第2話 転生したようです
長く眠っていた気がする。
仕事への行く時間が過ぎているのではないかと起き上がると何故か森の中にいた。
「あれ?ここどこ?」
空は明るくなっていて、太陽の高さから推測するとお昼くらいだと思われる。
「何か体が小さくなっているような気がする」
誠は体が軽くなり、動かす手足の感覚に変な違和感を感じた。
取りあえず周りの様子を見て確認したが知らない場所である。目の前に舗装されていない何とか人が通れるくらいの幅しかない、けもの道にと思われる場所を適当に進んでみた。正確な時間はわからないが、1時間ぐらい歩いたところで1mくらいの大きさがあるネズミに襲われそうになっている10歳くらいの少女を発見した。少女は恐怖で体が動かなくなり、今にも泣きそうな様子ではあったが、声も出ないくらい怯えて追い詰められているように見えた。考えるよりも先に、その少女を助けようと体が動いていた。相手が動くよりも前に少女と大きなネズミの間に入ることができた。
「大丈夫?」
と声をかけると少女は少し安心した様子で答えた。
「助けてくれるのですか?ありがとうございます」
恐怖に動けなくなっていたところで、思わぬ助けが入り、少女がすがるような眼でこちらの方を見ている。
ここは大人が良いところを見せないと。と思い、誠は近くにあった棒きれを持って構えた。最近は仕事に追われ鍛錬をしていなかったが、幼い頃より剣道を習っていて少しはできると自分でも自負していた。
棒を構えたタイミングで大きなネズミが飛び掛かってきた。即座にバットを振るような動作でスイングして大きなネズミに打撃を与えた。ネズミはその衝撃に耐えきれず、かなり遠くまで飛んでいった。野球で言うとホームランと判定されそうなくらいの距離である。
「さすがドワーフさん。すごい力です。おかげで助かりました。」
と、笑顔で少女が言うと少し疑問に思った。
「ドワーフさん?」
「見た目から判断してしまいましたが、ドワーフさんではないのですか?」
と少女は聞き返してきた。身長と等身から察するに少女は10歳くらいに見えるが、不思議と自分との目線が同じくらいであった。ふと下を見ると、近くに水溜りがあったので自分の顔を覗き込んで見た。
「なんじゃーこりゃー」
誠は刑事ドラマで撃たれて殉職してしまいそうな刑事のような声を上げてしまった。
(少し落ち着いたところで・・・)
取り乱した心を落ち着かせた後、よくよくそれを確認してみると、顔が少し前までプレイしていたゲームのキャラクター『ドワコ』になっていた。それを見た誠は少女にドワーフさんと呼ばれたのも納得した。頭の中は混乱し、夢の中なのか現実なのかわからなくなっていた。取りあえず現実だという前提で行動をすることにした。
「すみません。少し取り乱しました。」
「私はエリー。この先にあるアリーナと言う村に住んでいます。よろしければドワーフさんのお名前を教えていただけませんか?」
(さて・・・どう答えよう?)
誠と名乗るべきかこのキャラクター名であるドワコと名乗るべきか悩む。考えた末にドワコと名乗ることにした。
「私はドワコって言います。実はなぜここにいるのかわからず、森をさまよっていた所です」
と答えた。
「困っているようでしたら家に来ませんか?助けて貰ったお礼もしたいですし・・・」
エリーと名乗る少女が言った。誠はこれからのことを考えるためには情報収集が大事だと考え招待を受けることにした。
道中エリーがなぜあのような場所にいたのかと尋ねると、家で食べるための山菜取りをしていたそうだ。村から余り離れておらず、ふだんはこの場所では人を襲うような大きなネズミ(オオネズミと言うモンスターらしい)は出ないそうだ。30分ぐらい歩くと森を抜け小さな村が見えてきた。
「ここが私の住んでいるアリーナの村です。小さな村ですけど冒険者ギルドがあるのがこの村の自慢なんです」
とエリーは言った。冒険者ギルドはそれなりの規模の町や村にしかないそうだが、周辺に他の町や村がないため、出張所のような小規模なものがこの村に設置されているそうだ。
(確か冒険者ギルドってチュートリアルで素材収集やモンスター討伐などの依頼を受けて達成すると報酬がもらえるみたいな所だったかな?ゲームでは初期の段階で冒険者ギルドに登録をした証として発行されるギルドカードを作るイベントがあった。ギルドカードにはランクがあり初期の段階では銅、ランクが上がると銀、金と変わっていくみたいな説明を見た記憶がある)
誠は過去に得た知識を総動員して情報を整理した。ギルドの方は少し気になるので後で行ってみることにした。
そしてしばらくすると2人は小さな村の前に到着した。エリーと一緒に村に入ろうとしたとき、入り口にいる衛兵のおじさんに呼び止められた。
「おや?この村にドワーフさんが来るのは珍しいね」
「森でオオネズミに襲われそうになったときに助けてもらったんです。そのお礼をしようと思って連れてきちゃいました。」
とエリーが衛兵のおじさんに答えた。
「オオネズミか・・・怪我がなかったようで良かったよ。エリーを助けてくれてありがとよドワーフさん。念のために他にもモンスターがいないか村の衛兵で周辺を見回りしてみるよ。」
衛兵のおじさんはお礼を言った後、誠とエリーから魔物と遭遇したときの状況を聞いてきた。簡単な事情聴取を受けた後、2人は村の門をくぐった。
辺境の村と言うだけあって、お世辞にも綺麗とは言えない建物が点々と並び、少し歩くと建物が密集したエリアに出た。
「ここが村の中心部です。いろいろなお店や宿屋、冒険者ギルドはこの一角にあるんですよ」
村の中を簡単に説明しながらエリーが言った。看板の字は読めないが一緒に書かれている絵で何を扱っている店なのかわかるようになっていた。
(冒険者ギルドはここかな?)
何となくそれっぽい絵が描かれていたので誠はここが冒険者ギルドではないかと推測していた。そこから少し歩き、中心部を抜けたところにエリーの家があった。お世辞にも立派な建物ではなく、少しくたびれた木でできた平屋の小さな家であった。
「おかあさん、ただいま」
「おかえり、今日は早かったね?あら、お客さん?」
家に入るとエリーの母親だと思われる人が奥から出てきた。胸辺りにある体の主張するところは余りないような気もするが、表情が優しいお母さんと言う感じだ。
「森でオオネズミに襲われちゃって、ここにいるドワコさんに助けてもらったんだ。お礼がしたいから連れてきちゃった」
「ドワコさん、娘を助けてくれてありがとう。旅の方かしら?もし泊まるところがなければ今日は泊っていってね。娘を助けてくれたお礼に精一杯のおもてなしをするわ」
エリーの母親がそう申し出た。
「それでは一晩だけお邪魔させていただきますね」
この先の予定なかった誠は、せっかくの申し出なので受けることにし、今日の寝床を確保した。
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