第35話 避難訓練

2人が出ていき、がらんとした部屋にはボスと宇宙人が残っていた。




「それで、私はどうすればいいかな?」




宇宙人は、ボスに尋ねる。




「そうだな。とりあえず宇宙人は、万が一にも死人が出ないようにみんなを見てやってくれないか?」




わかったよ。と言いながら、宇宙人はボスの記憶を見る。




過去の避難訓練の様子を見た宇宙人は、少し引きつった笑いを浮かべた。




「あぁ、これは骨が折れそうだね。」




ボスは静かに頷き、準備を始めた。










この悪の組織における避難訓練。


そして、この組織における避難とは何か。




まず、避難訓練において守るべきは命である。


そして、この組織において命とは何か。




それは、ボスである。


これは構成員全員の総意である。




皆、ボスがいなければこの組織は成り立たないと思っているし、ボスに全幅の信頼を寄せている。




そして、ボスは考える。


この組織に、危機が迫った時。


例えば、どこか他の組織、未知の生物に攻撃された時に真っ先に闘うのは自分であるべきだと。




それがボスが信頼を寄せられている所以でもある。




そして、この避難訓練に話は戻る。


つまり、この組織にとっての避難とは、ボスが戦闘で生き残るという事。




そして、それを訓練するにはどうすればよいか?


答えは簡単で、ボス1人が大勢と戦闘をすればよいのだ。




という理屈で、この組織の避難訓練とは、ボスvs構成員のなんでもありガチンコ戦闘と定義されている。




ボスは、屋上からスタートして、玄関からアジトを抜け出せれば避難訓練が完了というわけだ。




過去において、もちろん死人が出ることは無かったが、ボスにとっても構成員にとっても苦痛であるのは間違いない。




しかし、この訓練で得られる物は大きく、だからこそこの組織では一大イベントとなっている。




ボスは屋上を陣取り、指の骨をポキポキと鳴らした。




有事の際に皆の命を守るため、そして組織を存続させるための訓練とは言え、組織の長として絶対に負ける訳にはいかない。




避難訓練のたびにボスは、そんな思いに駆られる。




始まりの鐘がなった。




ボスは屋上の扉に手をかける。


階下には既に真剣な眼差しの黒服達が数人見えている。




その眼差しにボスは嬉しくなりながら、階段を駆け降り、その黒い群れに突っ込んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る