第402話 鳥肌

「で?」



「で?」



「で? って何や」



「そいつ連れてくんだろ」



ショウリュウは、まだ転がっていた仮面の男──クメトの手下を軽く蹴飛ばす。


遺跡の亡霊のフリをして、ショウリュウ達に危害を加えようとした。クメトの狙いは何だったのか。


まぁまぁ、と宥めながらも、エリーナは冷えた目で男の前にしゃがんだ。



「ハーショウさんに頼んでみるわ、一度パレスに運びましょうか」



それとも、ハーショウにここまで来てもらうか。いずれにせよ、この者の末路は悲惨なものだろう。


勝手に末路を想像し、ナエカは身震いする。



「ハーショウさん待つんか?」



「うーん、ここでじっと待つより、みんなでパレスに帰りましょうか」



「は〜い。ウフッ」



「いいんでしょうか、パレスの中に入れちゃって」



どうやって運ぼうか、逃げられないようにしないと、と皆で相談を始める。


パレスには裏もある。裏に、閉じ込めておけるいい場所があるらしい。物騒な話が盛り上がる。



「よかったな、パレスに行くんだとよ」



ショウリュウもエリーナの隣にしゃがみ、男に皮肉を浴びせた。



「ふ……」



だが、男は振り返りもせず、奇妙にゆったりとした笑みを返す。その反応に、ショウリュウは怪訝に首を傾げた。



「おい、何笑ってんだ」



「哀れな者共よ……。こ、ここは……カシュマールの隠れ場だというのに……」



「は?」



近くにいたアイリにも、その言葉は届いた。意味が分からず、アイリは男に顔を近づける。



「あの、クメトさん、それってどういう──」



声をかけた瞬間。


アイリの真横で、エリーナが一瞬の間に吹き飛んだ。



「え?」



遥か向こう、地面に倒れているエリーナの姿。何が起きたのか、アイリも他の団員達にも理解出来なかった。


呆然と口を開け、金縛りのように誰も動かない。


僅かな沈黙の間を破り、我に返ったアイリは慌てて立ち上がろうとした。



「エリーナさん!!」



「危ない!!」



そう叫んだ瞬間──アイリの真横で、ショウリュウの身体が宙に舞う。



「ショウリュウ!!」



「あああ!!」



雷のように早い衝撃波が、反撃はおろか反応する隙も与えず、軽々と吹き飛ばす。



「坊や!」



シキがとっさにシキカイトに姿を変え、全身でショウリュウを受け止めるが、受け止めきれずに地面を横滑りした。


全身を貫き、地面に激しくぶつかってしまう。


衝撃のあまり、二人揃って顔を歪め、起き上がろうとしない。



「おまじな──」



ナエカが勇気を出して飛びだし、おまじないを唱えようとした──次の瞬間。



バチイイイン!!



今度はナエカの細い身体を雷が貫き、遺跡の瓦礫にぶつかる。



「ナエカ!!」



どこだ、一体どこから。



「そこや!!」



ジェイの叫びと共に、遺跡の影から姿を見せた。



「さぁさぁ、おまちかねー。海がだいすきでたっぷりつかっちゃう、ブリンブリンぼくっちょのとう、じょう、でーす」



高らかに笑い声を上げ、堂々と大きく手を広げる。



「ひっ……」



アイリはその姿に、思わず口元をおさえた。



潰れた人間のような顔に、口から長い舌がだらりと垂れ下がったまま。全身がイボに覆われ、奇妙に膨れ上がっている。


かろうじて人間のようだが、骨は不自然に枝分かれし、頭蓋骨が小さいせいかゆらゆらと勿体ぶって歩く。


地面に引きずる程大きな、立派な背びれがあった。



「そうですね、ここは言うなればピスタ海のオアシス、です。こほん。あー、ここでみなっちょ、ほめてくれないといやだよメーン?」



「な、何?」



「何を言うとるんや、こいつは」



ぞわりと立つ鳥肌が止まらない。


何を話しているのか、さっぱり分からない。奇妙奇天烈な言葉に、皆が戸惑い、目を白黒させる。



「ねない子だれだ、ねる子はだれだ。おきちゃったから〜、今から肉のお祭りひらいちゃうんだポン!!」



──この見えざる者、今までと違う!



アイリは、全身が警戒して震えているのを察した。


だが、見えざる者に違いはない。アイリは呼吸を整え、さりげなく笛を取りだそうとした。


そんなアイリの真横を、誰かが通り過ぎた。



「え?」



「やっと見つけた……やっと……」



アイリのすぐそばで、黒い光が地面を射す。



一歩、また一歩。



抑えきれない殺気。凍てつき、ピリピリと震える空気に、見えざる者は首を傾げる。



「ルノさん?」



「ずっと待ってた……」



ルノがもう一歩踏み出した、次の瞬間。



ルノの絶叫と共に、ダイヤから光線が放たれた。



真っ直ぐに狙う、美しい攻撃。


見えざる者は軽くステップを踏んで交わすと、もう一度球型の衝撃波を放つ。光の如き速さ。



「ああああああ!!」



だが、ルノが素早くダイヤを放り投げ、衝撃波を吸収する。そこからは光線の連打、連打、連発。



「あれー、もしかしてこれは求愛? きゅうあい? ニャハハ」



「その醜い口を閉じろ。お前は、お前だけは!!」



ドゴン、ドゴン、ドゴン!!



「はあああああ!!!」



「ニャハハハ〜」



矢のように術が飛び交う。激しい戦闘に、皆が入っていけない。



「ル、ルノさん、なんだよな?」



「ルノちゃん、どうしたの??」



「ルノ!!」



皆が呼びかけるが、耳に入っていないようだ。目の前の敵しか、その瞳には映っていない。


アイリは、ただ呆然とその姿を見つめていた。



「ルノさん……」



呼びかける彼等が気に障ったのだろうか、見えざる者──カシュマールはぷくっと頬を膨らませた。



「ねない子だれだ、ねる子はだれだ。そろそろ寝ないと肌があれちゃうんだ──ポン」



そう低い声で呟いた瞬間。


射し込む太陽の光が何十倍にも膨れ上がり、アイリ達の目に突き刺さる。



「うわっ」



「眩しい!」



ここでようやく皆の反応に気付き、ルノがハッと振り返った──その隙。



「ニャハハハ、お祭りどーん!!」



キュピーーーン!!



光が激しく弾け、衝撃波が雪崩のようにぶつかってくる。



「みんな!!」



「きゃああ!!」



「おまじな──」



ナエカがおまじないをしようと手を伸ばそうとしたが、その手が何者かに掴まれる。


イボが、ねっちょりとナエカの手首に絡みつく。



「あ……」



「ナエカさん!!」



近くにいたヨースラが、間一髪で滑りこみ、ナエカを引き剥がす。



「お祭りどーん!」



バチィイン!!



ナエカを庇って飛びだしたヨースラに、近距離で衝撃波が浴びせられる。



白い光が弾け、チカチカと輝く。



小刀が地面に落ち、カラコロと軽い音を鳴らした。



「ヨー!!」



「ヨースラさん!!」



「きゃああ!!」



「このやろー!!」



レオナルドがカシュマールに突っ込んでいくが、カシュマールはニマニマと意地の悪い笑みを返し、素早く後ろに飛び退がる。


離れた隙に、ルノはヨースラの元へ駆け寄った。



「ヨースラ!!」



抱え起こしたルノの指先に、血が伝う。



皆の叫びが荒れ地に木霊する。



皆が駆けつけてすぐ、気がつくとまたも光が弾け──カシュマールは姿を消していたのだった。



ルノは、拳を強く地面に叩きつけた。




「くそおおおおおお!!!」












age 27 is over.









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