執事ランキング最下位の僕がお嬢様を護るために1位を獲るまで~目が見えず口もきけないせいで魔法も使えず、執事一家の恥と言われたけど、無詠唱魔法に目覚めました!実は僕にはすごい魔力が秘められてたんですよ?

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第1話 執事一家の落ちこぼれ


 人には生まれつき、出来ることと出来ないことがある。

 僕ユウォル・リフシェントにとっては、圧倒的に後者の方が多い。


 まず、僕は目が見えない。

 そして言葉で話すことができなかった。


「まったく……うちの兄たちはこんなに優秀なのに、どうしてユウォルはこうなんだ」

「…………」

「なんとか言え!」

『すみません』


 僕は紙に文字を書いて答えた。

 お父様は僕をいつもお叱りになる。

 当然だ。

 僕は喋れないせいで、魔法を使えない。

 魔法は呪文を口に出して、初めてその効果を発揮する。


「明日はユナイデル様のお嬢様が、うちにおいでになる日だ。くれぐれも、邪魔をするんじゃないぞ!」

「…………」


 僕は無言で首を縦に振る。

 明日は僕たちリフシェント家にとって、一年で最も大事な日。

 そんなことは、僕もわかっていた。





「はっはっは! 俺は明日、お嬢様に選ばれて執事になる! どうだ、ユウォル? うらやましいだろう」


 僕の三つ上の兄上、ゲヴォルド・リフシェント兄さんがそう言って僕の肩を叩く。

 正直力が強くて痛い。

 それに、そんな嫌味ったらしい自慢話にはうんざりだ。

 だけど僕は、黙って頷く。

 そうしないと、ぶたれるから。


「俺はずっと、この日が来るのを待っていたんだ! そのために、立派な執事になれるよう厳しい修行にも耐えた。だから俺が選ばれる、だろう? ユウォル」

『はい』


 そう、僕たちリフシェント家の16人の兄弟は、みな執事になるために育てられた。

 リフシェント家は超一流の執事一家なのだ。

 まあ、僕を除いてだけれど。


「お前はかわいそうだよな。いくら修行しても、魔法が使えないんじゃな。口もきけないし、そもそもお前はトロいから、もし目が見えても役立たずだろうけどな!」

「…………」


「あ……? なんだよその顔は! 文句あんのか?」

「…………!」


 僕は慌てて、ぶんぶんぶんと首を横に振る。

 これは仕方のない話なんだ。

 僕はいくら頑張っても、執事にはなれない。

 そんなことは、幼いころからわかっていた。


「さあ、明日のために掃除をしておけよ? ユナイデル様にアピールするんだ。あ、もちろんお前が掃除したところは、全部俺の手柄にするからな? 黙っておけよ? あ、まあ喋れないお前に黙っておけってのもおかしな話か……はっはっは」

「…………」


 そう、僕の扱いはいつもこんな感じだ。

 ゲヴォルド兄さんにいいように使われて……。

 まあ、言い返せない僕も僕だ。

 言い返しようなんてないけど……。





 年に一度か二度、名家のお嬢様がうちを訪ねる。

 その日はリフシェント家にとって、最大の行事だ。


 リフシェント家は一流の執事を育てるための一族だ。

 毎年、すごい名門の一家に、執事を送り出している。


 僕たち兄弟は、その日のために毎日厳しい訓練を受け、競わされている。

 16男である僕は、ついていくのに精一杯だった。


「いいかユウォル。間違っても自分が選ばれるかもなんて夢にも思うな? お前なんか外に出したら、一族の恥だからな」

『わかっています』


「わかっているのならいいが。明日はそのへんで大人しくしておけ。決してお嬢様と顔を合わせるんじゃない」

『はい』


 お父様――セオドア・リフシェントは僕にきつく、くぎを刺した。

 兄弟の中で誰が執事として雇われるかは、お嬢様が決めることになっている。

 もちろん僕なんかが選ばれるはずは……ない。





 翌日、僕は目立たないように、庭の掃除をしていた。

 お嬢様は応接室にいらっしゃるはずだから、ちょうどここは屋敷の反対側だ。

 もしもお嬢様が大切な【執事選び】から抜け出さない限り、鉢合うことはない。


「お嬢様~! そっちへ行ってはなりませぬ! もうすぐ執事選びが始まりまする!」

「いやよ! 私はこのお屋敷を探検するの! 執事を選ぶのはそれからでもいいでしょ? ねぇ!」


 なんて声が、大きな足音とともに聞こえてきた。

 まさか僕の想像通りになるなんて……。

 ユナイデル家のお嬢様は、ずいぶんおてんばなんだな。

 お嬢様の後ろを追いかける足音は、執事の人かな。


 もちろん、執事選びにくるお嬢様の家には、すでに執事が何人もいる。

 ではなぜわざわざリュフシェント家にまで執事を選びにくるのか。

 そう、ここで今日選ばれるのは、お嬢様の専属執事なのだ。

 専属執事とはつまり、生涯の伴侶にも等しい。


 名家のお嬢様の専属執事に選ばれることは、僕たちのような執事一家にとっては、なによりも名誉なことなんだ。


 まあ、僕には関係のない話だ。

 そんな風に考えながら、庭の手入れを続ける。

 すると、近くに誰かが歩いてきているのがわかった。

 僕は目が見えないぶん、耳がよく聞こえるのだ。


「ねえ、あなた……この家の人?」

「…………!?」


 は、話しかけられた……!?

 この声って、さっきのお嬢様だよね……?

 僕は恐る恐る、彼女の顔を見る。

 もちろん僕は目が見えないから、顔をそちらへ向けただけだ。

 それだけでも、なんとなく相手の表情が、雰囲気でわかるものだ。


「あなた……目が、見えないの……?」

「…………」


 僕はこくりと頷いた。

 なんだか少し、恥ずかしかった。

 同年代の女の子と話すのなんて、これが初めてだ。

 彼女の姿を見ることが出来ないのが、すごく悔しい。


「口も……きけないのね?」

『そうです。すみません』


 僕は急いでその文字を書きなぐる。

 話しのできない僕は、物心ついたときから、いつでも手帳を持ち歩いていた。


「謝らなくていいわ。ぶしつけな質問をしてごめんなさいね。でも……あなたのことをよく知っておきたかったから……」

「…………?」


 どうしてユナイデル家のお嬢様なんかが、僕に興味を持つんだろう。

 僕なんかより優秀な兄が、あっちで待っているというのに。


「お嬢様~! シェスカお嬢様……! こんなところに……!」

「あら、爺や。やっと見つけたのね。足が遅いから、退屈して彼に話しかけてしまったわよ」


「お嬢様、もう時間ですので……あちらへ……!」

「そう。わかったわ。もう目的は果たしたもの。あなた……じゃあ、またね?」


「…………?」


 またね……と言われても、僕はもうお嬢様と会うことなんてないだろうと思った。

 とりあえず、手を振っておく。


 きっとこの後、彼女は優秀な兄の中から専属の執事を選び、僕のことなんて二度と思いださないのだろう。


 というかそもそも、彼女は僕のことをどう思っていたのだろう?

 庭師だとでも思われただろうか……?

 うん、きっとそうだろうな。

 僕はまさかこの家の子供だとは思われないほどの、みすぼらしい格好をさせられているし。

 実際、本当の兄弟かも怪しいものだ。

 僕だけが、こんな目にあうなんて……。


 ――テクテクテクテク。


「…………?」


 遠ざかっていったはずの足音が、戻ってくる。

 さっきのシェスカお嬢様だろうか?


「ねえあなた! 忘れ物をしたわ」

「…………?」


 忘れ物って、なんだろう。

 僕は見えないから、探してあげようにも難しい。


「あなたの……名前は……?」

「…………!?」


 な、名前を訊かれたぞ……!?

 僕が……、あのユナイデル家のお嬢様に……!


『ユウォル』


 僕はまた、自分の名前をメモの切れ端に書きなぐった。


「ユウォルね。そう……わかったわ。私はシェスカよ。よろしくね……?」

「…………!?」


 なんとシェスカお嬢様は、僕の手をぎゅっと握って来た。

 小さくて、冷たくて、すべすべの手。


「じゃあね……!」


 ――テクテク。


 また……行ってしまった。

 なんだか変わった子だったな。


 そして僕は、無駄な期待など抱くなと自分に言い聞かせながら、庭仕事に戻るのだった。



――――――――――――――――――――――

【あとがき】《新連載》を始めました!


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