第15話 城下町へ行こう
ドワコの何げない一言で城下町へ行くことが決まり、ドワコは自宅で持っていく物を準備していた。
道中、集落などはなく、宿泊できるような施設はないらしい、そのため順調に進んでも少なくとも片道辺り2泊は野宿になる。幼いエリーや年頃の女性であるシアの安全性を考えると野宿させる訳にはいかないので、アイテムボックスに収納できる宿泊設備を兼ねたコンテナハウスのような物をドワコは庭で制作している。最初に元となる大きな箱を作り、その中に寝泊まりや調理できるような設備を取り付けていく。コンテナハウスが1つのアイテムとしてカウントされるため、中にどれだけ物を入れてもカウントされないので、食料や水など移動の際に必要な物もこの中に入れておいた。
(荷物を軽くするのに越したことはないからね)
我ながら名案だと1人で悦に入りながら、食料などの準備が完了したのでドワコはコンテナハウスをアイテムボックスに収納した。
出発は翌日で、同行者は最初に言い出したシア、隣で話を聞いていたエリー、それとドワコだ。道中、魔物や盗賊なども出ることがあるらしく、3人だけでは不測の事態に対応できないと判断したシアは護衛の依頼をギルドに出していた。3人の冒険者が依頼に応じて護衛に付くそうだ。集合場所は翌日早朝に工房前となっている。シアが馬車を用意し、護衛の冒険者と工房前で合流して出発する予定だ。
翌日の朝になった。待ちきれなかったのか予定より少し早い時間にたくさんの荷物を抱えたエリーが工房にやってきた。続いて冒険者3人が工房前に集まってきた。その冒険者達はドワコが知っている3人で、以前、ダンジョン内で臨時にパーティーを組んだことがあるジャックとポールとスミスであった。
「今回は、ドワコさんはお客さんなので、俺ら3人でしっかりと護衛させていただきます。なので、安心して馬車の中でくつろいでいてください」
リーダーのジャックがそう言った。
「道中よろしくお願いします」
ドワコもジャックの言葉に甘えて道中を楽しむつもりでいた。それから少し時間がたち、馬車に乗ってシアが工房にやって来た。
「皆さん揃っているようですね。それでは皆さんの荷物を積んで出発しましょう。護衛の方々は道中よろしくお願いしますね。あれ?ドワコさんは荷物ないんですか?」
シアは集まった全員の荷物を馬車に載せるように指示をした。だが、およそ10日分の荷物を用意しているエリーや護衛の冒険者達と違い、ドワコの荷物は小さなカバン1つであった。
「アイテムボックスに入っているので大丈夫ですよ」
「なるほど。積み込みも終わったようなので出発しましょう。」
ドワコが荷物はアイテムボックスに入っていると伝えると、シアは納得したようだ。準備も終わり、いよいよドワコ達は城下町を目指して出発することにした。
「シアさんって馬車が操れるのですね」
「商人なら荷物の運搬で馬車を使うこともありますから、習得しておいた方が便利なんですよ」
器用に手綱を操っているシアにドワコが話しかけた。御者はシアが全行程を担当する。ちなみにドワコもエリーも馬車を扱うことができないので、乗っているだけである。道中、見通しが良く整備された安全な所を走るときは、移動距離を稼ぐために護衛の冒険者も馬車に乗ることになった。危険を感じたときや、危険と思われる場所を通るときのみ馬車から降りて徒歩で護衛任務につくという方法をとった。片道最短で3日の行程だ。旅は始まったばかりだ。まだまだ先は長い。
ドワコがふだん、工房で使用する木材の調達をしている森を抜け、その先に広がる平原を馬車は進む。今のところは特に問題は発生していない。時々、村に向かう人と軽く挨拶をしてすれ違う。ドワコは向こうの世界にいるときにバイクでツーリングをすると反対方向から来たバイクとお互い手を上げて、道中の安全を願いすれ違うのを思い出し、少し懐かしい気持ちになった。初日は特にトラブルも発生せず、夕暮れ時になってヤエー・・・ではなく野営の準備をする。
「それじゃ出しますね」
「「「「おわっ!」」」」
ドワコはアイテムボックスからコンテナハウスを取り出した。小さな家が突然、目の前に出現してエリー以外の人達は驚いていた。ちなみにエリーは製作現場を見ていたたので平気な顔をしていた。
「ささ。皆さん入ってください」
出現したコンテナハウスのドアを開けて、皆を中に招き入れた。
「護衛の方は見張り以外の人はこの部屋を使ってくださいね。エリーはこの部屋で、シアはこの部屋、私はこの部屋を使います。荷物は置きっぱなしでも出発するときはそのままアイテムボックスに収納してしまうので、必要のないものは置いたままで構いませんよ」
ドワコは製作の際にプライバシーを重視するために狭いながらも寝る場所は個室にした。他には食事がとれるように台所と兼用の部屋が作ってある。設置もアイテムボックスから出しだけでお手軽なので安心して野宿ができるとドワコは考えていた。ここまでくると小さな家と変わらず、野宿と言えるかは微妙であったが、野宿を覚悟していた護衛の冒険者達もまさかベッドで寝られるとは思っておらず、誰からも文句は出なかった。
翌朝、朝食を終えた後、コンテナハウスを収納し、馬車での移動を再開する。しばらく平原を進んでいると護衛のポールが何かを感じたようだ。
「この先で戦闘をしているようだ。人対人なのか人対魔物なのかまでは判断できないが気を付けた方が良さそうだ」
ポールが言うとおり、遠くでハッキリとは確認できないが何かが複数動いているようだ。ポールはその動きを見て戦闘が行われていると判断したようだ。護衛の3人は馬車からすぐに飛び降り、馬車の前面に展開して守りを固めた。馬車が通れる道はここしかなく、そのまま警戒しつつ進むしかない。しばらく進むと状況が見えてきた。
「誰かが複数のゴブリンと戦っているな」
ジャックが状況を見たまま言った。10匹くらいのゴブリンを相手に軽装の鎧をまとった青髪の女性が剣を振り回し戦っている。周りにはその女性に倒されたと思われるゴブリンが20匹くらい転がっていた。ドワコは剣を振り回す女性の顔に見覚えがあった。先日、村に来ていた聖女様だ。
「先回りして城に戻ろうと思ったのに・・・何でこんな所でゴブリンが出てくるのかなぁ。もうっ、うっとうしい」
聖女はブツブツと何かを言いながら戦っている。彼女は剣の心得があるようで、圧倒的多数を相手にしているのにもかかわらず、余裕の表情をして流れるようにゴブリンを倒していた。
「助太刀しますっ」
護衛のポールとジャックとスミスが即座に助太刀に入り、残りのゴブリンを倒した。
「旅のお方、御協力ありがとうございます」
聖女モードに戻り、丁寧な口調で語りかけてきた。
「どうしてこんな所で、聖女様がゴブリン相手に戦っていたのですか?」
ドワコは素直に疑問に思ったことを聖女にぶつけた。旅に同行している者は聖女とは面識がないので驚いていた。
「アリーナ村から城に戻る途中に抜け出し・・・げふんげふん。お供の物とはぐれまして・・・」
聖女はそう答えた。アリーナ村というのはドワコ達が住む村の正式名称だ。
(さっき抜け出しって言ったよね?しかも鎧とか来ている時点で抜け出す気満々のように見えますけど?)
明らかに何か隠しているような態度と、準備して抜け出しましたという装備をしている聖女に対し、ドワコは不審に思っていた。
「えーっと聖女様・・・でいいのかな?お怪我はございませんでしたか?」
相手が聖女様という前提で、丁寧口調になったジャックが尋ねた。
「御心配いただいてありがとうございます。この程度のゴブリンなら大丈夫です。少々数が多かったのは困りましたけど・・・」
聖女は涼しげな顔で答える。
「御存じの方もいらっしゃると思いますが、わたくしエリオーネと申します。皆様からは聖女と呼ばれています」
ドワコはどう見ても女性冒険者にしか見えなかった。服装によるイメージは大事なものなのだと言うことをドワコは思った。聖女が名乗ったので、こちら側もドワコからそれぞれ自己紹介をした。
「それで聖女様は城へは戻られないのですか?」
シアがエリオーネに尋ねた。
「城へ戻ろうとしていた所で、ゴブリンに襲われてしまって・・・。もしあなた方が向かう方角が同じでしたら、御一緒させていただけないでしょうか?」
エリオーネは同行を申し出てきた。
「特にお構いはできませんけど、それでもよろしければ・・・」
リーダーであるシアがそう答えた。王族に関係のある聖女様が相手なので、特段な理由がない限り断ることはできない。シアには了承するしか選択肢が残っていなかった。そしてエリオーネの同行が決まり、彼女が戦闘時に放置した自分の荷物を回収して馬車に積み込んだ。
「それじゃ状況が少し変わりましたので護衛の方は馬車の警備をお願いします」
「「「承知しました」」」
シアが御者を、聖女の護衛という新たな任務が増えた3人の冒険者は馬車を守るように囲む。ドワコとエリーとエリオーネは馬車に乗り込み移動を再開する。エリーはエリオーネが近くに座っているので緊張している様子だ。
「エリオーネで良いですよ。城に着くまでは同じ仲間ですので対等に扱ってくださいな」
緊張をほぐすようにエリオーネはエリーに向かって語りかけた。
「はっはい。エリオーネ様」
「ふふっ、様はいらないですよ?」
「えっえっとエリオーネさん?」
「はい」
ドワコはその横で2人の会話を聞いていた。どうやらお互い打ち解けたようであった。馬車に乗っている御者台にいるシアも含め4人で、城下町へ向かっている理由や工房の話、聖女の仕事についての話などを道中、いろいろ話しているうちに夕方になった。皆は手分けをして野宿の準備をすることにしたのだが、困ったことが発生した。コンテナハウスは同行者の人数があらかじめわかっていたので、それに合わせて定員を設定して製作をしていた。同行者が増えたために部屋割りを考える必要が出てきた。コンテナハウスの間取りは1人用の個室が3部屋、護衛用の3人部屋が1つ。食事などをする共用スペースの部屋が1つといった間取りになっている。幸いアイテムボックスの中には初期装備としてそのままになっていたテントが1張り残っていた。ドワコはテントを使うことにして自分の部屋をエリオーネに譲った。
食事を終えてそれぞれが寝床に入ったが、夜が更けても寝床が変わったドワコはなかなか寝付けなかった。見張りをしていたスミスに少し散策してくると告げ、野営先の近くにあった池まで来て腰を下ろしボーッと水面を眺めていた。
「眠れないのですか?」
「ひゃいっ!」
ドワコは突然声をかけられびっくりした。声の主はエリオーネであった。
「まあ、そういう日もあるんですよ」
曖昧な答えをドワコは返した。
「少しよろしいでしょうか?」
エリオーネがドワコの隣に座った。月の光(この世界では月ではないかもしれない)に照らされた横顔が中性的な印象を与えて何とも神秘的であった。
「実はここ数日、あなたを遠くから観察していました」
「へっ?」
エリオーネの突然のカミングアウトにドワコは驚いた。
「どうしてですか?」
「本当は城に戻ってから、正式な手続きを行った後で呼び出そうと考えていましたが、結果的にこのような形になってしまいました」
「はぁ・・・」
ドワコは、突然エリオーネがそのようなことを言いだしたのかがわからなかった。
「先日、神殿であなたの治療を行ったときに、あなたの体に光属性魔法の耐性があったために回復が不完全な状態になりました。通常なら無駄な魔力の消費を抑えるために怪我や病気の程度に合わせて魔力を調整しているのですが、ぎりぎり完治させられる程度の魔力を込めるので、光属性魔法の耐性があれば当然回復力も落ちます。落ちた分だけ傷が残り、1回目では完治させることができませんでした」
エリオーネがドワコを治療したときの話をした。
「光属性魔法の耐性ですか?」
「そうです。回復魔法のヒールは光属性の魔法になります。同じパーティーや部隊に所属しているなど仲間と言う認識があれば治癒系の魔法耐性は発動しません。ですが治療に訪れただけでは仲間とは認識されないので、もし治療相手に魔法耐性があればそれが発動します。その光魔法耐性ですが、発動する条件としては2つ考えられます」
エリオーネが魔法耐性の条件について語り出した。
「1つ目が単に魔法耐性がある・・・身体的な物だけではなくて、防具や装備品でも発動する場合もあります。ですがあなたは治療に訪れたときにそのような装備品は身につけていませんでした。2つ目がその属性魔法が使用できるときです。1つ目の場合は防ぐ目的の装備品ですので明らかな耐性が発動します。2つ目は1つ目の装備品を所持していない場合は微妙な耐性が発動します。あなたを治療したときに発動した光属性魔法の耐性は後者の方です」
エリオーネは、ドワコが光属性魔法を使用できるということを確信しているようであった。
「わたくしがあなたを観察していたときに使用したのを確認できたのは光属性の下級魔法ヒールのみですが、これだけでもあなたは回復魔法が使えると言うことを実証することができました」
ドワコが冒険者ギルドで回復魔法を使用していたところをエリオーネは見ていたようだ。
「回復魔法が使えると何かあるのですか?」
ドワコは疑問に思ったことをエリオーネに尋ねた。
「御存じかどうかわかりませんが、この国で魔法が使用できる者・・・魔術師とでも言いましょうか。ごく少数しかいません。特に回復魔法が使えるものは皆無です。国内で回復魔法に一番秀でている女性が『聖女』と言う役職に就き国民を癒やして回り、国民の国に対する忠誠を上げていくと言う仕事をします。実はわたくし、諸事情がありまして『聖女』の役職を近く、降りなければなりません。そのため後継者となる回復魔法の使い手を全国各地を回り探していました」
エリオーネは国内の魔術師事情について語った。
「そこで私に・・・と?」
「そうです。先日、冒険者ギルドで怪我をした冒険者の治療をしている所を拝見させていただきました。本来ドワーフと言う種族は魔法は全く使えません・・・と教わりました。それにもかかわらず下級魔法のヒールで、中級魔法のハイヒール並みの効力があるのを見てしまいました。魔法の能力だけで見るのなら、それだけで聖女の役をするのに値すると判断します。返事は今でなくて構いませんので、考えていただけませんか?」
「聖女ですか・・・少し考えさせてください」
当然のことながらドワコはその場で返事をすることはできなかった。
「今度、見学だけでも構わないので、城までいらしてくださいね」
「へ?」
エリオーネから城へ見学に来るように誘われ驚くドワコであった。
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