第10話 媚薬

ボスの後に部屋に入る部下。


かちゃりとしっかり鍵を閉める。




博士との付き合いは長い。これまで何度も研究所に来る機会はあったが、その度に部下は美味しい思いをしている。




さぁ今回はどんな物が入っているだろうと、部下はもらった鍵で机の引き出しを開ける。




引き出しには、一袋の粉薬が入っていた。




これは間違いない、媚薬だ。と急いで部下はポケットに薬を隠す。




しかも、やる時は徹底的にやる博士の事だ。恐らく、その効果はそんじょそこらの品とは桁違いだろう。部下は期待に胸を躍らせる。




ボスはソファに深く腰掛け、上を見上げている。




その間に、部下は飲み物を注ぎに行った。


麦茶にさっと粉を入れ、かき混ぜる。




ここで、部下は自分の分の飲み物を注がなかった。自分が、媚薬を飲んでしまうといった凡ミスを彼女はしない。




計画はつつがなく遂行され、喉が乾いていたボスはちゃんと麦茶を飲み干した。




そのまま、2人は各々の時間を過ごす。


異変が訪れたのはその1時間後であった。




ボスはおもむろに服を脱ぎだす。




「どうしたんですか?ボス。」




部下は何食わぬ顔で尋ねる。




「いや、なんでもないんですよ、部下様。お見苦しい物を見せてしまい申し訳ありません。」




ボスは下腹部を隠しながら、上着とズボンを脱ぐ。




さて、この部屋には隠しカメラが設置されており、この様子を遠くから眺めている人物がいた。




その人物は、もちろん博士であり、彼女はさも愉快そうに笑っていた。




この媚薬は彼女の自信作であった。動物実験の段階では、飲ませた方の動物が交尾のことしか考えられなくなりゾンビ化する現象まで見られた。




まぁボスの事だ、かなり耐久力はあるだろうな。


博士はそっと呟いた。




「私の薬と彼の精神はどっちが勝つかな?」




薄暗い部屋の中でメガネがきらりと光った。






さて、ボスはといえば、自身の性欲について冷静に分析していた。




恐らく、これは自然な物ではない。きっとどこかで何らかの作用を与えられたはずだ、と彼は考える。




そして、それができるのは博士か部下しかいない。さらに、このような状態になったのは、この部屋に入ってからだ。




となると恐らく、部下が何かを行ったのだろう。


それにしても、ここまで強い効力のある物を部下が用意できるだろうか。




いや、できまい。今回のことは恐らく博士も一枚噛んでいる。




ここまで考えて、自分がいかに不利な状況であるか悟るボス。




ふと部下の方を見ると、部下はニヤニヤとこっちを見ている。




この可愛らしい部下に対して、全身全霊で襲いかかってもいい。彼女も受け入れてくれるだろう。




しかし、そんな行為は彼の美学に反していた。


いいだろう、彼は誰にも聞こえない声で呟いた。




そして、絶対に自分からは手を出さないことを決意したボス。


長い夜が始まった。

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