なんにだってなれる

シヨゥ

第1話

「なにもないからこそなんだって作り上げることができる。なにもないところに何かを作るっていうのはワクワクするだろう?」

「そうだな」

「人間も同じさ。なんのしがらみもなければ、なんにだってなれる。なんでもない自分を価値ある自分に作り替えていくってワクワクするだろう?」

「そりゃするだろうけどさ。兄貴のように楽観的に考えられないよ。この先どうなるんだろうって不安が勝つよ」

「俺だって不安だ」

「本当かよ」

「不安も不安。毎日胃が痛い。それでも俺は自分を作り替えていくワクワクの方が大きいな。ワクワクが大きいからこそ、不安がうまくバランサーになっている気がするぞ」

「バランサー?」

「ワクワクが勝ちすぎるとのめり込みすぎる。周りが見えなくなる。ゾーンに入るってやつだな。こうなると驚くほど作業が進むが、反面出来上がっていくものは自分が良いと思うものになってしまう。俺が良しと思っても、周りが見て良しと言わなければ価値がない。だからふと我に返る瞬間を与えてくれる不安は大事なんだ」

「なるほど。分からん」

「分からんか。まぁお前も仕事を止めて、自分の事業を起こして一心不乱に取り組んでみたらわかるんじゃないか?」

「そのハードルが高いんだっての」

「会社に鞭打たれる日々と自分のワクワクを満たす日々。どちらが楽しいか。俺はただそれだけを考えただけだぞ」

 兄貴が立ち上がる。

「時間切れだ。悩めよ弟。悩む時間も価値がある」

 颯爽と去っていく兄貴の背中は日に日に大きさを増している気がする。憧れているのだ。悔しいかな認めざるを得ない。あの兄貴に追いつくためにも何か行動を起こさなければ。その焦りだけが日々募るのだった。

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なんにだってなれる シヨゥ @Shiyoxu

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