Day3 スライム捕獲隊(お題・かぼちゃ)

「奥方様、向こうに行き申した!」

 天井の梁から影丸の声が飛ぶ。

「向こうね!」

 私は魚を捕るタモ網を手に台所に入った。ぴょん! と梁から赤とピンクの影が飛び降りてくる。

「おじょう! そこに野菜籠の中に入ったわ!」

 肩に乗ったフランの声にタモ網を振りかぶる。

「捕まえた!!」

 私はかぼちゃの入った野菜籠ごと網を被せた。

  

「お嬢は雑過ぎ」

「すみません……」

 タモ網に手を突っ込んで、野菜籠の奥に隠れてしまった二匹のスライムを引っ張り出す。

 ピンクの方を網に入り込んだ影丸が、もう一匹の赤い方を私が取り出し、リサさんの用意した鳥駕籠に入れた。

 今日の依頼は通りの家々でのスライムの捕獲。この時期、寒くなると街の隅で暮らしていたスライムが家の中に入ってくるのはよくあることらしい。

「ありがとうございました」

 夜中ごそごそ梁を動き回るスライムに、寝不足になっていたというおばあさんが、かぼちゃの入ったカップケーキをお礼に渡してくれる。お返しにスライム避けのハーブの束を渡して、私達は次の家に向かった。

「……しかし、同じスライムなんだから、こんなことしなくてもフランが説得して家から出してくれればいいのに……」

「お嬢、私達とその子達を一緒にしないで」

 フランがぷるんと揺れた。

 普通、目にする野生のスライムは犬や猫のくらいの知性しか持たない人畜無害の魔物だ。

 しかし、オークウッド本草店で主に薬草園で働くスライムは、二代目が仲間同士の縄張り争いから保護した一族で、人並みの知性を持ち、人語も話せる。

「昔のスライムは皆、私達みたいだったけど、魔王の『腐土ふど』で堕落して言葉を失ってしまったの」

「そうなんですか……」

 リサさんが鳥駕籠の中で外に出ようとわちゃわちゃと跳ねているスライム達を見る。

 魔王……正式名『腐土の魔王』は『触れれば怪物と化するか、堕落する』という『腐土』で大陸を覆い、全てを支配しようとした。そのときに一部を除き、地面を這い回る種族だったスライムは『腐土』に触れ、知性を失ってしまったのだ。

 これはスライムだけでなく、あの時代、多くの魔物が堕落し、倒され、消滅している。

 ようやく、ここからは出られないと解ったのか、スライム達が大人しくなり、リサさんが入れたふかし芋を食べ始める。

「……哀しいものね」

 フランが声がぽつんと流れた。

 

 家々を回り、鳥駕籠いっぱいに集まったスライムを公会堂事務局の隅に置いた檻に移す。

「この後、この子達はどうなるの?」

「街の人に譲渡して飼って貰うんです」

 街に住むスライムは森や山に住むものと違い、カラフルな子が多く、人に慣れて、よく懐くので、飼いたがる人が多いという。

「犬や猫を飼うと目がかゆくなったり、鼻水が出たりする人がいる家庭の方がよく貰いに来ます」

 買い物帰りに公会堂に寄ったというお母さんと娘さんが、檻を前にスライム達を見ている。

「この子達が良い!」

 娘さんが指したのはあの赤とピンクのスライム。

「お家に馴染んでないうちは逃げ出しやすいので、駕籠で飼って下さいね」

 リサさんが草で編んだ駕籠にスライムを入れて渡す。お母さんと娘さんは嬉しそうに駕籠を抱えて帰っていった。

「良さそうな家に貰われて良かったね」

 スライムをじっと見送るフランに笑む。

「そうね」

 フランが水色の身体をぷるんと揺すった。

 

 依頼人:『椎の木通り』の家々の人達

 依頼:スライム捕獲

 報酬:かぼちゃのカップケーキ他、焼き菓子や果物や野菜

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