堪らなくなって、夜でもあるのに外に出てしまった。明日も仕事があると言うのに、私はすっかり散歩を堪能しようとしていた。赤いロボの目の光。青白く光るビルの光源。そして9:00を告げる歌が私の耳に入る。


———窮鼠。狡猾にて…………


 しばらくその歌を聞き入るが、この声が○性の声か、○性の声かも分からない。当然分かったとしてもそれは言えないのだ。そして私は、今更、随分×××××と思った。そしてちょっと肌寒い風が頬を伝う。

「……帰ろう」

私は肩を縮こませながら、体を傾けて、足早に帰る。寝床に入り目を瞑ると、例のロボットの赤い光が、いやに頭に残るのだった。

 

 目が覚め、既に机に出された料理を見る。朝食はいつもと同じ、ないし昼、夜も同じなのだが、それは毎日の唯一の楽しみだと言えた。毎回料理自体は同じだが、味やテイストは少しづつ違う。しかし、そんな些細な楽しみを生み出すこの料理の名前とか、食材とかは、誰も、当然私も知らなかった。この食べ物しか食べたことがないので、どうあっても伝える事は不可能なのだ。唯一の検索機関である『SHE※』にも立ち寄ったり、近くの書店、図書館、さらにはオフィス内の本も読み漁った。多大なる知識、情報。数多のそれが頭の中に記憶されたが、分かったのはその存在だけであり、確かな経験としては一切反映されなかったのだった。


※SHE(シー)… Superior・Hard ・Engine の略称で、----年に発足した『優秀で厳密な検索エンジン』と言う意味を持つ○○最大の検索機関である。略称である『She』は昔では『[削除済み]』と言う意味で使われていたらしいが、現在では禁句である。機関としては名の通り優秀で、立体的なホログラムと機械音声により分かりやすく知識を蓄える事が出来る。また、○○一の情報機関として名を馳せており、今では『触覚』を研究し、実物が一時的に手に取れる機能を開発中である。

          〔SHEより参照〕

【注釈:国家機関の宣伝は商業目的として判断されていません。機械の不具合ではございませんのでご理解下さい】


 ————皆さんおはよう御座います。今日の天気は晴れ、曇り、晴れの予定です。やや寒くなるので、暖かい服装をお勧めします。今日は燃えるゴミの日です。皆さん、今日も元気に労働ましょう。では、続いて————


 テレビの言う通り、今日も仕事はある。しかし私は転送装置に乗らない。今日、仕事場で私は欠席になっているからだ。理由は仮病という名の病気だった。いつの時代でもこの病気は蔓延しており、風邪のような症状や、腹痛、頭痛。さらには倦怠感や精神的不安など、様々な症例が確認されているそうだ。私は今日は風邪にした。……結局のところ、まともに生きる事は皆とうに諦めてい〔なかっ〕た。皆私にように仮病にかかっているのだ。それは悪魔の誘惑なんかではなく、●●の安らぎのように●●●、●●な病気なのだから。


 そして今日も当然のように私は九時に都心に来ていた。それもまたいつもの約束で、きっといつもの場所で、いつもの時刻に彼は来る。ほら、今丁度……。


  ———— 窮鼠、狡猾にて穴中に籠る。猛虎、水引き、座して待つ————


 「……よお」

決して人の声では無いが、誰かの声を聞くのはいつでも落ち着ける。……いや、私がただ望んでいるだけの話なのかもしれない。またあの楽園が、自由が、私の手に届く所にあるのだ。今は虚偽の落ち着きが、私を侵している。真の興奮を、喜びを、顔に出せやしないから。出せたとしても、当然出す気は無いが。ただ、少し恐ろしかった。


    【注釈:常に私達は自由です。】


 今日はいつものように●●●を犯すのではなく、直接向かう事にしていた。あの例の、『裏※』。私が最も楽しみにしており、そして自身が本当に抜け出せた人として……そう人。本当の人として扱われる場所だ。それは同時に、私がついに〔規制〕であるという事を揶揄している。


※…裏とは、●●●が行なっているとされている●●行為です。政府は下と呼んでいます。地中約●●●●に位置するとされ、そこには国一個分の広さとも、街一つ分とも言われていますが、真相は誰もわかりません。また、この行為をしようと無駄です。

隠し事は容認されません。


 薄暗い裏通りを右、右、左、右に進み、私たちはそこで立ち止まる。そして○○がしゃがみ込み、マンホールを力一杯こじ開けると、その空いた穴から一筋、光の線が空高く打ち上げられた。○○は黙って穴の横に取り付けられた階段を降りる。それに続き私も、意を決して降りる。下に降りるにつれて、光はますます強くなっていき、とうとう何も見えなくなって———。


 「ここだ」

閉じていた目を見開き、その地下の繁華街へ一歩踏み出す。……予想していた物とは、えらく違った光景だ。それは勿論、○い意味で。


 地中奥深くにあるというのに、この光の量や、最先端の技術。地上と何ら変わらない光景だ。賑やかさではこちらの方が余程多い。私と同じように、【犯罪誘致】をしに来た者どもがうじゃうじゃと見える。しかし、それを咎める人も物も、ここには存在しない。それどころか服も、顔も、声も、何にも規制がかかっていない。同じ顔の奴なんて一人もいない。○か、○か、一目でわかる。これこそが、あるべき姿。ああ、なんて素晴らしい所なのだろう。道端に座る髭を蓄えた商人がこういう。

「やあやあそこのお二方。今なら安く売ってますよ、人の○」

こんな事も容認される。これが、私達の望んだ楽園————。●●、○との●●●。●●の●●●●●。全て見たことない。聞いたこともない。だからそれらを全てやってしまう。時も忘れ、私はもうここの居心地が、地上よりも遥かにいいことに気づいていた。近くの幻想ビーチに行き、砂浜に腰をかける。隣には友人が座っていた。

「……なあ」

友人に語りかける。

「ここは、酷く素晴らしい場所じゃないか、○○。私は初めて○肉を食べたよ」

娯楽なんて物を知り、新しい食物を食い、そして初めて人の顔を見る。私にとっては過度な幸福だった。もう、地上に帰る気はとうに失せていた。友人は目を閉じている。あの○○しい線を取ってみると、案外整った顔立ちをしている事が分かった。

「……」


 「……そこのあなた」

後ろから声が聞こえる。振り返ると、さっき見かけた商人だった。

「失礼ですが、今日はなんの日でしたか」

唐突の疑問に、思わず私は固まった。確かに今日の記憶は私にとって素晴らしい日だ。しかし、特にここのルールや文化は何も知らない。だとすれば地上での話だろうが、特に皆が知るような大ごとの日はないはずだ。建国の日はずっと先にある。

「いや、今日は何も無いはずだよ。私の記憶が正しければ。……だが、間違いなく今日という日は私にとって大事な日になるだろうね」

商人は優しい目で私を見た。どこか焦りも感じる。

「そうですか。それでは……別の話をしましょう。これに関しては、私も長い長い疑問なんです。ここは、一体誰が作った穴なんでしょうか」

私はまた頭を抱え、長考の姿勢に入ろうとした。しかし、それは妨げられる。突如。頭の中からじんわりと熱が広がった。瞳孔は広がり、考えれば考えるほど、頭がおかしくなりそうだった。どうしても考えられそうにない。思考を破棄しろと本能〟脳がそう言っている。〈不毛な質問だ〉〝考える必要はない〟【やめろ】。【よs[考えるべき{知らなくてもでない]いいe】から}×、頭の中、はきっと×××○○×××××●×××●××。


 ガコン——。


 その重く鈍い音が私の耳に入り、正気をやっと取り戻す。

「今の音はなんです」

「……終わりだ。これで、これで良い」

虚に商人は立ち尽くし、ただ呆然とぶつぶつ呟くのみだった。会話が成り立たない。私は隣にいる人の存在を忘れていた。

「入口付近にロボが来た合図さ。奴らは常にいつも通りを維持したがる」

横から不意に声が入る。友人はようやく目を開けていた。そして私はその目を見て慄然とするのだ。

「これが一体どう言う意味か。知識を得続けた君なら分かるだろう?」

○の、○○の目は赤かった。決して人の気など感じさせない、人為的な目をしている。蛇に睨まれた蛙のように、猛虎に追い詰められた窮鼠のように、私はその目を怯えた目で睨み返すしか無かった。


「君は……君じゃない」


震える声で捻り出した一声がそれだった。

「誰が、誰がこうしたんだ。何時だ。何時からだった。私は、まだ……」

●にたくない。そう叫ぼうとしたが、それも無意味だと知った。何故なら、あの重いマンホールの蓋を開ける事など、私の力では到底無理だから。友人は、冷たい目をしていた。

「ここは、地下。最下層。下水の如く濁り切った物が、綺麗に流される場所だ」

青白い光がぶつぶつと消え、ますます暗くなっていく。誰※が、私に何をするのか。分からない。分かりたくもない。不気味な機械の起動音。甲高く鳴り響く作動音。頭に回り続ける声、koe、あ、 v、v×××××××。



※私服警備員…別称Gメン(政府組織特別捜査官)の事であり、政府的思考を治療、または[企業秘密]によって身につけた人の事です。一般人、または反政府的な態度を取り、同志(病人)を下で治療する役割を担っている。(また、病人とは脳内チップの規制度が通常より10上になった場合それに当てはまる。)


-・ ---・- -・-- ・-・-- 

         ×

 ——ああ、思い出した。今日は、燃えるゴミの日だ。機械のセットを忘れてはならないよ。今日の●●も、とても美味しい。……ああ、もう時間だ。行かなきゃ。行かなきゃならない。あ赤い目が、見てるから。今日も必死に見張るから。さあ、た、楽しい一日が、今日も、始まる。


 


 この物語はフィクションです。実在の人物や団体、事象とは一切関係ありません。













 



 

 


 


 

 


 


 

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