Day11 新しい道(お題・からりと)
からり、からりと木の歯車が回る。台の上で踊るからくり人形を僕は飽きずにずっと眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……今年もダメだった……」
からくり工房の自分の狭い部屋に入ると、がっくりと力が抜ける。
星夜祭の人形劇の舞台を出る、からくり人形のコンクール。今年も僕の作品は賞に選ばれなかった。
十歳のときに師匠のからくり人形に憧れて、この工房に入り、下積み時代を経て、人形を作り始め、もう何年にもなるのに、新人人形師の登竜門であるコンクールにかすりもしない。
ここ数年は工房に後から入った弟弟子達の作品が受賞するのを遠くから見ているばかりだった。
『もし、今年もダメだったら……』
そう言っていた師匠は今年の秋の初め、一週間ほど肌寒い日々が続いた夜、風呂場で倒れ、そのまま亡くなってしまった。
「師匠、僕、今年もダメでしたけど、これからどうすれば良いんですか?」
賞の結果を見た帰り、『椎の木通り』の公会堂で不思議な出来事の相談を受け付けているという、聖騎士様が渡してくれた人形に話しかける。
僕がこの世界に入る切っ掛けとなった師匠のからくり人形だ。が、老朽化からか動かなくなってしまい、今年の舞台を降りた。
『この子が君の元に連れていってくれって』
不思議な依頼を解決しているというだけあって、妙なことをいう聖騎士様だったが……。
……もしかして師匠は今年もダメだったら、僕を工房から追い出すつもりだったのかな……。
それも仕方ないのかもしれない。
パラパラと冷たい雨が降ってくる音が聞こえる。
僕は机の上に散らばった工具を片づける気力もなく、ベッドに潜り込んだ。
シュ……シュ……。
暗い中、雨音に別の音が混じっている。これは……師匠がノミを研ぐ音だ。耳をすますと声が聞こえてくる。
『すまんな。いきなり逝ってしまって。お前の作るからくり人形は確かに人目を惹く華はないが、丁寧な仕事を積み重ねた他にひけを取らない見事なもんだ。だから……もし、お前が今年も賞を取れなかったら、私はお前に違う道を教えるつもりだった。それについては、明日、工房にやってくる男に聞いてくれ』
シュ……シュ……。
音は続く。
『やめるんじゃないぞ。お前は私が育てたうちでも指折りの立派な職人だ』
師匠の声が聞きたかった言葉を紡ぐ。
灯りをつけると、綺麗に片づけられた机の道具箱の横に、あの師匠のからくり人形が転がっていた。
※ ※ ※ ※ ※
「お前か、アイツが目を掛けていた弟子は。俺はアイツの友人でからくりの修理師をやっている。もし、お前が今年、賞を取れなかったら、うちの工房に入れてやってくれと頼まれていたんだ」
工房に朝一番にやってきた男の人が僕に告げる。
この人はシルベール一と呼ばれる修理師だ。人形だけでなく、様々なからくりを直すことが出来る、
これが師匠が教えると言っていた僕の『違う道』なんだ。
「行きます。いえ、どうか僕をそちらの工房に入れて下さい」
僕は男の人に頭を下げた。
「そして、この人形が直せるように、僕を鍛えて下さい」
師匠のからくり人形を差し出す。
男の人が目を細め、にっと白い歯を見せた。
依頼人:男の人の霊の憑いた、からくり人形
依頼:引退したからくり人形を弟子に届ける
報酬:彼が工房を移るときにくれた、やじろべえ
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