U・M・A

総督琉

U・M・A

 それはある日起こった。

 ふと目が覚め、眠気の渦中にいながら少女はカーテンを開けて外の様子を覗いた。そこで目にしたのは、街を歩く巨大な人影。それは明らかに二十メートルはあるビルを越えるほどの大きさを有していた。


「あれは……」


 ドシン、ドシンと重みのある歩みが一歩一歩歩まれていた。

 しかし街は暗闇に包まれたまま、誰かが騒いでいるなどということはなかった。

 訳が分からず、少女はただ巨人を呆然と眺めることしかできなかった。




 後日、とある場所で、大勢のたちが一同に期す会議が開かれようとしていた。

 前日の晩に目撃されたその巨人もまた、その会議へと出席しようとしていたのだ。

 その会議とはーー


「それでは、これより我々UMA機関によるUMA会議を始める」


 そう。

 これより開かれるのは、全世界で目撃されているUMAの総会。その名もUMA会議。

 その数おおよそ未知数。


「ところでアルマスちゃん、今回私たちが集められたのはどうしてかなー?」


 ゆったりとした喋り方で、人の拳ほどの大きさで、羽を広げて宙に浮く"妖精"は同じくUMAの"アルマス"へ質問を投げ掛けた。

 全身が赤茶色の長い毛で覆われた二メートルほどの身長を持つUMAのアルマスは、黒幕のような口ぶりで言う。


「今回この会議を提案したのは俺じゃない。俺はあくまでも代理人、この会議を本当に提案したのは"ダイダラボッチ"だ」


 巨人、そう呼ぶに相応しい"ダイダラボッチ"がこの会議を提案した張本人であった。


「ねえダイダラちゃん、私たちを集めたのはなんでかなー?」


 妖精の質問に答えるために、ダイダラボッチは口を開く。


「おで、武蔵野で優しい少女に出会ったんだぞ。その少女は一度でいいから"百鬼夜行"を見てみたいって」


 百鬼夜行、それは妖怪の群れが深夜に徘徊する行進のことを指している。


「なあダイダラボッチ、俺たちはUMAだ。妖怪じゃない。百鬼夜行などということをもし俺たちに頼んでいるのなら場違いだ」


 豚の顔を持つUMA"ピッグマン"はダイダラボッチのお願いに反対していた。


「ダイダラーラ、俺たちはお前に協力する必要はねえんだーラ」


 体長2、3メートルほどの翼竜の姿をしたUMA"コンガマトー"は、大きな翼をばたつかせてダイダラボッチを威圧しながらそう言う。


「ダイダラちゃん、私たちに頼んでいるのはその百鬼夜行の再現ってことで良いのかな?」


「そうだべ。今妖怪たちはあまり姿を見せなくなったんだー。だからここに集まっている皆にお願いしたい。おでを助けてくれた少女に百鬼夜行を見せてやってくれ」


 皆前向きではなかった。

 その空気を察してか、代理人であるアルマスは言う。


「まあまあ、話くらいは聞いてやっても良いんじゃないか?なあダイダラボッチ、どうして少女は百鬼夜行を見たいんだ?」


「少女のお父さんは昔本物の百鬼夜行に遭遇しているっべ。そこでその話をして、また次の日の夜皆で見に行ったらしいんだべ。しっかし百鬼夜行は行われていなかったんだ。少女のお父さんは誰にも信じてもらえなかったんでさ。それでも少女だけは父を信じていたんだべ」


「それで少女は毎日百鬼夜行を待ち伏せしているってことか」


「ああ。おで、少女の力になりたいんだべ。百鬼夜行は本当にあるってことを、見せてやりたいんだ」


 ダイダラボッチの話を聞き、わずかだがUMAの気持ちは揺らいでいた。それでも揺るがないUMAも多くいた。


「俺は嫌だね。絶対に嫌だ」


 ピッグマンは頑なに断り続けていた。

 会議はこのまま平行線状に進んでいく、そう思われていた。


「まあ面白いんじゃないか?百鬼夜行ならぬUMA夜行、私はとっても面白いと思うがな」


 そう言って姿を現したのは、"ネッシー"の背中に乗り、"ツチノコ"を赤子のように抱えた女性。

 まだ新米のUMAたちは、彼女が誰なのか分からずポカーンとしていた。それに対して昔からいるUMAたちは彼女へ敬意を払っていた。


「知らない者もいるようだから教えておこう。私がこのUMA機関の創設者、女帝みかどだ。私はまだ世の中には知られていないUMAであるから、新米のUMAたちならば知らなくて当然であろう」


 かつて、こんな話が話題になったことがある。それは百年前か、千年前か、いつ話題になったのかすらも分からないある時。

 UMAたちを支配する者がいたとしたら、それはどんな姿をしているのだろうと。

 そこである者たちはこう答えた。きっと絶世の美女であるに違いない、と。


 その話の通り、UMAたちを統括する役目を担っているのは絶世の美女ーー女帝であった。


「皆、たまには団結してみようではないか」


「ですが女帝様、我々はUMAです。人前にわざわざ姿を晒すなどできません」


「それでもUMAだ。時に姿を見せて人々を盛り上がらせるのも、また私たちの役目であろう。ならばその少女に我々という存在を伝えようではないか。百鬼夜行ならぬUMA夜行を行い、少女を楽しませよう」


 その言葉で今までダイダラボッチの提案に反対していたUMAたちの流れは変わった。

 たまには団結してみても良いではないか、騒いで人々を驚かせてやろう。


 そう考えた時、UMAたちは面白おかしく笑った。


「それじゃ今夜、いっちょ派手に暴れようか。我々UMAの大行進を」




 その日の夜もまた、少女はカメラを片手に夜の街にレンズを向けていた。しかしそこに映るのはいつも通りの街の景色。

 今日も無理だろう、少女は半ば諦めていた。


「お父さん、百鬼夜行って本当にあるんだよね。私は信じ続けて良いんだよね」


 少女は夜の空へ問いかける。

 少女はすぐにカメラを構え、寒い夜に震えながらレンズを街へ向け直す。その時、レンズを何かが高速で通りすぎた。


「ん?なんだろう?」


「さすがはスカイフィッシュ、カメラの前を通りすぎるならば適任だな」


 女帝はUMAである"スカイフィッシュ"がカメラの前を通りすぎるのを見て、微笑んでいた。


 少女は何かが起きそうだ、そんな予感を感じていた。

 ドシン、ドシン、大きな音が街に響くのを聞き、少女は街へ視線を向けた。するとそこでは、大通りを埋め尽くすほどのUMAの群れが楽しく大行進をしていた。

 その中にはピッグマンやコンガマトー、アルマスやネッシーなどの姿があった。そしてその中で一際大きい巨体を持つダイダラボッチは、楽しそうに笑っていた。


(楽しんでくれているかな?)


「あれってもしかして……ダイダラボッチさん?私の夢、叶えてくれたんだ。ありがとう、ダイダラボッチさん」


 少女はカメラを撮ることさえ忘れ、UMAたちの大行進に胸を踊らせていた。


「お父さん、聞こえていますか。やはり百鬼夜行はあったんです。お父さんの言っていたことは嘘じゃなかった。本当に、本当にあったんだ……」


 少女は涙を流しながら、それでも嬉しそうにしていた。

 今日という一日は、少女にとって忘れることのできない大切な日となって少女の胸に刻まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

U・M・A 総督琉 @soutokuryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ