複垢警察24時
板野かも
第1話 複垢捜査官
「間違いない。ここがヤツの自宅だ」
郊外の住宅地に建つ平均的な家屋だった。
「警部。
佐門の声は微かな緊張に震えていた。この青年は今回が初の
「出すさ。
言いながら、間黒は手元の携帯端末の画面を注視していた。ターゲットの
間黒は二回り年下の佐門の顔をちらりと見た。彼の表情はまだガチガチに強張っていた。自分にもこんな頃があっただろうか、と間黒が思いかけた時、端末の画面に赤い文字が光った。
「ログインが確認された。突入する!」
ばん、と部屋の扉を開け、間黒は中の人物に向かって
「動くな! 複垢警察だ!」
ひっ、と怯えた声とともにデスクチェアごと振り返ったのは、ひょろりと痩せた眼鏡の若者。卓上には小説サイトの画面を映したデスクトップパソコン、そして男の手にはスマートフォン。
「そのスマホを見せてもらおうか」
「痛っ、痛いっ、放せよっ!」
わめきながら暴れる男を片腕で押さえつけながら、間黒は部屋の入口に立つ佐門に向かってスマホを放り渡した。それを受け取った佐門が、画面を見るや否や、「複垢です!」と叫んだ。
男を床に組み伏せ、間黒は語気鋭く問いかける。
「教えてもらおうか。お前、
「ぐっ……!」
「午前十時三十八分、多重アカウント使用の現行犯だ。お前の本垢及び複垢を強制退会処分とする」
間黒がその旨を告げると、案の定、男は見苦しく抵抗を示した。
「ほ、本垢だけは勘弁してくれ! あの小説は、俺が中学生の時から温めてきた自信作なんだ!」
「笑わせるなよ。ならば何故、複垢なんかに手を出した? お前の小説を殺したのはお前自身だ」
間黒は自分の携帯端末に向かって呼びかけた。「十時三十八分、複垢を現認」――その報告は直ちに本部に伝わり、一分と経たず、あらかじめマークしてあったこの男の本垢と複垢は
「……なんでだよ……なんで俺だけ……」
間黒達が立ち去る間際、複垢使いの男は開き直ったように語気を荒らげた。
「複垢使ってる奴なんか、他にいくらでもいるじゃねえかよ!」
「安心しろ。お前だけ不公平にBANってことはない。取り締まれる限り全ての複垢を取り締まる――それが我々、複垢警察の仕事だ」
男に、部下達に、そして自分自身に改めて言い聞かせるように。
間黒は力強く断言し、男の自宅を後にした。
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