第7話 敵多すぎ!
1階の廊下へ出てあとは玄関から外に出るだけだ。
ところが、野球部の部員4人と屈強な体つきの顧問の男性教師が恭兵たちと玄関の間に立ちはだかった。
「
(ブスダ……変な名前……)
恭兵は内心名前に突っ込んだ。
「先生、実は――」
「――ダメだ!」
武須田に向かって駆け込もうとする芽愛を恭兵が止めた。
何故ならこの教師も芽愛を襲う可能性があるからだ。
恭兵は芽愛の手を掴んだまま武須田たちとは反対の方へ逃げる。
だが、ここは未知の世界に等しい、何処に逃げればいいのかが分からない。
「おい、早く相川さんを助けるんだ!」
恭兵たちの後ろから武須田の声が聞こえる。
振り返ると武須田と野球部員たちが追いかけてくる。
普通に見れば女子生徒を誘拐しようとしている不審者を部員たちが追いかけているようにも見える。
それなら芽愛を助けようとする勇敢な姿なのだが……。
「ねぇ? 武須田先生なら大丈夫じゃないんですか?」
「ダメだ! あいつら見てみろ」
芽愛が武須田や含む部員たちを見ると、その表情はどうもイヤらしく微笑んでいる。
構図的に暴力集団がカップルを追いかけているような絵にしか見えない。
「上手く説明できないけど、今はどんな男もキミを狙っている!」
「あなたも男じゃないですか?」
「俺は例外!」
やがて廊下の端まで来てしまい、あるのは保健室だけだった。
すると、保健室のドアが開いた。
中から現れたのは、白衣を着た青髪ショートのウルフカットヘア、年齢は20代後半くらいで、やはりアニメの内容だからだろうか、芽愛にも負けない程のグラマーな体つきをしている。その美形な顔立ちは間違いなく女性だ。
「
「
「よしっ! あの中に入れ!」
恭兵は芽愛と鹿島を保健室の中へ入れると自分も入り、急いてドアをロックした。
「ちょっと、何ですかあなたは⁉」
鹿島が恭兵に向けて訊いた。
「俺は彼女のボディガード――」
ドン‼
急にドアが大きな音を立てて揺れた。
野球部員たちがバットでドアを叩いているのだ。
「何、どうなってるの⁉」
「野郎共が狂ってね。それでみんな
「あなたも野郎ですよね?」
「俺は例外――ってそれさっきやったから!」
ツッコミを入れる恭兵に鹿島は「え?」と首を傾げた。
色々言いたいことがあるが、それよりもドアを破ろうとする野球部員たちを何とかしなければならない。
ドアに向けて拳銃を構えた。この程度のドアなら普通に貫通するだろう。
しかし、さっき撃った男子生徒のことが頭を過り、引き金が引けない。
恭兵が躊躇する間にもドアは次々バットで叩かれ破られるのも時間の問題だ。
(どうすれば……ってちょっと待て。あれがあるじゃん)
「ちょっといいか? 武器を召喚する時、弾薬の指定とか出来る?」
恭兵はナビゲーターウォッチに向けて訊いた。
それを見た芽愛と鹿島は「ん?」と首を傾げている。
どうやらスキルナビゲーターの声は2人には聞こえないようだ。
〈可能です〉
「よし! それなら……オーダー、ベネリM4セミオートショットガン。弾薬はビーンバッグ弾だ!」
〈ベネリM4、召喚します〉
恭兵の手に大きなショットガンが現れた。
ベネリM4。
イタリア製のショットガンで、撃った後に稼働するハンドガードをスライドさせて空カートを排莢する手動のポンプアクションタイプとは違い、撃った時に発生する発射ガス圧を利用し、自動で空カートの排莢、装填を行うオートマチックタイプのショットガンだ。
「よっしゃ!」
「え⁈」
突然現れたショットガンに芽愛と鹿島が驚いて目を丸くした。
恭兵はショットガンのボルトを引いて弾薬を装填した。
それと同時に保健室のドアが破られ、野球部員たちが入って来る。
恭兵は野球部員たちに向けてショットガンを構え、発砲。
クラッカーのような少しショボい破裂音のような銃声に合わせ、腕や足に弾を受けた野球部員たちは次々蹲った。
「きゃっ‼」
芽愛と鹿島が悲鳴を上げた。
目の前で人が、自分の学校の生徒が撃たれた光景を目の当たりにしたのだから当然だろう。
だが、撃たれたはずの野球部員たちは痛がる素振りは見せるものの全く出血している様子はない。
それは恭兵の銃に使われた弾薬に秘密がある。
恭兵が使ったビーンバッグ弾は従来の鉛の丸い弾を飛ばすのではなく、小さな粒が入った布製の袋のような物を使う、殺傷能力を抑えた主に暴動鎮圧用の弾だ――ただし当たりどころが悪ければ死亡することもある……。
「ちょっと、保険の先生?」
「は、はい……!」
鹿島は恭兵に撃たれると思っているのか声が少し震えている。
「アンタも早く逃げな」
恭兵はそう言うと芽愛の手を取ろうと保健室のドアを背にした時だ。
「あぶない‼」
鹿島が声を上げ、恭兵が後ろを振り返ると、武須田がどこから持ってきたのか、長い木の板を手に恭兵の後頭部を殴った。
床に倒れる恭兵を見た芽愛が息を呑んで固まった。
「さぁ、相川さん早く!」
武須田は芽愛の手を掴んで、保健室から出て行く。
「大丈夫ですか⁉」
倒れる恭兵に駆け寄る鹿島が声を掛ける。
木の板とはいえ、それで殴られたのだからどう考えても重症のはず……なのだが。
「痛かったけど、意外と平気……」
「え、ホントに⁉」
スッと立ち上がった恭兵を見て、鹿島は目を皿にしていた。
多少の痛みはあったが、恐らくスキルによって耐久性が強化されているお陰だろう。
それがなければ間違いなく重症だ。
それよりも、秋葉の鉄パイプといい、さっきの武須田の木の板といい、変に都合がいい世界だ、と恭兵は呆れながら近くに落ちていたショットガンを拾い保健室を後にした。
芽愛を見失った恭兵は周りを見回したが全く手掛かりが無い。
〈警告。相川 芽愛が襲われる可能性があります〉
「分かってるよ‼ どこ行ったんだ⁉」
芽愛が襲われていたらと考える程恭兵に焦りの気持ちが募る。
そこへ冷戦口調でスキルナビゲーターが声を掛ける。
〈ユニークスキル『対象者追跡』を使いますか?〉
「そうだった! チェイス、相川 芽愛」
〈相川 芽愛の現在地を特定中……判明しました〉
ナビゲーターウォッチに地図が表示され赤い丸が点滅している部分がある。場所はこの学校の職員駐車場だ。
恭兵は急いて駐車場へ向かった。
学校の駐車場――
芽愛は武須田に手を引かれ、1台の白いセダン車まで連れてこられた。
この車は武須田の物だ。
武須田は車のロックをリモコンで解除すると、後部のドアを開けた。
「相川さん早く乗って!」
「は、はい!」
言われるがまま、芽愛は後部座席に乗ろうと武須田に背を向けた。
すると、武須田は芽愛の体をシートに押し付け、両腕を掴んだ。
「武須田先生⁉」
何が起こったのか理解できないまま、武須田に両腕を後ろに回された状態で、更に何処から取り出したのかまたガムテープで両腕を拘束された。
芽愛を無理やり仰向けにすると、今度は口にもガムテープが貼られ、口がきけないようにされている。
「待ってろ相川、今助けてやるからな」
ニヤニヤと笑いながら意味不明なことを言い、武須田は芽愛が着ているライダースジャケットを無理やり引き剥がし、また芽愛のブラが露わになった。
芽愛は必死に叫ぼうとするがガムテープがそれを妨げている。
武須田の手が芽愛に芽愛伸びたその時。
「痛てぇ‼」
武須田の左足の太ももに痛みが走った。
その足元には小さな袋が落ちる。
「てめぇ、それは俺のジャケットだぞ‼」
恭兵の大声が駐車場へ響き渡る。
武須田は恭兵の声が聞こえた方へ向くと、そこには廊下の窓からショットガンを構える恭兵の姿があった。
距離が遠いせいでビーンバッグ弾ではあまりダメージを与えられない。
恭兵は窓を乗り越えて武須田の車に向けて走り出す。
武須田は芽愛を車内へ押し込むと、後部のドアを閉め運転席へ乗り込み、車を発進させた。
恭兵は追いかけるが、車に人間の足で追い着けるはずもない。武須田の車は学校の外へ出て行った。
「はぁ……クソ! せめて車があれば……あっ!」
恭兵はユニークスキルの「マシン召喚」に気づき、ナビゲーターウォッチを覗いた。スキルポイントはまだ3つ残っている。
「マシンを召喚する時はどうするの?」
〈マシン召喚は、武器召喚と同様、「オーダー」と声明を出してから召喚したいものを指定してください〉
「OK!」
(車、車……やっぱり追いかけるならスポーツカーだよな、いっそスーパーカーでも……スーパーマシン?)
「ちょっと質問。車って何でも召喚できるのか? 例えばムービーカーとか、俺が考えたマシンとかは?」
〈可能です。禿 恭兵の知る物であれば、召喚出来ます〉
(あいつに乗れるってことか、よーし!)
恭兵はガッツポーズをした。
「オーダー、マシンSKN1!」
すると、ナビゲーターウォッチのディスプレーにワイヤーフレーム状の1台のスポーツカーが映し出された。
〈マシンSKN1、召喚します〉
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