チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【32】ナチュラルボーン【なずみのホラー便 第120弾】

なずみ智子

ナチュラルボーン

【問題】


 どれほど不幸に思えることのなかにだって、きっと幸せは見つかるはず。

 それが今年五十歳になる伊沙子(いさこ)さんの人生のモットーでした。

 ある日のこと、親戚一同だけでなくマスコミ関係者までもが集まった場所に、伊沙子さんも夫ともに向かうこととなりました。

 この集まりの中心にいるのは、伊沙子さんの又従姉妹の直美さん夫婦です。

 憔悴しきっている直美さん夫婦に少しでも元気になってもらおうと、伊沙子さんは自身の人生のモットーを彼女たちに伝えました。

 ですが、伊沙子さんの言葉を聞いた直美さんは、泣き喚きながら手にしていた黒のバッグで伊沙子さんに殴りかかってきました。

 直美さんの夫にも「出ていけ! お宅とは金輪際、縁を切る!」と怒鳴られたばかりか、他の親戚たちからの冷ややかな目線も突き刺さってきたのです。

 自身の夫に引きずられるように、その場を後にするしかなかった伊沙子さんでしたが、自分は良かれと思って言ったことなのに、彼女たちがなぜあれほど怒り狂ったのか分かりませんでした。

 さて、直美さん夫婦が伊沙子さんの言葉に怒り狂った理由は何でしょうか?




 【質問と解答】


キクちゃん : 伊沙子さんの「どれほど不幸に思えることのなかにだって、きっと幸せは見つかるはず。」というモットーですが、時と場合によりますよね?


チエコ先生 : そうよ。まだ十五歳のキクちゃんだって、他人に教えられなくても分かることなのに、キクちゃんの三倍以上の時間を生きているはずの伊沙子さんには分からなかった。おそらく、他人にはっきり注意されても永遠に理解できない人なんだと思うわ。


キクちゃん : 伊沙子さんは、他人の心を傷つける無神経な言葉を悪気なく吐いてしまう人なんですか…………問題文の「憔悴しきっている直美さん夫婦」や直美さんが「手にしていた黒のバッグ」、そして親戚一同が集まっている状況から推測するに、これはお葬式の場だったんでしょうか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : 集まりの中心にいるのが直美さん夫婦ということですから、亡くなられたのは直美さん夫婦のお子さんですか?


チエコ先生 : YES。まだ十八歳の娘さんが亡くなったのよ。親よりも先にね。


キクちゃん : ……そうだったんですね。でも、このお葬式には親戚一同だけでなく、マスコミ関係者までも集まっていますね。一般人が亡くなったとしても、マスコミ関係者が集まってくるなんて普通はないと思うのですが……直美さん夫婦の娘さんは何か芸能関係のお仕事をしていましたか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : となると、娘さんは何らかの事件に巻き込まれて亡くなったというか、殺害されたんですね?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : 悲惨な殺人事件の被害者遺族に向かって、直美さんは「どれほど不幸に思えることのなかにだって、きっと幸せは見つかるはず。」といった趣旨の言葉を言ってしまったんですね?


チエコ先生 : YES。正解よ。娘さんを殺した犯人の男は、生まれついての性的倒錯者であり、娘さん以外にも複数の女の子を車で拉致して山奥に連れ込んでは殺害していたシリアルキラーだったの。他の被害者の女の子たちは長時間にわたる暴行の末に殺害されていたけど、犯人の供述によって、直美さん夫婦の娘さんだけは必死の抵抗によって暴行からは間一髪、逃れることができた。でも、追いかけてくる犯人から必死で逃げる途中、崖から転落して死亡したことが判明したの。それを知った伊沙子さんは、直美さん夫婦に向かって、「事件に巻き込まれたのは不幸なことだけど、他の女の子たちと全く同じ目に遭った末の最期でなかったことだけは幸せじゃない。」と言ったのよ。


キクちゃん : …………信じられない。本当に人の血が流れているんですか? もう、”ナチュラルボーン・無神経”どころじゃないですよ。



(完)

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