すべての謎が解けました(解けてませんでした)
伯爵家のお城は広い。
延々と廊下を歩かされ、やっと屋外に出た。しかし来たときと景色が違うぞと思ったら、ここは門とは逆方向、お城の中庭なのだという。
花園の奥に建物があった。白壁の円形で、大きさは庶民の家くらい。
ミオが扉を開くと、ムワッと白い煙に包まれる。
……湯気? その向こうに、見えにくいが池のようなものがある。
「もしかして、ここお風呂!?」
だとしたらすごい、水と薪の消費量! 一日で、シャデラン家ひと冬ぶんの燃料をつかうのではないかしら。
そう考えた途端、合点がいった。
そうか、なるほど。なぜわたしがココに連れてこられたのか、やっと分かった。
わたしに薪を割れというのね。それから浴室の掃除も。
この大きさなら徹夜の仕事になる。その懲罰で、無礼の禊ぎとしてくれるのだろう。
わたしは感動した。伯爵様……なんて慈悲深い方(かた)。
よぅしやるぞと、わたしは腕まくりをした。意気揚々と奥へと進む。そこに先客がいた。
「あぁーっいらっしゃい。お待ちしておりましたわぁー」
年は二十代半ばだろうか。金髪碧眼、動きやすそうな貫頭衣を着けた女性である。
にこにこと満面の笑みで両手を広げ、わたしを大歓迎してくれていた。
「あなたがマリー様ぁ? 私の名前はチュニカ。よろしくお願いいたしますわぁ」
のんびりした口調に合わず、機敏な動きで頭を下げてくれた。わたしはそれ以上に深く礼をした。
「よろしくお願いします。なんでもお申し付け下さい。わたしも家事は手慣れていますので、一通りだいたいは出来ると思います。力仕事も任せて下さい」
わたしの挨拶に返事はなかった。
「チュニカ、先ほどお伝えした通りの手はずで。旅の垢を落とすだけではなく、肌や髪を徹底的に美しく仕上げてください」
「はぁいかしこまりましたぁ。うふふっ、とぉっておきの美肌湯を沸かしてありますよぉ」
……ん? わたし、おいてけぼりになってる。
……どうしよう。ついていけない。
立ち尽くしているわたしに、ミオがやっと紹介してくれた。
「マリー様、この喋りが遅い侍女はチュニカ。伯爵家の湯の番をしている者です」
「湯の番……オフロ専属の侍女!?」
「はい。湯を沸かし垢を擦るだけでなく、薬効にもよく通じています。健康と美容に効果のある洗剤や入浴剤、効果的な洗髪方法、マッサージなど。こう見えて非常に優秀な薬師なのです」
へえ……? 正直よくわからないけど、なんだかすごそう。いや、すごいんだろうな。
ぼんやり、大きな湯船を眺めていると、不意に体の締め付けがなくなった。
ンッ?
なんだか涼しくなった――視線を下ろすと、そこにわたしの裸体があった。
「きゃあっ! な、なんで脱がすの!?」
「だってぇ、オフロに入るんだから、服を脱がしませんとぉ」
「オフロ!?」
チュニカはわたしの後ろから、一瞬で背中のリボン紐をほどき下着を剥ぎ取ったらしい。混乱している内に、わたしは全裸にされてしまった。チュニカが歓声を上げた。
「あらぁあびっくり。マリー様って案外、オムネが豊満でいらっしゃるぅ」
「ひゃぁああああっ!」
大慌てで体を隠すわたしに、メイド服姿のミオは、いつもの無表情で手を振った。
「いってらっしゃいませマリー様。ご心配なく、チュニカがあんまりにも不快だったら、ひっぱたいて結構ですので」
「どどどどういう、わたし、これから薪割りを、お風呂の掃除をっ」
「あはははは何言ってるんですかマリー様ぁ、綺麗になるのは、お風呂じゃなくてマリー様のほうですよぉ!」
大笑いするチュニカ。わたしは目をぱちぱちさせ、戸惑うしかなかった。
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