Day10 星の玉(お題・水中花)
「ガスがわたしのキラキラとったぁ~!!」
「……ごめん、ミリー。でも朝になったら消えていたんだよ……」
「とったぁ~!!」
「お嬢、本当に消えていたの」
「キラキラがない~!!」
「ミリー、いい加減にしなさい」
「ガスなんてだいきらいっ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日、公会堂には可愛らしい兄妹の依頼人が来た。
お父さんに頼んで、やっと買って貰った
「……あ~」
思いっきり身に覚えのある依頼に、私は影丸と一緒に『椎の木通り』に向かった。通りの両脇には七日後に控えた星夜祭を当て込んだ、ぼんぼりや小さなランプ、星飾りを売る屋台が早々と並んでいる。
「星夜祭とはなんでござるか?」
「夜が一番長くなる『月の日』のだいたい一月前に開かれるお祭りなの。大鍋に野菜を沢山いれたスープを広場で炊いて皆で食べながら、大地の恵みに感謝し、また春にこんなふうに会えますようにって祈るのよ」
祭りにはよく不思議なことが起こるが、特に星夜祭はこの時期と重なるせいか、更に多くの不思議が起こるらしい。今日は二件同時に持ち込まれたので、もう一件はリサさんとフランが行っている。
「聖騎士様、あのお店だよ」
兄妹のお兄ちゃんの方が道の端の屋台を指す。
古ぼけた木の屋台。台にはいろとりどりの水中花が秋の光にきらめいていた。
「それはこの星夜祭の時期にはよくあることなんだよ」
兄妹の話を聞いた屋台のおじさんがすまなそうに謝る。
水中花は一年中、どの祭りでも売れるものなので、祭りの度に屋台を出すが、特にこの星夜祭では入っていた光の玉が消えた、という苦情が寄せられるのだという。
「そんなもの入れてないんだけどね」
屋台の水中花を見せてもらう。確かにどの瓶も入っているのは紙の花ばかりで光る玉など無い。
「カゲマル」
「承知」
影丸がひょんと台に飛び移り、一つ一つ丁寧に水中花の瓶を見ていく。全部見終わると彼は一つの瓶を手に取り掲げた。
「奥方様、これに星の気が入ってござる」
「星の気?」
「そう、私も小さい頃、同じように光の玉が入っている水中花を持っていたんだけど……」
家にガスが遊びに来たとき、ガスが一つ下の妹のキャシー……今は聖獣神殿の本部で私のような聖騎士になる為、修行している……に見せたいと言って、一晩だけの約束で貸したのだ。しかし、翌日戻ってきた瓶からは光の玉が消え、私はガスが無くしたのだと大泣きして彼を責めた。
「実はこの時期の澄んだ夜空から降り注いだ星の気が、地上の水に宿ったものらしいの。多分、このおじさんが仕入れている水中花を作る工房の水が原因だと思うよ」
それが瓶に入り、更に瓶が星の光にさらされているうちに小さな玉が生まれ光るようになったのだと、お店の番頭さんが教えてくれた。
「だから、これを星の光が当たるように窓辺に置いておけば、また光の玉が現れるわよ」
ただし、星の光が途絶えて数日立つと儚い光は散ってしまう。
私はそう兄妹に注意して、屋台のおじさんから影丸の掲げた水中花を買うと、二人が持っていたものと交換した。
「解った!」
「ありがとう! 聖騎士様!」
二人が嬉しそうに去っていく。
「これでこの依頼は解決」
ふうと一息つくと通りの向こうから香ばしい匂いが漂ってくる。
「そうだ、あのときのお詫びをしないと」
私は向かいの焼き栗の屋台に足を向けた。
※ ※ ※ ※ ※
「はい、ガス。これお土産とお詫びに」
「焼き栗? ああ、星夜祭だね。もう屋台出てるんだ。でもお詫びって?」
「それと……私、ガスのこと大好きだから」
「へ!?」
依頼人:小さい兄妹
依頼:水中花の中の星の玉
報酬:星の玉の消えた水中花
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます