第5話

唇を重ね合わせていた女と男はその後

熱い抱擁をしていたが急に女の体が震え出し

気づけば宙に浮き始めた。

それを合図に女は男から宙に浮いたまま急激に引き離されてしまった。

女は男から遠ざかりながら

「……」と言葉を発し必死に手を伸ばすも

時すでに遅く遠ざかる男を見守ることしかできなかった。

男もまた遠ざかる女を見守り手を伸ばしたが女はすでに自らの腕の中にはおらず

ただただ大樹の遥か上空を一瞬見つめて

「……」と言葉を発し再び女を見つめ直した。

女は遠ざかる男を見つめていたが男も遠ざかる女を見つめながら宙に浮き今度は大樹の上方へと移動し始めた。

女は大樹の上方へと向かっている男を

いつまでも見つめていた。

いつしか男が大樹の上方へと消えた時

女と男の距離は永遠(とわ)に縮まらないものとなっていた。

ある例外を除いては……。


5話序章 完






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る