第一章 幸福論
スマホを手に、ワイヤレスイヤホンを耳に。梅雨のジットリとした空気を見に纏いながら、自分の機嫌が段々悪くなって行くのを実感する。雨が降っていないだけ幾分マシだろ、と自らとりなす。どうやら機嫌を直してくれたようだ。
ふと、足元を見ると解けかけた靴紐が見える。高校生になって漸く上手く蝶蝶結びができるようになって調子に乗って何回も結んでは解きを繰り返していたからだろうか。しかし、雨天続きでスニーカーも湿っている。正直、今は触りたくない。学校に着いてからでも遅くはないだろうと妥協し、再び目線を手元の液晶に戻す。
ワイヤレスイヤホンから流れる音楽は、もはや自分の中で定番になったもの。そして胸に延々と燻り、思考をかき乱すだけの幸福の残滓も定番だ。隣の、もはや常連のスーツを着た男と共にバス停でバスを待つ。高校に上がってから、時程が変わり、乗るバスの時刻も変わってしまったのだ。嘆いてもしょうがない、そうは思うが通勤ラッシュから外れ、遅延が目立つバスを待っているのだから溜息を運転手の預かり知らぬところでついても許されるべきではないだろうか。
こうも暇なとき、残滓はいやに存在感を強める。いやなものだ、こんな惨めな思いを味わうのだったらそもそもあの幸せ自体、
―――なかったらよかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます