第20話 帰路

朝が来てドワコは目を覚ました。


(何か固いな・・・)


ドワコはベッドの上で寝ていたはずなのだが、目が覚めたときはベッドから落ちていて硬い床の上だった。むくりと起き上がりエリーとシアの様子を見た。


「すーすー」

「すやすや」


エリーがシアの胸に顔をうめた状態で寝ていた。エリーは柔らかい物に包まれて幸せそうな顔をしている。


「なんてうらやま・・・げふんげふん。けしからん」


ドワコはエリーのほっぺを軽くつついた。エリーの顔はその刺激に反応してニヘラ~とニヤニヤした顔になった。ドワコはちょっと楽しくなってきた。


つんつん

ニヘラ~


つんつん

ニヘラ~


つんつん

ニヘラ~


ドワコは複数回同じことを繰り返してしまった。


「んー、おはよー。ほっぺが痛い気がする」


ドワコがつつき過ぎたようで、エリーが頬をさすりながら目を覚ましてしまった。


「おはよう。2人とも早いね」


エリーが動いたので、それにつられてシアも目を覚ました。



「おじさん、お世話になりました」


朝食を済ませた後、帰り仕度をしてからシアが宿の会計を済ませた。ドワコ達が宿の外に出ると既に護衛の冒険者達が待っていた。


「おはようございます。帰りの道中もよろしくお願いします」


シアが護衛の3人に向かってペコリと頭を下げた。


「任せください。無事に村まで送り届けます」


ポンと胸を叩き代表してジャックが力強く言った。声力から彼のやる気が十分に伝わってきた。そして互いに挨拶を済ませた後、全員で手分けをして荷物を馬車にのせていった。



「それじゃ出発しましょう」


準備が終わりシアが馬を操り馬車が動き出した。城下町内は治安も比較的良く、馬車が通るような道は安全が保証されているので、誰も外で護衛をする必要もなく全員馬車に乗っている。門で外に出る手続きを行った後、街道を走り、しばらくすると草原が見え始めた。


「あんなに大きかった城下町が小さく見えますね」


小さくなった城下町を見てエリーがつぶやいた。


「本当だ。かなり離れたね」


街ではいろいろあったが、初めて見る光景に心躍らされ、聖女から困った仕事は押しつけられたが、滞在期間中は楽しかったとドワコは振り返りながら答えた。


(もう日が暮れる)


ドワコが空を見上げるとあかね色に染まっていた。馬車はそれなりの距離を進み、城下町が見えなくなってからかなりの時間が経過していた。暗くなる前にコンテナハウスを出してドワコ達は今日の寝床を準備した。食事を終え、見張りの人を残し、それぞれの部屋に入り就寝することにした。城下町に滞在している4日間はドワコ、エリー、シアの3人は同じベッドの上で川の字になって寝ていたので、人肌が恋しくなった。


(1人で寝るのって寂しいな)


ドワコは久々に1人で寝ると寂しさがこみ上げてきた。だが、そう思ったのも僅かの間で、馬車旅の疲れからすぐに眠りについた。それから2日目、3日目と順調に進み、馬車はアリーナ村まで無事に戻ってくることができた。


「初めての旅行だったので楽しかったよ。また一緒に行けると良いね」


エリーが感想を言った。


「無事に帰ってこられて良かったよ。ジャックさん、ポールさん、スミスさん、このたびは護衛を引き受けてくれてありがとうございました。ギルドの方には依頼達成の報告をしておきますね」


シアは道中の護衛をしてくれたジャックとポールとスミスにお礼を言って報酬を渡した。


「ありがとよ」

「またな」

「護衛任務があるときはいつでも声を掛けてくれよな」


そう言って3人はそのまま飲みに行くのだろうか冒険者ギルドの方へ歩いていった。


(同じ冒険者だからまたどこかで会うだろう)


ドワコは依頼を無事に達成した満足感に浸っている3人の後ろ姿を見送った。



「無事に戻ってくることができました。2人とも付き合ってくれてありがとうね」


ドワコの工房前に馬車が到着し、シアがドワコとエリーにお礼を言った。そして2人の荷物を降ろすことにした。


「お店の準備ができたら城下町の方へ引っ越すんだ。準備の間はこの村と城下町を交互に行き来すると思うから、ドワコさんとは、またどちらかで会うと思うけど改めてよろしくね。それじゃ馬車を返しに行かないと私は行くね。それじゃまたね~」


「またね~」


シアは馬車に積んである自分の荷物を家に下ろしてから借りていたところに返しに行くようだ。ドワコとエリーはここで別れた。


「10日間工房お休みしていたから、明日から忙しくなるよ。明日からまたよろしくね」

「はい。また明日来ますね」


挨拶をした後、エリーも自分の家に帰っていった。


(久々の我が家だ)


ドワコは工房兼自宅に入り、誰もいない家の中を見回して言った。賑やかだった時間は終わり、今晩からまた1人の生活に戻った。




「ドワコさんおはようございます。昨日までの疲れとか出ていませんか?」


翌朝、エリーが工房に出勤してきた。


「大丈夫だよ。体だけは頑丈だから。エリーは大丈夫?」

「んー。ちょっと疲れが残ってる感じもするけど大丈夫だよ」


ドワコは一晩寝て疲れは飛んでいたが、エリーは少し疲れが残っているようだ。


「それじゃ無理しない程度にね。今日もお仕事頑張りましょう」


ドワコはエリーに無理をさせないように配慮しようと思ったが、現実はそう上手くはいかなかった。10日間工房が開いていなかった為に、朝からかなりの注文が入ってしまった。エリーが注文を受けてドワコが製造をする。休む間もなく2人の連係プレーで仕事に励んだ。



「今日中に全部さばけませんでしたね」

「残りは明日かな」


1日頑張って働いたのだが、大量の注文を抱えてしまい、忙しい日は3日ほど続いた。そしてその翌日。


「昨日のうちに納品終わらせたし、今日は通常営業に戻るかな?」

「そうだと良いですね」


大量の受注は昨日の内に片付けて、いつものゆっくりとした時間を取り戻した工房で、ドワコとエリーはお茶を楽しんでいた。


「ドワコさん、この場所でこのまま工房続けてくれるよね?」


突然エリーが聞いてきた。


「そのつもりだけど」


ドワコはこの工房をたたむつもりはなかったので即答した。


「この前、お城に呼び出されたときに、何か言われたんじゃないかって、すごく気になっていて・・・」

「話した通りお手伝いをすることになっただけだよ」


エリーは心配そうに尋ねてきた。ドワコはエリーの気持ちを汲んで優しく答えた。


「遠いところにドワコさんが行ってしまうような気がして」

「これからお城でお手伝いがあるときは工房をお休みすることになるけど、大丈夫だよ」


エリオーネからも工房はそのまま続けてほしいと頼まれているので、ドワコ本人がいないときは仕方ないが、工房にいるときは今の仕事を続けようと思っている。ドワコはハッキリとエリーにそう伝えた。


「わかった。ドワコさんの言うこと信じる」


ドワコの表情に嘘偽りがないと判断したエリーは、安心した表情になり答えた。そのような話をしているときに城から使いが工房を訪ねてきた。


「ドワコ様。聖女様からのお呼び出しです。明日の早朝、馬車がこちらに参りますので準備の方をよろしくお願いします」

「承知しました」


拒否権のないお願いだ。ドワコは受けるしか返事ができずそう答えた。用件だけ伝え、ドワコの返事を聞いた後、城からの使いはドワコの返答を伝えるために帰っていった。


「こんな話をしているときにごめんね。明日からしばらく工房お休みしないといけなくなりました」


今日は特に大きな注文を受けなかったので、あり合わせの素材で今日の納品は達成できそうだ。その後は特にすることはなかったが、その時間を利用して素材集めに行くのが良いとは思うのだが、今日は行く気が起きない。ドワコはエリーと残りの時間をのんびりと過ごすことにした。



翌朝、城より迎えの馬車が来た。改装してボロ屋から多少まともになった工房の外見だが、それと比較しても建物には不釣り合いな豪華な馬車が工房前に止まっていた。


「お迎えに上がりました」


中から若いメイドが出てきて馬車の方へ案内した。ドワコは「しばらくのあいだ お休みします」と工房前に看板を掲出し、馬車に乗り込み城下町を目指し出発した。


馬車には御者とメイドとドワコの3人が乗っている。護衛には馬に騎乗した騎士が2人付いている。先日乗った荷馬車とは異なり、この馬車は高速で快適に移動するのに特化したもので、はるかに移動速度が速い。


(これが性能の差と言う物なのか)


どこかの公国の少佐が言いそうな台詞をドワコは思い浮かべた。道中は休憩以外では特にすることもなかったので、向かい側に座っている若いメイドを観察していた。馬車は城下町を目指し、夕方には目的地に到着した。


「そっ、それでは明日に備えてごゆっくりとお休みくださいませ」


少し照れた顔で真っ赤なったメイドがそう言い残し、馬車と護衛は去っていった。


「ちょっと。この先どうすればいいの?」


ドワコは自分の別邸前に置き去りにされた状態で困惑した。この建物は貰ったが、中はまだ手つかずの状態でとても住める状態ではない。と言ってもこの時間では宿を探すのも難しそうだ。仕方なく自分の家に入ることにした。

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