第3話 朝の下駄箱で立花さんに告白。

 日直の次の日の朝。俺はいま学校の下駄箱にいる。


 ……ふぁぁぁ、寝みぃ。


 寝不足の原因、それは……深夜二時までユーチューブでゲーム配信を見ていたからなんですねぇ。


 眠いのを我慢しながら上履きに履き替える。


 俺のどんよりした雰囲気とは真逆の女子達の爽やかな挨拶の声が聞こえる。


 その女子達のなかに立花さんがいる。


 ふっ、立花さんに朝の挨拶をするか。昨日普通に話ができたしね。


 今日から俺と立花さんは挨拶をする仲になってるはずだ。


「た、たち、立花さん、お、おはようございます」


 ——って、誰だよ! 俺より先に立花さんに挨拶する野郎は!


 俺は立花さんに近づいて爽やかに挨拶をしようとした。が、誰かが先に挨拶をして俺の邪魔をした。


 立花さんのすぐ近くに男子三人組がいる。同じ一年生だけどクラスメイトの男子ではない。


 そのうちの誰かが立花さんに挨拶をしたみたいだ。


 何故わかるって? 立花さんがその三人組を見ているからだよ。


「おはよ〜」


 立花さんが男子三人組に挨拶をした。いきなりの挨拶にも笑顔で挨拶をする立花さんは優しいね。


「立花沙織さん!」


 真ん中にいる小柄な男子が立花さんを呼ぶ。


「はい。なに?」


「ボ、ボク、立花さんのことが好きです! つ、付き合って下さい!」


 登校中の生徒が一斉に振り返る。小柄な男子生徒の顔は真っ赤だ。


 ——って、よくこんな大勢の前で告白できるな。


「……ごめんなさい。お付き合いはできません」


 頭を下げる立花さん。瞬殺だった。


「……そう……ですよね。あはは。ありがとうございました」


 告白した小柄男子は頬をポリポリかいている。


「ごめんね」


「ボク、来週転校するから、どうしても想いを伝えたくて……」


 告白した理由を話す小柄な男子。


 ほうほう。なるほど、そうか。ならば許そう。俺の朝の挨拶を邪魔したことは。


「あの……立花さんは神谷司君とは付き合っているのですか?」


 告白した男子が立花さんに訊ねた。


「そうだよ〜。僕達は付き合っているんだよ〜。ねっ、沙織」


 立花さんと一緒に登校している神谷司が告白男子の質問に答える。


「はぁ? なに言ってるの? 私達付き合ってないでしょ。バカじゃないの? 気持ち悪いからホントやめて」


「でも、神谷司君のこと好きなんですよね?」


「あのね、コイツと付き合ってもいないし、一ミリも好きじゃないから。ホントだから」


「わかりました。そう言うことにしておきますね」


 告白した小柄な男子は満足した顔をしている。そして一礼して友達とその場を去っていった。


「ねぇ、ちょっと、ホントに違うからね〜。聞いてる〜」


 そして下駄箱のある空間は日常の風景に戻った。


 さて、改めて立花さんに挨拶をするかな。


 おやおや、立花さんと目が合ったよ。よし——


「おは——」


 俺の挨拶が終わる前に、立花さんは無駄のない動きで上履きに履き替え、早足でその場を去り教室へ向かった。


 ……いや、あの、立花さんに無視されたのですが? どうして?


 片手を上げ棒立ちしている俺の肩をクラスメイトの男友達がポンポンとたたく。


 そしてニッコリ笑顔で『ドンマイ』と言われた。


 ◇◆◇


 結局その日は立花さんと一言も喋らなかった。いつもと同じ。


 くそう。一日で振り出しに戻るか? ぐぬっ。


 ……よし決めた! 


 絶対に立花さんと仲良くなってやるぅぅ。

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