エンドの恋【本編完結済み】
小林勤務
序章 ここからだね
第1話 エンド
エンド――。
皆はこの言葉から何を連想するだろうか。
ジ・エンド
エンド・オブ・ウォー
エンド・オブ・ザ・ワールド
とかく、この世の果て、物事の終わりって意味しか想像できない。良い意味で表現されるのは、『ハッピーエンド』ぐらいで稀なのかもしれない。
だが、俺にとってエンドとは『終わり』ではなく、むしろ『始まり』であった。
「エンドのひとつも満足に作れない男なんて、文字通り終わってるわよ」
彼女は腕を組み、涼しい顔でこう言った。
なんとなく、自分が小ばかにされて内心ムカッときたが、今の俺では言われても仕方がない。あなたはまだスタートラインにも立っていない。そういう意味なんだ。
そう思うと、なんだか自分自身に無性に腹が立った。
エンドとは、終わりであり、目的であり、この場所目掛けて皆が集まる場所だ。
皆もスーパーには行くだろう。俺もだいたい毎日行っている。
そこで、必ず目にする場所があることに気付いているだろうか。
安売り商品、新商品、お店が売りたい商品。
それらが一堂に介して、通路の一番目立つ場所に陳列されている。
エンドとは言わば主戦場。陳列棚の先端(エンド)にあり、通路上に突き出した、スーパーの売り出しコーナーのことである。
この一角に情熱の全てを傾ける人がいる。
彼女の名前は、
年齢二十四歳。
端正な顔立ちの中に、時に人の心を見透かし、時に浮ついた心を射抜くような三白眼を持つ。スーパーの加食担当をしているのが場違いに感じられる程の美貌の持ち主。だが、当の本人はそんなことはお構いなしだ。胸元まで伸びた艶やかな黒髪を一つに束ねて、颯爽と店内を練り歩く。
その容姿、佇まいに、すれ違うお客さんは誰しも振り返る。
「やることないなら、この場所に全力を尽くしてみる?」
全力を尽くすって――。
そんな青春みたいなこと、俺にはあったのかな。
いや――なかった。
いつも思っていたことは。
俺なんか――。
自らの可能性を否定して、あるはずの情熱を放棄してしまう呪縛に囚われていた。
また、厄介なことにそのことに居心地をよくして、そこに居続けようとした自分がいた。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
このまま、そんな価値観に縛られていいのだろうか。
彼女の言葉は、妙に俺の心の深い場所を揺さぶった。
「あなたのエンドを見せてよ」
その笑顔は眩しく、ほのかな熱を帯びていた。
何気なく言われた彼女の一言に、俺の恋は動き出した。
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