第三話 宇宙人と秘密のおしゃべり
結局、その後柊真は咲良に話しかけることができずに帰りのホームルームを終えてしまった。告白の答えが曖昧なまま、気まずい空気で過ごさなければならないのかと考えてしまい少しため息が出る。その時、左耳に女の声が飛び込んできた。
「やあやあ柊真くん。ボクと一緒に帰ろうよ」
話しかけてきたのは……黄色の瞳をした咲良だった。
「え!?なんで…?付き合うのはダメなんじゃないの?」
「ダメってなんのことだい?ボクたちは付き合っているじゃないか。一緒に帰るくらいなんの問題もないだろう?」
「ホントに付き合ってる……ってことでいいの?」
柊真は咲良に確認をとる。咲良は「告白してきたのはそっちだろう?」と笑う。その様子を見て柊真はようやく違和感に気づく。
「ていうか、『ボク』……?さっきまで『私』だったよね…?それに目も黄色になってるし……」
柊真は咲良の顔をよく観察する。目の開きも先程より大きくなっている気がするし、自信に満ち溢れたような顔をしている。
「……別人格か!?」
咲良は柊真の耳元にそっと近づき、「最初に言っただろう?四重人格だって」と囁く。
「ボクは宇宙人の人格さ。ねぇ、キミは宇宙人を信じるかい?」
「いや、まあ、信じ難いよ?正直。だけどさ、さっき吸血鬼を見せられたわけだから……一応信じるよ……」
「そうかそうか!そういえばさっき吸血鬼が血を吸ってたっけか!」
宇宙人は少し大きめに笑う。柊真はふと思った疑問をぶつける。
「なあ、宇宙人って言うけど、どこの星から来たんだ?」
「ボクは地球生まれ地球育ちなんだけどねぇ……ま、でもおじいちゃんはサマサムカって惑星で生まれたらしいよ。あっちの言葉で始まりって意味らしい」
咲良は言い終わると同時に、なぜか柊真の目を見つめる。目が合ったことに気づいた柊真も見つめ返す。そうすると、柊真は頭にフッと何かが流れ込んでくるような……そんな感じがした。
(ねぇ、ホントにボクのこと好き?)
流れ込んできたのは声だった。柊真は目を丸くする。目の前の少女の口は動いていないのにも関わらず、確実に彼女の声が聞こえるのだ。
(驚いてるってことは聞こえてるんだね。キミにも問題なく使えるっぽいね)
「な、な、なんだこれ……!!すごく不思議な感覚だ……」
(あ、キミもアタマの中でボクと喋れるよ。というかボクがきみのアタマの中に行ってるだけだし)
少女は頭の中でそう話しながら帰りの支度を始める。
柊真もリュックサックを背負い、少女の足取りに合わせ、帰路に着く。
(で、話を戻すけど、ホントにボクのこと……いや、ボクたちのこと好き?)
(好きに決まってるだろ!俺には嘘の告白で人を騙す勇気なんてないよ)
(それは詐欺だから勇気でもなんでもないけどね。好きなら嬉しいよ。キミなら死ぬまで着いてきてくれそうだ)
(死ぬまでって…あ、そうか、契約っていうのをしないといけないんだっけ)
(そうそう。契約に反対してるのは吸血鬼だけなんだけどね)
二人は駅に向かいながら、頭の中で会話を続ける。途中で通る商店街の風景や商品を眺めつつも、頭の中の会話に集中する。
(ほかの人格と会話したり、今ここで人格を切りかえたりできるのか?)
(うん。出来なくはないかな。ホントはいつでも人格をパッと切り替えられるんだけど、なるべく平等にするために、一時とか二時とかの一時間単位で人格シフトを決めているんだ)
柊真は少し疑問に思う。(切り替えるのは誰が決めるのか)と。
(ボクに話しかけてるわけじゃないと思うけど、誰が決めるかっていう声も聞こえちゃったから答えるね。人格は、四つの中でいちばん目の前の出来事に対する集中力が強いものに切り替わるんだ。今はボクがキミのことに強く集中しているから、ボクが喋っているわけだね)
(ふーん……じゃあさ、人間人格とか、吸血鬼人格もこの光景を見てるってこと?)
(常にってわけじゃないけどね。ボクたちの頭のなかは家みたいなもので、一人ひとりの部屋と、会議とか世間ばなしをする共有部分、そして、この体を動かす操縦席みたいなのがあるんだよね。寝る時以外は誰かが必ずここにいるよ)
柊真はなかなか不思議なものだな、と思う。まるで戦隊モノのロボットのようだ。
「ぷはっ、どうだい?頭の中で喋ってみた感想は?」
柊真は先程までとは違い、鼓膜で少女の声を感じる。
「すごく不思議な感覚だったよ…なんか、こう…ふわっとしてると言うか」
「ふふーん!これがサマサムカ人の力さ!」
サマサムカ人の血を引く少女は大きな胸を張る。柊真はそれを見てまた疑問が浮かぶ。
「……ねぇ、なんで宇宙人と人間の子供が出来てるの?あと、吸血鬼とか悪魔とか……」
「ああ、それはね、地球の悪魔とサマサムカ人の遺伝子が非常に似通っていたからなんだ。悪魔と吸血鬼の遺伝子も近いしね。それらがいい感じに混ざりあって…ボクが生まれたってわけさ!!」
四種族の血を引く少女は自信を持って親指で自らを示す。そうこうしているうちに、踏切のカンカンという音が耳に入ってくる。
「あ、咲良…はどっち方面?」
「ボクは
「俺も田葉方面だよ」
「なーんだ、同じじゃん!」
咲良は軽く柊真の肩をはたいてからスマホを取り出し自動改札機にかざす。柊真はその後に定期入れをかざす。
「ねぇ、最寄り駅どこ?」
「園花駅」
「同じじゃん!」
二人はなんとなく嬉しくなり、自然に口元が緩む。
「じゃあさ、高校に入る前にはもう出会ってたかもしれないね!」
「あー……いや、俺は高校に入ると同時に引っ越してきたから…それはないかも」
「……そっか」
柊真は少しだけ悲しそうな表情を浮かべる咲良を見て少し後悔する。嘘でもそうかもと言っておくべきだっただろうか。
その後悔を振り払う前に、十六時五十七分発の快速列車が二番線に到着した。二人は少しだけ混んだ車内に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます