VR語彙大富豪編
第18話 核使いのミレイ
「ヒャッハァァ! 俺様の語彙『ヤクザ』が『余命いくばくもない彼女』を容赦なく爆殺! リア充は爆発してろってな! どうだ、こーいうプレイがやりたかったんだよ、俺はよ!」
ぐわぁんと凄まじい爆発音が轟いて、虹色のライトに照らされたコロシアムには
「くっ……血も涙もない……!」
言悟の
「さぁ、次はテメーだ、体験用アバターのガキ! 俺様の武闘派ヤクザに生贄を捧げやがれ!」
モヒカンがびしりと言悟を指差してきた。ふうっと息を吐いて、言悟は手札からカードを引き抜く。
ここにいるのは言悟であって言悟ではない。言悟自身の身体はアミューズメント施設の
ネットリンクで大勢の観客が見守るコロシアムで、言悟のアバターが、言悟自身とは似ても似つかない声を発する。
「ヤクザ者だって所詮は人の子。どんなに悪さを重ねたって、自分を育ててくれた『母の愛』には背けない!」
『……母ちゃん……!』
『たかし、アンタまだこんなことやっとるかね。人様に迷惑掛けるようなことしたらいかんよう』
自らの意思を持つかのように、VR世界に
「チッ……! やりやがったな、クソガキ……!」
モヒカン野郎が恨みに満ちた視線を向けてくるが、言悟は彼に目もくれず、
他のプレイヤーのことなど正直どうでもいい。この四人卓で言悟が気になっているのは、ただ一人、彼女の存在だけなのだ。
「くすくす。そうだよねー、ママの愛って無限大だよねー」
華奢な細腕を後ろで組み、ふわふわと天使のように身を揺らすヒマワリ柄の白いワンピース。
年の頃なら高校生くらいだろうか――ぱっちりとした目とぷるんとした唇、あざと可愛い魅力をこれでもかと詰め込んだような彼女が、上目遣いの小悪魔スマイルで言悟を見てきた。
「でも、ざーんねん。我が子に寄り添う『母の愛』も、容赦なく『核の炎』で焼かれちゃったのでしたっ。えーん、かわいそう」
鈴のような声色をころころと響かせて、彼女が両手をグーにして泣き真似をする。言悟があっけにとられた瞬間、閃光と爆音に次いで巨大なキノコ雲がコロシアム全域に広がった。
破壊し尽くされた地上には、母親の
「あんた……見かけによらず……!」
ぎりっと奥歯を噛んで言悟は彼女を見た。彼女は自分の口元に人差し指を当て、なんでもないようにキョトンと笑っている。
「くすくす。わたしがVR界隈で何て呼ばれてるか知ってる?」
丸く黒黒した瞳が言悟を見上げてきた。可愛さを煮詰めたような彼女の仕草に、なぜか言悟は底知れない戦慄を覚えて後ずさった。
「『核使いのミレイ』――。よろしく、黒崎言悟君♪」
VR界隈で知らぬ者は居ないらしいバーチャルアイドル、
言悟が人生初のVR語彙大富豪を彼女と囲むことになった経緯は、ほんの一時間ばかり前まで遡る――。
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