003奴隷と神様と食事

シロがうちに来て1か月が経過した。

そこで、ハンバーグ、チキンのモモ焼き、コーンスープ、その他オードブル的なものをテーブルの上に準備した。


それに気づいたシロがおろおろし始めた。

豪華すぎて驚いているのかもしれない。

そのしぐさがかわいいので、しばらく見ていてもいいのだが、かわいそうなので、声をかけてみた。


「シロ、慌てなくていいんだよ」


「はい、でも、誰か来るんじゃ・・・」


ああ、そう来たか。


「いや、これはシロと俺の食事だよ。シロがここにきて1か月だろ。今日は椅子に座って食べてみないか?」


「そ、そんな・・・かみさまと同じテーブルにつくなんて・・・」


かみさま?

俺の名は神谷(かみや)と言う。

神谷様・・・略してかみさま?


「『かみさま』って、それはニックネーム的な?」


「と、とんでもないです!」


シロがうつむいてしまった。

あまり攻めても委縮するばかりだ。

ゆっくり返事を待つ。


「奴隷の私を・・・助けてくれて・・・ご飯やお風呂を・・・だから・・・」


「『かみさま』って『かみさま』みたいってことか・・・」


まいったな、と頭をかいていると、シロはきょとんとしていた。

もしかして、本物の『かみさま』と思っていたのか・・・


そう言えば、ご飯を食べた後いつも何か言っていたのも、今思えば『かみさまに感謝します』と言っていたような・・・


俺はゆっくりとシロの横に行って、椅子を引いた。


「シロ、俺はかみさまでも何でもないんだから、一緒に座っていいんだよ」


そういって、椅子に座ることを促す。

身体の小さいシロだが、いつもより一回り小さくなって様に見えるくらい小さくなって、ちょこんと椅子に座った。


「フォークやスプーンは使えるかな?」


シロは箸が苦手みたいだったので、スプーンとフォークを準備していた。


「今日はお祝いだ。好きなだけ食べていいんだよ」


シロが両手を顔に当ててしゃくり始めた。

どうやら泣いているようだ。


「シロ、どうしたんだい?そんなにスプーンとフォークが嫌だった?」


(ふるふるふる)


シロが顔を覆ったまま顔を横に振った。


「かみさま・・・ありがとうございます・・・」


俺は席を立って、ティッシュを1枚とってシロの涙を拭いてやった。

シロはまつげが長い。

その長いまつげが涙で濡れていた。


「もう、シロは奴隷じゃないんだから、今までの分まで食べて元気になるんだ」


シロはますます泣いてしまった。

号泣だ。

シロが落ち着くまでしばらく座って待った。

横に座って頭を撫で続けた。


泣いていたシロも徐々にいつものように目を細めている。

本当に頭を撫でられるのが好きらしい。


料理は冷めてしまったので、電子レンジで温めなおした。


「ほら、シロ、1か月のお祝いだ。・・・まあ、何のお祝いかはよく分からないけどな」


シロが手を胸のところで合わせて頭を下げている。


「ほら、せっかく作ったから温かいうちに食べよう。今まで手で食べてたから熱いものがダメだったろ?ゆっくりでいいから」


「はい・・・」


大皿にまとめて盛っていると、遠慮して料理を全然取らないので、オードブルは皿ごと渡した。

シロは食べるのが早い方ではないが、たくさん食べる。

作った料理をもくもくとおいしそうに食べてくれるのはなんだか幸せを感じる。


1か月経ってやっと同じテーブルで食事をすることができたのだった。


「おいしいか?」


「はい、かみさま。おいしいです」


その笑顔のために料理を作ったようなものだ。

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