第二章 「家族」

第1話 相川家にて

 芽愛の案内で家に到着。

 およそ40坪の2階建ての家で、駐車スペースも確保されていた。

 アニメにも少しだけ外観が登場したので恭兵もここが芽愛の家だと確信した。

 恭兵と芽愛が玄関まで来ると、恭兵はあることに気づく。


「そう言えば、家の鍵あるのか?」


 学校から無理やり外へ連れ出された為、カバンは学校に置いたままだ。

 芽愛もそれに気づき、絶望、といわんばかりの涙目で恭兵を見た。


「いやいや、そんなこの世の終わりみたいな顔しなくても……家に行こうって言ったのは俺だし……」


 さすがに今の芽愛の顔を見て恭兵も何処か申し訳なさを感じてしまった。


「待ってて」


 そう言うと恭兵は、SKN1の助手席へ向かい、グローブボックスを開けた。

 そこには、ワイヤレスイヤホンのようなものなど他にもいろいろな物が入っていた。

 恭兵が取り出したのは、黒い万年筆のような形をした15センチくらいの棒だ。

 それを持って恭兵は家の玄関へ向かった。


「何ですかそれ?」

「万能キー、これなら開けられる」


 そう言って恭兵は、棒――万能キーのキャップを取ると、中にはギザギザの無い鍵のような平べったい物が現れた。

 恭兵は、それを玄関の鍵穴に入れ、横に付いているボタンを押すと、万能キーの底の部分のランプが赤く点滅し、やがて緑色の明かりが点灯した。

 そして恭兵は万能キーを回すと、ドアのロックは解除された。


「凄い!」


 恭兵の万能キーに感心した芽愛が家のドアを開けようとした時、恭兵がドアを押さえた。


「どうしたんですか?」

「待ち伏せも考えられるからな。離れないで」


 恭兵は拳銃ベレッタを構えて家の中へ慎重に入る。

 その姿は洋画の捜査官かボディーガードのようだ。

 恭兵は家の中を隅々まで調べた。ただし2階にある芽愛の部屋は気を使って見ていないが……どうやら待ち伏せは無いようだ。


「大丈夫だ」

「あの……私を守るのはいんですけど……どのくらい続くんですか?」

「あと……24時間と数分くらいだ。それを過ぎれば――」


 そこで恭兵は言葉を詰まらせた。

 自分がミッションをクリアすれば、代わりに浩次が死ぬ。今更だがそれを思い出し、恭兵に胸が張り裂けそうな思いに見舞われた。


「――とにかく、早く着替えて」

「はい……」

「そうだ。できれば長ズボンがいい?」

「あの……私、長ズボンは学校のジャージしかないんですけど……」

「それでいいよ」

「ええ、私が……嫌です」

「あのね、今キミは無数の男たちに狙われていることを自覚しなさい!」

「でも学校のジャージで出かけるのはちょっと……」

「……」


 今はそれどころじゃない、と言いたかったが、確かに学校以外で外出するのに学校のジャージというのは、自分でもなんかイヤだ。

 恭兵も何となくだが芽愛の気持ちが分かる気がした。


「分かった。だけど長いスカートとか持ってない? ついでにハーフパンツかスパッツとか」

「スパッツならありますけど、どうしてですか?」

「万が一襲われた時に時間が稼げる」

「なるほど……」


 恭兵の提案に納得した芽愛は自分の部屋に入って行くと、恭兵はドアの横で待機した。

 ところがだ。ここから恭兵にとってある意味試練の幕開けとなる。

 しばらくすると――ファスナーが下ろされた音の後に床に落ちる物音が聞こえる、恐らくスカートだろう。

 それを聞いた瞬間、恭兵の頭の中で芽愛の脱衣状況が次々と浮かんでくる。

 そもそも本編で芽愛のあられもない姿を既に見ている所為もあり、どうしてもすんなり浮かんでしまうのだ。

 芽愛があんな姿で……


(――って、俺のバカ、何想像してるんだよ……)


 恭兵は理性を保とうと、ベレッタを窓に向けで構え、撃つ真似をしていた。

 本当は何か的になる物でも見つけて本当に撃ちたかったが、銃声を聞かれて通報でもされては敵が無駄に増えることになる。

 この時だけは、男に生まれたことが嫌だった。

 


 恭兵が1人でウジウジ悩んでいる頃――

 肝心の芽愛は下着姿のまま、ベッドに並べた着替えに手を伸ばした。

 すると芽愛は、ある気配を感じ、ベランダの方に目を向けた瞬間、芽愛の顔が青ざめていった。



『キャァァァー!』


 突然部屋の中から響いた芽愛の悲鳴によって冷静さを取り戻した恭兵。


「クソっ!」


 やはり侵入者か、と思い芽愛の部屋のドアを開け素早く拳銃を構えた。

 芽愛はベッドの側で蹲っている。

 幸い誰かに襲われた様子はないようだ。


「大丈夫か⁉」


 恭兵が声を掛けると、芽愛は蹲ったまま、右手でベランダを指さした。

 恭兵は銃を構えたままベランダの方を見ると、そこには黒い影。

 ただ、その黒い影の正体は誰もが嫌うであろう、

 

 ゴキブリだ。

 

 どこか拍子抜けした恭兵は目を細めて呆れた。


「は、早く何とかしてください!」


 芽愛は蹲ったままガタガタと震えている。

 まるで映画に出て来る怪物か亡霊に怯えるヒロインそのものだ。


(ゴキブリにここまで怯えるとは、相当嫌いな設定なんだね……)


 恭兵は近くにあったスリッパでゴキブリを叩くと、棚に置かれていたティッシュで包んだ。


「もう大丈……ぶ……」


 恭兵が芽愛の方へ向くと、そこには下着姿の無防備な芽愛が……。

 芽愛は勿論、恭兵も目が合った瞬間、みるみる顔が真っ赤に変わっていく。


「イヤァァァー‼」

「ゴメェェェン‼」

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