第8話

 隆史とのデート2回目。

 よりを戻してはいないのだが、話があるからと言われて出向く。

 二人でよく行ったバーに連れ出され、しこたま飲んだ。こうしていると、付き合っていた頃と何も変わらないように思える。この後、どちらかの家になだれ込んだりホテルへ行ったりしないことだけが違いだ。それでも、ちょっとした相手の言葉に違和感を持つことは増えているんだと思う。

 公園をぶらぶら歩きながら、隆史は手をポケットに入れたり出したりしている。落ち着かないときはいつもこうだ。

 手をつなごうとしてくるのを、私は冗談のように振り払った。酔いすぎたのかもしれない。隆史が急に弱ったように見えたからかもしれない。急にイライラとした気持ちが湧き出してきて、さっきまでの態度とどうつなげていいのかわからなくなってくる。

「未来さぁ」

「なぁに」

「どうしたら許してくれるのよ」

 隆史も飲んでいる。いつもなら考えられないような大きな声で、参った、というような声を出す。

 昔は、よく二人で飲んでは馬鹿さわぎもしたものだった。

 酔っ払って二人で公園の大きな木のまわりを、歌いながらぐるぐる廻った……バカップルそのものだ。あのときは、こんな空気になることがあるなんて、予想もしなかった。

 プライドの高い隆史は普段はかっこつけているくせに、飲むと妙に情けなく、少年のようになる男だった。気前が良くなって「いいよぉ、いいよぉ? じゃんじゃんいって」と人に酒を勧め、そそのかす。

 年をとったらたぶん、よく居酒屋にいる典型的なオヤジだ。

「ちょっと連絡しなかったことが、そんなに嫌だった? 疑われたことが、そんなに嫌だったの?」

 そんなことじゃない。

 許すも何もない。

 私は、あなたが浮気していたことも、みんな知っていたんだよ。私だけが別れたつもりでいたの? しばらく連絡をしなかったのは、もう一人の相手に飽きていなかっただけのことでしょう。

 そうじゃないなら、どうして何ヶ月も連絡してこないのか、わからない。都合が良すぎる。

 でもそんなことは、教えてやらない。

 せめてもの復讐に、何も知らせずに、何も許さずに。

 私の心は、閉ざされていた。中途半端に会って、もっともっと好きにさせて、いたぶって復讐したいという冷たい思いが、腹の中で渦巻いている。私はいつからこんな人間になったんだろう?

 ぜったいに許してなんかやらない。

 ぜったいによりなんか戻してやらない。

 でも、絶対に放してやらない……。

 私は隆史に会いたかったのだろうか? もう一度付き合うわけにはいかないことがわかっていて、……この攻撃的な気分は、その裏返しなのだろうか。

 自分でもよくわからない衝動が、私を酔った様な気分にさせる。

 隆史にしなだれかかりたい。抱きつきたい。噛み付いてしまいたい。こっぴどく振ってしまいたい。

 そんな感情をおくびにもださずに、私は隆史に微笑みかけた。

「未来?」

「私が怒ってると思ってるの?」

「うん」

「どうして?」

「なんか、怒ってる」

 隆史は心底情けなさそうな表情をしている。

「未来、俺のこと、まだ好き?」

「…………」

 目をそらして、それからもう一度振り向いて。

 私は隆史の頬にキスをした。

 ホッとしたような隆史の表情。

 私はあなたがだいっきらいだ。

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