執事ランキング最下位の僕がお嬢様を護るために1位を獲るまで~目が見えず口もきけないせいで魔法も使えず、執事一家の恥と言われたけど、無詠唱魔法に目覚めました!実は僕にはすごい魔力が秘められてたんですよ?
月ノみんと@世界樹1巻発売中
第1話 執事一家の落ちこぼれ
人には生まれつき、出来ることと出来ないことがある。
僕ユウォル・リフシェントにとっては、圧倒的に後者の方が多い。
まず、僕は目が見えない。
そして言葉で話すことができなかった。
「まったく……うちの兄たちはこんなに優秀なのに、どうしてユウォルはこうなんだ」
「…………」
「なんとか言え!」
『すみません』
僕は紙に文字を書いて答えた。
お父様は僕をいつもお叱りになる。
当然だ。
僕は喋れないせいで、魔法を使えない。
魔法は呪文を口に出して、初めてその効果を発揮する。
「明日はユナイデル様のお嬢様が、うちにおいでになる日だ。くれぐれも、邪魔をするんじゃないぞ!」
「…………」
僕は無言で首を縦に振る。
明日は僕たちリフシェント家にとって、一年で最も大事な日。
そんなことは、僕もわかっていた。
◇
「はっはっは! 俺は明日、お嬢様に選ばれて執事になる! どうだ、ユウォル? うらやましいだろう」
僕の三つ上の兄上、ゲヴォルド・リフシェント兄さんがそう言って僕の肩を叩く。
正直力が強くて痛い。
それに、そんな嫌味ったらしい自慢話にはうんざりだ。
だけど僕は、黙って頷く。
そうしないと、ぶたれるから。
「俺はずっと、この日が来るのを待っていたんだ! そのために、立派な執事になれるよう厳しい修行にも耐えた。だから俺が選ばれる、だろう? ユウォル」
『はい』
そう、僕たちリフシェント家の16人の兄弟は、みな執事になるために育てられた。
リフシェント家は超一流の執事一家なのだ。
まあ、僕を除いてだけれど。
「お前はかわいそうだよな。いくら修行しても、魔法が使えないんじゃな。口もきけないし、そもそもお前はトロいから、もし目が見えても役立たずだろうけどな!」
「…………」
「あ……? なんだよその顔は! 文句あんのか?」
「…………!」
僕は慌てて、ぶんぶんぶんと首を横に振る。
これは仕方のない話なんだ。
僕はいくら頑張っても、執事にはなれない。
そんなことは、幼いころからわかっていた。
「さあ、明日のために掃除をしておけよ? ユナイデル様にアピールするんだ。あ、もちろんお前が掃除したところは、全部俺の手柄にするからな? 黙っておけよ? あ、まあ喋れないお前に黙っておけってのもおかしな話か……はっはっは」
「…………」
そう、僕の扱いはいつもこんな感じだ。
ゲヴォルド兄さんにいいように使われて……。
まあ、言い返せない僕も僕だ。
言い返しようなんてないけど……。
◇
年に一度か二度、名家のお嬢様がうちを訪ねる。
その日はリフシェント家にとって、最大の行事だ。
リフシェント家は一流の執事を育てるための一族だ。
毎年、すごい名門の一家に、執事を送り出している。
僕たち兄弟は、その日のために毎日厳しい訓練を受け、競わされている。
16男である僕は、ついていくのに精一杯だった。
「いいかユウォル。間違っても自分が選ばれるかもなんて夢にも思うな? お前なんか外に出したら、一族の恥だからな」
『わかっています』
「わかっているのならいいが。明日はそのへんで大人しくしておけ。決してお嬢様と顔を合わせるんじゃない」
『はい』
お父様――セオドア・リフシェントは僕にきつく、くぎを刺した。
兄弟の中で誰が執事として雇われるかは、お嬢様が決めることになっている。
もちろん僕なんかが選ばれるはずは……ない。
◇
翌日、僕は目立たないように、庭の掃除をしていた。
お嬢様は応接室にいらっしゃるはずだから、ちょうどここは屋敷の反対側だ。
もしもお嬢様が大切な【執事選び】から抜け出さない限り、鉢合うことはない。
「お嬢様~! そっちへ行ってはなりませぬ! もうすぐ執事選びが始まりまする!」
「いやよ! 私はこのお屋敷を探検するの! 執事を選ぶのはそれからでもいいでしょ? ねぇ!」
なんて声が、大きな足音とともに聞こえてきた。
まさか僕の想像通りになるなんて……。
ユナイデル家のお嬢様は、ずいぶんおてんばなんだな。
お嬢様の後ろを追いかける足音は、執事の人かな。
もちろん、執事選びにくるお嬢様の家には、すでに執事が何人もいる。
ではなぜわざわざリュフシェント家にまで執事を選びにくるのか。
そう、ここで今日選ばれるのは、お嬢様の専属執事なのだ。
専属執事とはつまり、生涯の伴侶にも等しい。
名家のお嬢様の専属執事に選ばれることは、僕たちのような執事一家にとっては、なによりも名誉なことなんだ。
まあ、僕には関係のない話だ。
そんな風に考えながら、庭の手入れを続ける。
すると、近くに誰かが歩いてきているのがわかった。
僕は目が見えないぶん、耳がよく聞こえるのだ。
「ねえ、あなた……この家の人?」
「…………!?」
は、話しかけられた……!?
この声って、さっきのお嬢様だよね……?
僕は恐る恐る、彼女の顔を見る。
もちろん僕は目が見えないから、顔をそちらへ向けただけだ。
それだけでも、なんとなく相手の表情が、雰囲気でわかるものだ。
「あなた……目が、見えないの……?」
「…………」
僕はこくりと頷いた。
なんだか少し、恥ずかしかった。
同年代の女の子と話すのなんて、これが初めてだ。
彼女の姿を見ることが出来ないのが、すごく悔しい。
「口も……きけないのね?」
『そうです。すみません』
僕は急いでその文字を書きなぐる。
話しのできない僕は、物心ついたときから、いつでも手帳を持ち歩いていた。
「謝らなくていいわ。ぶしつけな質問をしてごめんなさいね。でも……あなたのことをよく知っておきたかったから……」
「…………?」
どうしてユナイデル家のお嬢様なんかが、僕に興味を持つんだろう。
僕なんかより優秀な兄が、あっちで待っているというのに。
「お嬢様~! シェスカお嬢様……! こんなところに……!」
「あら、爺や。やっと見つけたのね。足が遅いから、退屈して彼に話しかけてしまったわよ」
「お嬢様、もう時間ですので……あちらへ……!」
「そう。わかったわ。もう目的は果たしたもの。あなた……じゃあ、またね?」
「…………?」
またね……と言われても、僕はもうお嬢様と会うことなんてないだろうと思った。
とりあえず、手を振っておく。
きっとこの後、彼女は優秀な兄の中から専属の執事を選び、僕のことなんて二度と思いださないのだろう。
というかそもそも、彼女は僕のことをどう思っていたのだろう?
庭師だとでも思われただろうか……?
うん、きっとそうだろうな。
僕はまさかこの家の子供だとは思われないほどの、みすぼらしい格好をさせられているし。
実際、本当の兄弟かも怪しいものだ。
僕だけが、こんな目にあうなんて……。
――テクテクテクテク。
「…………?」
遠ざかっていったはずの足音が、戻ってくる。
さっきのシェスカお嬢様だろうか?
「ねえあなた! 忘れ物をしたわ」
「…………?」
忘れ物って、なんだろう。
僕は見えないから、探してあげようにも難しい。
「あなたの……名前は……?」
「…………!?」
な、名前を訊かれたぞ……!?
僕が……、あのユナイデル家のお嬢様に……!
『ユウォル』
僕はまた、自分の名前をメモの切れ端に書きなぐった。
「ユウォルね。そう……わかったわ。私はシェスカよ。よろしくね……?」
「…………!?」
なんとシェスカお嬢様は、僕の手をぎゅっと握って来た。
小さくて、冷たくて、すべすべの手。
「じゃあね……!」
――テクテク。
また……行ってしまった。
なんだか変わった子だったな。
そして僕は、無駄な期待など抱くなと自分に言い聞かせながら、庭仕事に戻るのだった。
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【あとがき】《新連載》を始めました!
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