第27話 開店準備
ドワコとドワーフの集落を取りまとめている親方との間で話し合いの場が設けられ、今後の方針について細かい摺り合わせを行い、双方が納得いく内容で最終的な物が決められ、ドワコが管理権を保有するという内容で正式な手続きが行われた。
(そう言えば何日も家を空けていたからシアが心配しているかも)
話し合いをしているときに、集落で作られた物をドワコが紹介する商人を通じて買い取りを行うと言う内容も明記された。その内容の話が出たときにドワコは数日ほど家に戻っていなかったので、シアが心配しているのではないかと不安に思った。
「おや?今日はお仲間の方と一緒かい?ここでの仕事は終わったのかい?お疲れ様」
ドワコ達は仕度を調えてドワコの家に向かうために城を出ようとした。そのときの門番はドワコと顔なじみの兵士で、ドワコの顔を見るなり親しげに話しかけてきた。話の口調から彼はドワコ達が先ほどまで牢屋にいたことなど知らない様子であった。顔なじみということもあり、特にチェックも行われず簡単に城から出ることができた。
「ドワコの家はこの先?」
「もう少し行った所にあるよ」
ドワミがドワコに聞いてきた。
「何かすごく高級そうなお店が立ち並んでるな」
親方、ドワミ、他の2人のドワーフ達は物珍しそうに街並みを見ていた。
「着いたよ。ここだよ」
程なくしてドワコ達はドワコの家の前に辿り着いた。そして建物の中から人の気配に気が付いたシアが慌てて出てきた。
「ドワコさんどうしちゃったの?何日も帰ってこないから心配したよ?」
「シアさんごめんね。いろいろとあって帰ることができなくなったの?」
心配したシアがドワコに尋ねた。ドワコは「捕まってました」などと答える訳にもいかず、曖昧に理由を濁した。
「こちらの方は?」
「たまたま知り合ったドワーフの集落に住む方々です。今日はシアさんに相談があって連れてきたよ」
ドワコはシアに経緯を説明した。
「わかったわ。それじゃ皆さんこちらへどうぞ」
それを聞いたシアは、取りあえず話だけは聞いておこうと持ったらしく、ドワコが連れてきたドワーフ達を店内へ案内した。店内の様子は開店準備はできているようだが、相変わらず売るための商品が余り置いていない状態であった。
「こちらにかけてお待ちください」
シアがドワーフ達を店内の応接スペースに案内して、4人のドワーフたちは椅子に腰掛けた。
「お茶の用意をしないとね。ドワコさんも手伝ってくれる?」
「はーい」
お茶を取りにシアとドワコは店の奥に入った。
「ここの店主さんかな?ドワコをあんなふうに手伝わせているけど大丈夫なのかな?」
貴族であるドワコに、茶出しの手伝いをさせているシアを見て不安に思ったドワミが心配そうに言った。
「ドワコも特に気にした様子がないから大丈夫ではないかのう」
親方がドワコとシアの様子を見ながら言った。しばらくするとドワコとシアは人数分のお茶を用意してテーブルに並べた。
「シアさんはいつからお店を開く感じ?」
シアとドワコも席に着き、ドワコが開店前の店内を見渡し心配して尋ねた。
「開店させたいとは思うのだけれど、今は売る商品が少なくてね・・・。肝腎な仕入れ先のドワコさんもここ数日姿が見えなかったから、作業がストップしている感じかな」
開店準備が止まっていたのはドワコが原因だったようだ。
「家を空けていたことはごめんね・・・。それで今日は提案があってこの方たちを連れて来たよ」
ドワコは素直に謝り、話を先に進めた。
「最初に言っていたアレね。詳しく話を聞かせてほしいわ」
「実はね。さっきも少し話したけど、この城下町から少し離れた所にドワーフの集落があるんだ」
ドワコがドワーフの集落についてシアに話した。
「そんなに近くにドワーフの集落があったんだ。初めて聞いたよ。それに、この国にいるドワーフってドワコさんだけかと思ってたよ」
この国では国力低下に伴いドワーフ自体がほとんどいないらしい、そこにドワコ以外のドワーフが現れたのでシアは驚いているようだった。
「ドワーフって売れる、売れないは別として日常的に物を作ってしまうんだって。それで集落で作られたものがたくさん余ってる訳。それを買い取ってこのお店で売るって言うのはどうかなって」
「それはいい案だと思うけど、ドワーフが作った物ってかなり高価で取り引きされるのだけれど、他の商人とかから商談の話とかは来ないの?」
シアはドワコの提案には乗り気だが、競合する商人がいるのではないかと心配そうにドワコに尋ねた。
「その点は大丈夫。ドワーフの集落とは私の工房と、このお店でしか取り引きをしないということになっているよ。それで相手側も了承しているから安心して」
ドワコがシアを安心させるために言った。
「そうなんだ。同じドワーフ同士だからとかそういう感じかな?」
「まあそんな感じ。私は商売に関して多少なりとも知識があるけど、集落の人はそう言うのがないから、間に立つ商人が必要になる訳。お願いできるかな?あと、高級品とか作れる専門の職人達も多いから商売の幅も広がると思うよ」
ドワコの話を聞いてシアは少し考え込んだ。
「それじゃお願いしようかな。私はこの店の店長シアです。皆さんこれからよろしくお願いします」
シアがドワーフたちの前で挨拶を行い、シアと親方は打ち合わせを始めた。
「買い取りについては私が直接現地に行って査定するでいいかな?」
「ああ、構わんよ。よろしく頼む」
シアと親方は集落で作られた物の買い取りについての話をまとめた。そしてシアも含めた全員で近くの食堂で夕食を取り、ドワーフたちはドワコの家で泊まることになった。
「ドワコの家って広いね。1人で住んでるんだよね?」
物珍しそうに部屋の中を見回したドワミがドワコに聞いてきた。
「そうだね。今のところは・・・かな。家の管理とか、仕事の補佐とかで何人か使用人が欲しいとは思ってるんだけどね。それとこの街とは違うところに私の工房があって、そこには1人手伝ってくれる人がいるよ」
ドワコはドワミにそう説明した。
(何日も休業状態だし、工房にも顔を出さないとなぁ・・・)
ドワコはエリーのことを思い出して、今、彼女がどうしているのか気になってしまった。
「明日はシアさんが馬車の手配をしてるから、集落に向かって出発できると思うよ」
「やっとで集落に帰ることができるんだね」
ドワコがそう言うと、ドワミは嬉しそうに言った。夜までに集落に戻るために必要な準備は終わっているので、あとは明日、出発するだけだ。集落の人へのお土産として酒もたくさん買っておいた。
「それじゃ、出発するね」
翌日、家の戸締りを確認してドワコ、シア、それと4人のドワーフ達は馬車に乗り込み、ドワーフの集落を目指し出発した。近いと言っても馬車では明るい内に到着することはできず、途中でコンテナハウスを取り出して1泊することにした。たまたま前回使用したときと人数が同じだったために、備え付けてあるベット(ドワーフの男達3人は同じ部屋)で数も足りて、特に改造をする必要もなく再利用することができた。そして、一泊した後、翌日ドワコ達はドワーフの集落に到着した。
「「「親方ーーーーっ」」」
捕らえられていた親方達が戻ってきたことを知った集落の人たちは、全員出迎えに顔を出してきた。
「ここにいるドワコのおかげで、何とか全員無事に戻ってくることができた。心配かけたな」
「「「ありがとうドワコ」」」
親方が集落の人に向かってそう言うと、全員からドワコに対して感謝された。慣れないことでドワコは少々恥ずかしかった。
「それでだ、わしらの作った物はここにいるドワコと商人のシアが適正な価格で買い取ることになった。これで集落には現金収入が入り皆の生活が良くなるだろう」
「紹介していただいた商人のシアです。皆さんよろしくお願いします」
シアが親方から紹介を受け、集落の皆の前で挨拶をした。ドワーフの身長は全員低く、シア1人だけ身長が高いのでドワーフたちに囲まれた状態ではかなり目立っていた。
「それでは早速品物の方を見せていただきますね」
シアはドワミに案内されて各家の工房をまわっていった。
「どれも良い品物ばかり・・・これも全部買い取りますね。ごめんなさい。これはちょっと買い取れないかも・・・」
シアは商人である。注文もなく、適当に作った物なので売り物にならないものも少なからず存在していた。それについては買い取りできないと説明して謝罪した。シアは集落の全家を回り、武器、防具、日用品、工具、農機具など、いろいろな物を買い付けて回った。
「結構な量になったね。これだけあればお店としては十分すぎる品揃えになると思うわ。ドワコさん、紹介してくれてありがとう」
シアがこの集落を紹介したドワコにお礼を言った。中央の広場には、シアが買い付けた品物が山積みにされていた。これをドワコはコンテナハウスの空き部屋に突っ込みまとめてアイテムボックスに収納した。大量の荷物でもコンパクトにまとめることができるので、大きな馬車を用意しなくても大量の荷物が運べるのはとても便利だった。
「それでは、次からは正式な注文と言う形になると思うから、皆さんよろしくお願いします」
シアが今後のスケジュールについて集落のドワーフたちに説明した。
「あっそうそう。これを皆さんで分けて飲んでくださいね」
ドワコは集落の人達のお土産として買い込んでおいた大量のお酒を広場に並べた。
「こりゃありがてぇ」
「今日は宴会だ」
集落の人達は目の前におかれた酒を見ながら盛り上がっていた。
「みんな、またね」
「それでは、また来ますね」
挨拶をしてドワコとシアはドワーフの集落を後にした。
翌日、城下町に戻ったシアは、集落から仕入れてきた商品を店に並べていた。ドワコもその手伝いをしていた。
「シアさんこの規模のお店だと1人でやるのは厳しいよね?どうするの?」
「人を雇いたかったんだけど・・・仕入れでほぼ全額使っちゃったしなぁ」
店の広さからしてシア1人でこの店を運営するのは難しそうであった。心配したドワコがシアに尋ねると、予算以上にお金を使ってしまったために人が雇えなくなったと答えた。
「それじゃ手伝いにエリーを呼んでくる?」
「エリーなら計算もできるし、貴重な戦力になるけど、呼ぶって言ってもアリーナ村から呼ぶとなると数日かかるよ?」
普通に考えると通常の荷馬車でも1日では移動できなかった。それはドワコも体験済みであるのでシアの言うことも十分理解できた。
「多分大丈夫だと思う。少し出てくるね」
ドワコは秘策があった。店を飛び出し、城下町を出て人気のいない森まで移動し、ワイバーンを召喚した。
(これならすぐにアリーナ村に行けると思う)
ドワコは召喚したワイバーンに乗り込み、1時間程度でアリーナ村のそばにある森まで移動した。
(さすがにこんな大きな魔物を村の側に下ろしたら大騒ぎになるからね)
ドワコは村人を驚かさないように配慮し、少し離れた人気のいない森で降り、徒歩でアリーナ村を目指した。
「久しぶりの村だぁ」
アリーナ村に到着したドワコは、真っ先にエリーの家に向かった。ところが、エリーは家にいなかった。エリーママによると、ドワコの工房にいると教えてくれた。
「鍵が開いてる」
ドワコの工房の鍵が開けられていて、工房の中ではエリーが掃除をしていた。合い鍵を持たせているので、エリーは工房への出入りは自由になっている。その為、不法侵入ではない。
「ただいま、エリー。掃除してくれてありがとうね」
「ドワコさんやっと戻ってきたんですね。待ちくたびれました」
「ごめんね」
ドワコはエリーの頭をそっと撫でた。・・・と言っても身長が余り変わらないので、他の人が見れば子供同士でじゃれあっているようにしか見えない。
「早速で悪いんだけど、城下町にあるシアのお店を数日手伝ってほしいんだけど・・・。私も手伝う予定だけど大丈夫かな?」
「お母さんに聞いてくる」
エリーが手伝いに行っていいか聞くために、走って家に戻っていった。少し経つとエリーが駆け足で戻ってきた。
「お母さんに聞いたら、ドワコさんがいるなら行って良いって」
毎回即答でエリーママはOK出す。
(どれだけ信頼されているのだろうか・・・こちらとしては助かるけど)
ドワコは少々心配になってきた。
「取りあえず数日分のお出かけセット持ってきたよ。いつでも出発できるよ。あ・・・その前にドワコさんがいない間に受けた注文ね」
ドサッとエリーからドワコに紙の束を渡された。
(これ全部注文書ですか・・・これは大変そうだ。時間を見てこれも納品してしまわないとね)
ドワコは大量の注文書をパラパラとめくり内容を確認した。
「それじゃ戸締りして出発するよ」
「今回は徒歩で移動ですか?」
前回のように馬車がないことを疑問に思ったエリーが、ドワコに尋ねた。
「今回はもっと早い乗り物があるから大丈夫」
「そうなのですか?」
ドワコはエリーの手を引き人気のない森の中へ入っていった。
「ドワコさん、こんな人気のない森に私を連れ込んで・・・もしかして・・・うん、私も覚悟ができているからドワコさんが望むのならいいよ」
「いや、いや、そう言うのじゃないから」
エリーは森の奥に連れ込まれたことで何か誤解をしていたようだ。ドワコは慌てて否定し、手頃な広さの場所を見つけワイバーンを召喚した。
「ど・・・ドラゴン???」
エリーが現れたワイバーンを見て固まっていた。
「大丈夫。ワイバーンと言って私が召喚した物だよ。命令しない限り危害は加えないから大丈夫だよ。背中に乗る所があるでしょ?城下町までこれに乗って移動するよ」
「こっ、これに乗るのですか?」
エリーはドワコの説明に驚いていた。エリーが落ち着くのを待ってドワコとエリーはワイバーンに乗り込んだ。
「空を飛んで移動なんて、お話の世界みたいです」
ドワコが前で手綱を握り、エリーがドワコの後ろからしがみ付いた。
「それじゃ行くよー」
「飛んでる飛んでる。うわぁ村が小さく見える」
ワイバーンはあっというまに空に浮き上がり、村の様子が上空から見えるようになっていた。そして移動を開始し、マルティ城下町を目指した。空の旅は1時間程度で終わり、ドワコとエリーを乗せたワイバーンは城下町から少し離れた森の中へ降りた。
「馬車で3日かかるのに、こんなに早く着いちゃうんだ」
あまりの早さにエリーが驚いていた。そして2人は徒歩で森を抜けてドワコの別宅へ向かった。
「ただいまー」
店の中ではシアが1人で開店準備に追われていた。
「おかえりドワコさん。馬車の手配できた?」
「こんにちは、おねえちゃん」
「あれ?エリーいつの間に来たの?」
シアは、ドワコが馬車の手配に行ったのだろうと思っていた。だが、エリーの姿を見てシアはびっくりしていた。
「ドワコさん、あれからそんなに時間たってないよね?もしかしてエリーはこの町に来てたの?」
「少し前にドワコさんが村まで迎えに来て、ここまで連れてきてくれたよ」
「そうなんだ・・・」
ここは深く聞いちゃいけないことだとシアは判断し、それ以上深くは聞いてこなかった。
それから3人は開店準備に追われ、瞬く間に数日が経過し、開店前日となった。【アリーナ銘品館】と名付けられたお店は、ドワーフの制作した数々の品を販売し、城下町の一等地に出店することを聞いた村長(領主)が後ろ盾になり、アリーナ村で作られた特産品なども扱う店となった。当初の予定だった【武器と防具の店】からかけ離れた形になってしまったが、元々は店舗面積が広すぎてそれを埋めるためにいろいろ手を伸ばした結果、このような形になってしまった。だが、この店で扱う武器、防具は専門のドワーフ職人が作った一級品であり、他のお店とは比べ物にならない品質を誇っていた。
開店準備も終わり、3人で休憩していると城からの使いの者がやってきた。
「これは王様からの開店祝いと言うことで預かり、届けに来ました。入り口にこれを掛けておくようにとのことです」
品物を渡し、使い物者が帰っていく。
「王様からですか・・・何が入っているのかな?」
シアが何だろうとその包みを開いた。中には小さな看板が入っていた。それを見たシアが驚きの表情を浮かべた。
「これって御用達を示す看板だよね?」
「御用達って城とかに品物を納めることが許される商人を示すものだよね?」
今回届けられた看板は、この国の城に対して直接取り引きができることを示す物らしい。
「多分そう。貰ったからには看板付けないといけないよね・・・」
シアがそう答えた。シアは入り口の見えやすい位置に『マルティ王国 御用達』と書かれた看板を掲げた。取り付けられた看板を見た近くの店舗の人たちが驚いていた。若い3人の女性しかいない店に、どうしてこの看板が掲げられるのか理解できない様子であった。
(この看板のおかげで話題づくりもできたし、明日の開店は忙しくなりそうだ)
ドワコは翌日の開店初日は忙しくなるだろうと思った。
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