夏の章

 初夏を迎え、徐々に暑さを増すこの頃。


 伊久実は今日も早朝から仕事をし、登校した。

 そして、現在総合的な学習の時間が行われていた。

「はーい、みなさん。もうすぐ、始まりますね! ね!!」

 担任が強調して言った。

 しかし、生徒達には全く分からなかった。

「先生、何言ってるんですか?」

 伊久実は手を上げて、担任へ発言した。

「伊久実さん。あなたなら、すぐ分かると思うんだけどね~~」

 担任は伊久実なら分かる問題だと言う。

 伊久実は少しの間考えた。新たな解答を思い出したので、手を上げた。

「今度は当たってくれると信じているわ……。伊久実さん!」

「それは……」

 息を吸う。

「学級対抗の大食いっー」

「違ーう!」

 伊久実の発言と担任のツッコミが被った。


「全く、皆なんでこんな真面目の真面目な真面目による答えが浮かび上がるのかしら、伊久実さんを除いてわ……」

「もっと褒めてあげてください、私を!」

 伊久実は席を立ち自分を褒めたたえるように周りをあおるような格好をした。それはスカートを履きながらも左足を椅子の上に乗せ、左手を胸元へ導いた姿だった。

「伊久実、はしたないわよ」

 玉穂が伊久実に小声で注意する。

「そうだよ~~。伊久実ちゃん、椅子は座るものだよ」

 玉穂もこむぎもただでさえクラス内で目立っている。これを他クラスや副校長、校長などに見られたらと思うと伊久実の身が風紀的に危ないと感じる。

「ごほんっ!」

 担任は咳払いをしいよいよ、伊久実に担任からの稲妻を食らうと思った。

 しかし、二人の予想は違った。

「まあ、分かったわ。伊久実さんは花より団子の人だものね。実は、もうすぐ臨海学校があって、そこでビーチバレーボール大会を行う予定です」

 伊久実はキラッと、鋭い目をした。それは、説明をしている担任へ眼光を向けた。

「ビーチバレ……」

 伊久実は小声で言った。

 玉穂とこむぎは何やら、ビーチバレーという言葉に反応して変なところで燃え上っていると思った。

(メインは海水浴なのにな~~)


 臨海学校当日。

「みなさ~~ん。寝てる? 起きてる? ご飯食べてる? 夕飯のことを考えてお腹空きましたか?」

 学校からバスへ搭乗した直後にも関わらず、担任は生徒達を質問攻めする。

「先生、私は早くバレーボールがやりたいです。今、今やらないと私はみんなと帰った後に働いて、納税して……」

 伊久実は何か洗脳にかかったような棒読みで淡々と話す。

「はいはい、分かってるわ。けどね、一学年規模でやるものだからスケジュールは守らならなければならないからね」

 担任はタイムテーブルが決まっているからと言う。

「安心して伊久実さん。極秘事項だけど、景品の使用する施設の掃除だから」

 極秘だというのに口にした景品が掃除だという事実に生徒全員が戦う気力をなくなってしまった。

「はい。私は優勝できればそれでいいです。例え、掃除でも先生の靴洗いも洗濯もなんでもします」

 クラスメイト達はたまに無茶を言う担任にこれだけ忠誠を誓う伊久実をいつもの伊久実だと信じられなかった。

 クラスメイト全員の目が伊久実に注がれていることを本人は知らなかった。


 海水浴当日。

 担任は海に向かって仁王立ちをして見つめていた。右にはクラスで作った旗を持ち、左手は腰を支えた姿勢となっていた。その姿はまさに大戦に向かう戦士のようだ。伊久実や玉穂、こむぎは担任の後ろ姿を見て、たまに飛びぬけたことを言って生徒達を困らせ、時にはふざけて生徒達を呆れさせる真面目というには遠い教師ではあるが、今の姿は生徒達を背負った勇者だった。

 担任は後ろにいる自分の生徒達を見た。

「さぁ~~、やって来たわ。ついに、ついに……。私のクラスが六学年全体に名を轟かせる日が来たのね。皆、準備はいいかしら!」

「「「「「\\\\\おーー!!/////」」」」」


 臨海学校・ビーチバレーボール大会は東西に分かれて行われる。校外サークルとしてビーチバレークラブとバレークラブに所属する生徒は特別チームとして二チームが編成されている。経験者などを除いた生徒達は学級ごとにチームが編成された。


 伊久実達のクラスは初戦、伊久実と運動クラブに所属する生徒達が中心となって、ストレートで切り抜けた。

 そして、二回戦は強敵。経験者チームB。


「伊久実さん、良いわね」

「はい、先生。あの……、勝ったら三百円の高級アイス奢ってくださいね」

「それは嫌……」

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