008奴隷の誕生日
同居人が17歳の少女だと分かると急に落ち着かない。
ここに来たときは、自分で立ち上がれない程やせ細っていて、骨と皮しかなかった。
髪も長くてモジャモジャしていたし、男か女かも分からない程だった。
この2か月でシロはとにかくたくさん食べた。
ガリガリだった腕は細いくらいまでにはなった。
髪はモジャモジャだったが、梳(とか)かして背中くらいの長さでカットした。
シャンプーとコンディショナーを欠かさないのでキューティクルも整ってきて、髪の艶が全然よくなった。
色は白と言うか、灰色と言うか、銀髪だった。
こうしてある程度肉がついてくると、顔は整っている。
髪もきれいだし、まつげはすごく長い。
美少女と言えば美少女だ。
それもかなりの美少女だ。
ただ、身体のあちこちにやけどがある。
白い肌に赤い痣の様に全身のあちこちに。
恐らく一生消えない跡。
今日はそんな彼女の17歳の誕生日だ。
俺は外に出られない。
誕生日の料理を準備しようとしても、今日注文したものは明日にしか届かない。
部屋の中にあるもので料理を作ることにした。
ケーキだけは作れないので、宅配してもらうことにした。
「かみさま、今日はどうしたのですか?」
「どうして?」
「なんだか、かみさまがそわそわしている気がします」
「ああ、そうか。そういえば聞いていなかった」
「?」
「シロ、自分の誕生日って知ってる?」
「・・・」
(ふるふるふる)
知らないらしい。
「これ・・・」
母子手帳を出して見せた。
よく考えたら、これがシロの物かどうかも分からない。
だけど、このままではシロに誕生日が無くなってしまう。
「ここにシロの誕生日が書かれているんだ。そして、それは今日なんだよ」
押し切った。
「・・・」
「誕生日、おめでとう。今日で17歳だよ」
「・・・」
「どうした?」
「誕生日って何をどうしたらいいのか・・・初めて言ってもらったから」
なんだか悲しくなってきた。
胸が締め付けられた。
俺は思わずシロを抱きしめた。
シロはされるがまま抱きしめられていたが、しばらくして俺の背中に手を回してきた。
これは・・・盛大に祝わないと!
ケーキの他にチキンもいるな。
あれ?チキンはクリスマスか?
まあ、良いか。
シロが好きなものを全部作ってやろう。
今日が誕生日で良かったと記憶が少しでも上書きされるように。
嫌な思い出があったら思い出せないくらい楽しい思い出でオーバーフローさせてやる。
「シロ、誕生日の料理を作ろう。たくさん作ろう。手伝ってくれるか?」
「はい、かみさまのお手伝いになるなら」
「まあ、シロの誕生日なんだけどな。同じ部屋にいたらサプライズも何もない。だったら、一緒に楽しんだ方が得だろう」
何が『得』なのかは言っている本人も分からないけれど、そんなことはこの際どうでもいい。
「今日は何が食べたい?」
「ハンバーグ」
「んー、ミンチがあるな。冷凍だけど。他は?」
「シチュー、白いの」
「クリームシチューな。ニンジンがないけど、鶏肉とジャガイモとブロッコリーはある。いける」
「ニンジンは無くてもいいです」
「子供か!」
「餃子も好きです」
「ハンバーグにシチューに餃子。組み合わせも何もないな。でも、誕生日だし、いいか!」
「嬉しいです!」
餃子は元々、近々作ろうと思っていたので、皮もあるし、具の材料もある。
具を作ったら、2人で包んでいった。
テーブルの上にラップをはって、粉を振り、餃子の皮を置き、具をスプーンで載せ包む。
餃子はひだを作って包むときれいにできる。
水を使うときれいに貼れる。
シロは初めてやったのだろう。
具の大きさがまちまちでほほえましい。
でも、手作り餃子ってこういうのが楽しい。
別に売るわけじゃないので、食べられればOKだ。
ちなみに、昼ご飯はラーメンで簡単に済ませた。
朝から餃子を作り続けているのに、食べるのはラーメン。
作っているのにそれとは違う物を食べている・・・
ちょっと何しているのか分からなくなってきた。
「かみさま!これ!」
「どうした、どうした」
「きれいにできました!」
「子供か」
かわいいじゃねぇか。
餃子ができたのは夕方だった。
シロが餃子を包んでいる間に、俺はハンバーグとクリームシチューとサラダの準備も進めていた。
ケーキも届いた。
1ホールはさすがに多いだろうし、2人ではさすがにそんなに食べられない。
イチゴのショートケーキを2ピースだけ注文した。
*
これだけの料理があると配膳だけでも大変だ。
1つ目の料理を出して、2つ目、3つ目を出しているうちに1つ目の料理が冷めてしまう。
しかも、餃子は数が大きいので、うちにあるフライパンでは一度に全部焼けない。
餃子は食べきれないことも考慮して、最後に回した。
とりあえず、食卓にはハンバーグ、シチュー、餃子(第一陣)、サラダが並んだ。
「かみさま、すごい料理です!おいしそうです!」
「さすがに量が多いから、食べきれないときは明日に回してもいいからな」
「はい」
「よし、じゃあ、『お誕生会』を始めようか」
「おたんじょう・・・かい・・・」
シロの目は希望にきらきらしている。
そんなに期待されると少し気が重いな。
*
「誕生日・・・おめでとうー!」
「おおおおお!ありがとうございます」
「じゃあ、まずは、いただこうか。食後にケーキも準備しているからケーキの分はお腹を残しておいてくれよ」
「ケーキ・・・はい」
わくわくが倍増している・・・
目がキラキラしている。
かわいい顔が一段とかわいいじゃないか。
プレッシャーが増してきた。
「かみさま、ハンバーグおいしいです♪」
「シロが好きなチーズインにしてみた」
「チーズインです♪」
「このシチューもおいしいです。」
「ニンジンがなかったしね。次はニンジン入りを作るぞ」
「そんな~」
シロの眉がハの字になっている。
ニンジンが嫌いとか、子供か。
*
いよいよケーキだ。
「さ、ケーキだよ」
「これがケーキ・・・」
ケーキ知らないのかよ!?
心の中でツッコんでしまった。
「ちょっと待てよ、ロウソクを・・・」
「ロウソク・・・」
完全にオウム返しのシロ。
おもしろい。
かわいい。
子供か。
ケーキを注文するときダメ元でロウソクを頼んだらOKだったみたいで、2本一緒に届いたのだ。
1本しか要らないけど、良かった。
誕生日ケーキと言えばロウソクは必要だろう。
火をつけて・・・と。
「ハーピバースデートューユー♪ハーピバースデー・ディア・シロー♪ハーピバースデートューユー♪」
これっていつもちょっと照れくさいよな。
「・・・」
「・・・」
シロが動かない。
次、どうしたらいいのか分からないのか?
「ほら、シロ、願い事をして火を吹き消して」
「え?あ、はい!」
「・・・」(ふー)シロがロウソクを消した。
どんなことを願ったのか。
聞いてみたいものだ。
「はい、フォーク。さ、食べよう」
「はい」
シロは俺がケーキを食べるのを見て、真似するように一口大に切って食べていた。
*
「シロ、プレゼントは準備が間に合わなかったから、別に準備するよ。何がいい?」
「プレゼント?」
「そ、誕生日プレゼント」
「もう、十分嬉しかったです。これ以上何かもらったら心がどうにかなってしまいます」
「誕生日は『嬉しい日』って決まってるんだよ。嬉しいことはいくつあってもいいもんだ。急がなくていいから今度ゆっくり考えておいてよ」
「はい。ありがとうございます。かみさまが欲しいものをくださるなら・・・さっきのロウソクを消すときにお願いしたことがあって・・・」
「お、何かあるんだ。言ってみて」
シロはいいにくそうに話し始めた。
口元にケーキのクリームがついたまま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます