いい夫婦の日
~ 十一月二十二日(月) いい夫婦の日 ~
※
ほぼほぼ同じだけど
小さなとこがちょいちょい違う
「夫婦みたいよね」
「だよな~」
「なにが?」
「あんたらが」
「お前らが~」
「………………変なこと言うな」
「間が」
「間が~」
昼飯を作り始めて間もなく。
変なことを言い出したきけ子とパラガス。
いつものように、サンドイッチと巨大おにぎりを頬張りながら。
俺とこいつを交互に見る。
嬉しいけど照れ臭い。
気持ちを殺して無関心を装うしかあるまい。
そんな俺を。
申し訳なさそうに見上げるのは。
「あの……、えっと……」
「いいから。こいつらのたわごとには耳を貸すな」
「そうじゃなくて……、えっと……」
「料理のことか? 気にしなくていいから、お前はそれ作ってろ」
「それでもなくて……、あの……」
「ああ、バンズな」
「そう、それ」
俺はワンコバーガーから貰って来たハンバーガー用のパンを渡して。
硬めに作ったハンバーグをフライパンに乗せる。
そんな横で、ヘアアイロンみたいな器具で工作続けてるけど。
ほんとに、そんな簡単に作れるのか?
「よし、出来た……」
「ほんとに? ソース垂れたりしない?」
「酷い……。頑張ったのに、疑うなんて……」
「ああ、そうだな。ありがとう、作ってくれて。さすが秋乃だ」
「えへへ。もっと作る?」
バンズを貰って来ておいて。
包み紙を貰って来るのを忘れるなんて。
そんな失態を、通学中に打ち明けると。
こいつは午前の授業を全部。
包み紙製作にあててしまった。
そんな俺たちを見て。
「夫婦みたいよね」
「だよな~」
こいつらは。
ずっと同じ言葉を繰り返す。
「普通は逆なんだろうけど~」
「やっぱり夫婦みたいよね?」
逆ってなんだ?
さっぱりわからん。
「……俺たちなんかより、甲斐と夏木の方が断然夫婦っぽい」
「えー!? どこがよ!」
大声上げて否定したきけ子。
そんなところへタイミングよく。
甲斐が遠くから声をかけて来た。
「キッカ! えっと……、あれ持って行けばいいんだよな?」
「先輩にあげる色紙のこと?」
「ああ、それそれ!」
「部活の後でいいから! そんでさあ、あれの件だけど……」
「クィディッチなら体験講座申し込んどいたぞ?」
「おお、それよ! サンキュー!」
……あれで通じる間柄。
誰が見たって熟練夫婦。
そんなお前に夫婦っぽいとか言われても。
自分のことには気づかないってやつなのか?
俺は、呆れながら調味料を出して。
いつの間にか秋乃が出してくれた小鍋に注ぎ入れる。
酒とみりんと砂糖が大さじ4。
後は、醤油を大さじ2と。
水溶き片栗粉……、おや?
そうか新品だったか。
秋乃が手渡してくれたハサミで封を切り。
小皿に取って水で溶いて。
調味料が良く煮詰まったところで。
火を止めてとろみをつける。
「……やっぱり夫婦みたいよね」
「……やっぱりそうだよな~」
「まだ言うか」
あれとかそれとか。
そんな会話してねえだろが。
今日は随分絡んでくる二人に。
悪い気はしないが居心地が悪い。
でも、そんな様子にお構いなしと。
いつもなら、俺の料理を隣で待つだけの秋乃が。
バーガー用の包みを開いて。
今や遅しと待ちわびる。
「待て待て。もうちょいだから」
「ちょ、ちょっと小さかったかも……」
「包みが? 良いんだよ、蓋するわけじゃねえから。持って食えれば良いわけだし」
バンズの上に、ハンバーグを乗せて。
てりやきソースをかけたら手早く大量のレタスとマヨネーズを乗せて。
「上からバンズで押し込んで……、そりゃ」
「ほい」
ハンバーガーを一瞬持ち上げてる間に。
秋乃が手早く包みの方からお出迎え。
これは夫婦云々じゃなく。
バイトで慣れた動きという訳だ。
「よし、簡単てりやきバーガー完成!」
「お、おいしそう……。あれは?」
「珍しいな。ちょっとにしとけよ?」
ちょっと変わった、甘めのマスタード。
普段は使わないくせに珍しい。
じゃあ、今のは俺の分。
もう一つのバーガーをマスタード入りで作ってやったところで。
「おっと。あれが無い」
「こっち?」
そうそう。
香りが付いてない方のウェットティッシュ。
手を拭いてから席に着いて。
レタス大増量のてりやきバーガーを両手で持って。
「いただきます!」
「い、いただきます……」
二人で同時にかぶりついて。
レタスの音を、じゃくっと響かせる。
「……それで夫婦じゃないと?」
「……ほんと呆れた話だよな~」
ええいしつこい。
俺は、秋乃共々、バーガーから顔をあげて。
じゃくじゃく言いながら二人をにらんだんだが。
その瞬間。
「きゃはははははは!!! やっぱ夫婦だ!」
「まるで同じじゃ~ん!!!」
パラガスときけ子が。
腹を抱えて大笑い。
なんのことだと思いながら。
お隣りに顔を向けると。
……秋乃の鼻の頭に。
てりやきソース。
「そっくり!」
「そっくり~!」
と、いうことは。
俺の鼻の頭にもてりやきソース。
今日、ずっと感じて来た感情再び。
嬉しいけど。
すげえ恥ずかしい。
俺は、秋乃と同時に口の中の物をゴクンと飲み込んだ後。
慌てて反撃の一手を考えたんだが。
「違う。これは秋乃のとまったく違う」
「きゃははは! 二人同時にこっち向かないで……!」
「は、腹痛い~! 何が違うんだよ~!」
「俺のは、てりやきソースじゃない。のどアメだ」
「きゃはははははははははははは!!!」
「そんなの鼻にくっ付けるわけあるか~!」
急ごしらえの言い訳は。
二人の笑いを止めるどころか。
火に油。
俺の下手な対処に呆れたのか。
お隣りからはため息一つ。
そんな秋乃に目を向けると。
こいつは、鼻に付いたテリヤキソース。
……の、ようなのどアメを口に放り込んだ。
「がりっ」
「うはははははははははははは!!!」
「きゃはははははははははははは!!!」
「ぎゃはははははははははははは!!!」
なるほど。
そっくりなんておこがましい。
俺はこいつに。
一生勝てないんじゃないかと感じることになった。
「きゃはは! 保坂ちゃん、一生尻に敷かれるのよん!」
「確かに~!」
……だから。
夫婦じゃねえっての。
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