続 わたらない送電線網
@Fushikian
第1話
ウエストタウンの人々は我慢強い。各々の家庭が農業あるいは牧畜に従事していて、もう3代目だという家もある。川で漁業を営む人々もいるが、ミドルタウンとの間で漁場をめぐってたびたび争いがおきている。
ネロは養豚業を営んでいる。入植した祖父の代から続いている。ネロは家業が嫌いではない。生き物の相手をする仕事が性に合っていると自覚している。平穏ないまの暮らしに不満はないが、イーストタウンのずさんな電力管理のためにミドルタウンに電力供給を停められることには確かに困らされてはいる。
それでも停電の夜には辻々に松明を灯して互いに助け合う姿勢がこの町の伝統だった。耐え忍ぶのが町の美徳の一つだったが、若い世代では忍従を強いられることへの怒りの声も最近では聞かれるようになった。
ネロは生まれてくるはずだった息子を亡くした。ネロの妻、セフィーロが分娩中に事故が起きたのである。急に起きた停電で赤ん坊を取り上げた医師の手元が狂ったのである。特に不満を口にしてこなかったネロであるが、この分娩事故のことは消えることのない傷跡のように残り続けている。
「町に風力発電所をつくるぞ!」
昨年選ばれたばかりの町の長、ラウルは今こう呼びかけている。背が高く、やせ型のラウルが拳を突き上げて叫ぶ姿はなかなか絵になる。ネロたち町の住民は心のどこかで忍従の日々を苦々しく思っていた。二つの町より下位に扱われる日々を、この長なら打破してくれるかもしれないと期待が拡大している。
「ウエストタウンの人々よ、もう下を向いて耐える日々は終わりだ。冷たい風に育まれたわれらこそ、三つの町の盟主にふさわしい。われらの手でこれまでの常識とやらをひっくり返すのだ!」
ラウルの声が風にのって町の奥まで伝わっていく。ネロはこの長に賭けると決めた。
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