第401話 人情
「ショウリュウ!!」
「スクワラさん!!」
皆が駆け寄ると、ショウリュウは気まずそうな顔をして、スクワラの背中から降りた。
「……こんなに来るんじゃねーよ」
いつも通りの、不遜な表情。
虚勢を張っているようだが、それでもしっかり足で立っていて、一同は胸を撫で下ろす。
すかさずクーが飛びだし、ショウリュウの足に頬を擦り寄せ、飼い主を驚かせた。
「ジェイが貴方の信号が消えたって言って、心配してみんなで来たの。炎の中にいるってジェイが言いだして、どうなるかと思ったわ」
「何があったんや? あと、そこ転がってんの誰や」
「その、色々文献は見つかったんだが……」
亡霊のフリをして襲ってきた、クメトの刺客。
更に奥で、党に仕掛けられた術に襲われた。宝を守る為に1000年以上前に仕掛けられた術、意志の強さにアイリは身震いする。
「分かった事もある、後で報告する。折角見つけた文献だったのに、地下で全部燃えちまったな」
「そう、貴重な文献だったのね」
「うわ、ズボンの裾燃えてんじゃん!!」
「おい、触んな」
すっかり焦げた、服の裾。
炎の中、というのは本当だったようだ。よく抜け出せたと、感心しきりのレオナルドに、スクワラが咳払いで割り込む。
「光の導きがありましてな」
「導き?」
「ジェイ殿のおかげで本官の目指す方向は分かったのですが、術の仕掛けまでは見抜けず。しかし、光が通っている間は術が作動しなかったのです」
まるで、スクワラを案内しているかのように。
「光って、どんなのぉ? ウフッ」
「ふむ。蛍のような、よく飛ぶ小さな光でございましたぞ」
「蛍……」
おおおおおおお。
「ひゃっ!」
「何だよ」
「どうしたの、アイリちゃん」
幾重にも重なった、誰かの声。塔の奥から強く響いている。
怒り、悲しみ、そうではない。これは後悔、そして興味。
だが、誰も指摘しない。アイリにだけ聴こえた、唸る声。アイリは、そっと塔の方を振り返った。
間違いない。誰か、誰かがそこにいる。一人や二人ではない。
「……ここに住んでた、人達?」
ここに残っていたのは、朽ちていく建物だけではなかった。
塔に残っていた意思が、スクワラを助けてショウリュウを逃してくれたのか。
おおおおお。
まただ、また聴こえてきた意思。そうだよ、と告げているような。
「アイリ?」
「でも、どうして」
そこまで告げた時。
隣にいたメメが、アイリに向かって無邪気にウインクした。
チラッとショウリュウに視線を送り、またもウインク。
──そっか、メメちゃんが説得してくれたんだ。
「メメちゃん、ありがとう」
「あのー、姫? 何か面白い事が分かったのかな」
「えっと、あのね」
シキに尋ねられ、何とか説明しようとしたアイリだが、後ろから泣きながら駆け寄って来た彼等に遮られる。
「ショウリュウくぅん……」
「すまねぇ、すまなかった! 俺らなんかの為に……無事でよかった!!」
「先に逃げちまって……」
目に涙をいっぱい溜めて、おいおいと泣き崩れる。
人情味溢れる姿。皆が困惑し、ショウリュウに視線を集めた。
「リュウちゃん、この人達だぁれ?」
「遺跡荒らしの盗賊だ」
「ふぁ!?」
「えー!!」
「盗賊ですって!?」
「トウゾク?」
ギョッとして飛び上がり、警戒する団員達を前に、盗賊二人はアワアワと否定して喚く。
「まだ盗ってなかったんだよぉ!」
「そういう問題ではないと思うのだけど」
「エリーナちゃぁん!!」
「それにほら、盗賊だって役には立つぞ!」
そう告げながら、盗賊のボスはおもむろに、大きな何かを懐から取りだす。
持ち歩くには大きな冊子が二冊。
『夢魔術手帖』、そして『駄作』。
すっかり掠れて読みづらい題名。目にしたショウリュウとスクワラの、二人の目の色が変わる。
「それは……」
地下に残したまま、燃えてしまったはずの書物。
「これ、ショウリュウくんが随分と熱心に読んでいたから、必要な物かと思ってな」
炎の中で、ずっと隠し持っていた。
「渡せてよかった……」
「盗みはお手のものだぜ」
「ほら、盗賊も捨てたもんじゃないじゃんか」
得意気に胸を張りながらも、やはり涙ぐみながら、ショウリュウに本を手渡す。
「な?」
「……」
ショウリュウは僅かに笑みを浮かべると、上手く動かない身体を起こし、二人の前に立つ。
「で、それもちゃんと警察に見せるんだろーな?」
「へ?」
「言っただろ、ここから出たら警察に突き出すって。とっとと逃げてればよかったのに、律儀なこった」
二人の顔が、一瞬で青く染まる。
「いや、あの」
「まさか」
「つーか、あの手の仕掛けが動いたのもあんたがそれ盗んだからじゃねーの? 何してくれてんだよ」
「鬼ーー!!」
助け舟──ではなく、茶々を入れたいらしいスクワラが、ショウリュウにサッと近付く。
「では、皆様方は任務がおありでしょうから、本官が警察に届けるとしますかな。このクメトの者も一緒に」
「おーい、ちゃっかり
「ラゲル警官のことかい?」
「そう、ラゲル。ラゲルって警官に話せばいい、西署にいた時にエリーナが助けた奴だ」
「承知」
「ああ、服は脱がせとけよ、逃げちまうから。証拠は本で充分だろ?」
「「やっぱり鬼ーーー!!」」
悲しげに叫びながらも、盗賊二人はあっさりとスクワラに連行されていった。
叫びの余韻が、遺跡に柔らかく流れていく。
何が起きたのか分からず、アイリはポカンとその背中を見つめた。
「いいの? あの人達、いい人達みたいだったけど。ショウリュウを助けようとしてくれたんじゃないの?」
「それはそれ、これはこれだ。痛い目みないと、繰り返す奴は繰り返すんだよ」
ショウリュウはふん、と鼻を鳴らすと、顔を背けた。
「二度と盗むんじゃねーぞ」
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