失礼なヤツ

みゅー

第1話

〈伊織視点〉




「ではまた、ご予約お待ちしてますね」




客「またネットから予約します」




「はい、ありがとうございます」





来店6回目のお客様を入り口まで見送り

「ふぅー・・」と息を吐いてから

さっきまで使っていた施術室の片付けに向かう




(・・・・また言われるかな…)





仕切りのカーテンを開けると

後輩の真夢ちゃんが既に片付け始めていた

 




「あっ!ごめんね、ありがとう」





真「いえ、先輩休憩まだですよね??

  ここは私が片付けておきますから

  外にお昼取りに行ってください!」





そう言って私のバックを差し出す

真夢ちゃんを見て「あぁ…」とある事を察した…






「じゃー・・先に食べて来てから事務所行くね」





真「・・・はい…」






バックを受け取ってから他のスタッフに

「3番いきます」と声をかけ

表の入り口からそっと外に出て行き

いつも行く珈琲ショップに向かった





サロンから5分と離れない場所にあるそのお店は

大型チェーンの珈琲喫茶のお店で軽い軽食も

豊富にあるから一人の時はだいたいここに来る





スタッフとも特別な会話はしなくても

ドアを開けて顔を覗かせると「あー!」

という顔でいつもの場所に案内される





決して窓の眺めがいいわけでも

席が広いわけでもないこの席…

むしろお店の奥でトイレに近いから

皆んな避けたがるこの席を選ぶ理由は

通りに面した窓から離れていて

入り口からも死角になっているからだ…




(もし見つかったら厄介だしなぁ…)




おしぼりとお冷を持って来た店員に

ホットサンドとコーヒーを頼んでから

スマホを眺め何の連絡も入って無いことに

ホッとしながらお冷を口に持っていった…






(・・・・・辞めたいなぁ…)



最近は一日に何度もこのフレーズが横切る

多分、年齢的なものもあるんだろうけど…





私は脱毛サロンで働いていて

あと数ヶ月もしないで29歳の誕生日を迎える

まさにアラサーだ…

地元の友達も大学時代の友人も皆んな

ほとんどが既婚者の子持ちになっていた





( 何人か離婚をしてのお一人様もいるけど… )





去年までは「結婚は?」と聞かれても

「まだ、一人を楽しみたい」なんて言っていたけど

28歳になってから少しづつ

自分の未来に不安を感じだした…





先輩や同期は皆んな結婚をして寿退社していき

今の私は28歳で働いているサロンの

年長者でお局様のような存在になったのだ…





今いるスタッフは私以外は

全員24歳の若い後輩ばかりで

可愛いくもあるし楽しいけど

若さの壁を感じている部分もある…






25~26歳の時はそのうち勝手に相手が出来て

勝手に結婚に進んでいくと思っていたが…

そんな都合よく「勝手な旦那様」は現れてくれず

先月2ヶ月付き合った彼氏からも 

フラれたばかりだ…





(結婚する気はないかぁ…)


 


「・・・なら付き合ったりしないでよ…」





相手は同い年で

不動産関係の仕事をしている人だった

年齢的にも結婚を前提にした付き合いかと思っていると相手にその気はなく「ごめん」とフラれた…




女の29歳と男の29歳では「結婚」に対する

考え方が違うようで次からは絶対30代半ば近い

男にマトを絞ろうと思った…





「・・・・もしかして…結婚できない…とか?」





一瞬嫌な未来が頭を掠め気分を落としていると

スマホから通知音が聞こえメッセージを開いた…





【社長が探してます!】





真夢ちゃんに「10分で戻る」と返信をしてから

テーブルにあるサンドイッチを口に詰め込んでから

会計カウンターに向かう為に立ち上がると

隣の席のテーブルにバックがぶつかり

その席に座っていたサラリーマンの

コーヒーが少し零れてしまった





「あっ…すみ…ません」





口にまだサンドイッチが残ったままで

口の前に手を当てながら謝罪をすると

そのサラリーマンは手元のiPadから

目線を私にうつして「ふっ」と鼻で笑った…






ユウ「・・ちゃんと飲み込んでから話しましょうって

  子供の時に習いませんでした?」




「・・・・・・・・」






そのサラリーマンは黒髪に

すこし切長なキツい目をしていて

明らかに年下の男の子だった…

 


(何??なんなの??)




初対面な年上の女性に対して

この生意気で失礼な態度はなんなのよ!?





ユウ「ふっ…コーヒーまだ残ってるみたいですし

  口に残ってる物流し込んだらどうです?笑」





固まって凝視している私に

直ぐ後ろのテーブルに飲み残していた

アイスコーヒーの入ったグラスを

指さしてからそう言った…



 

「・・・ツッ・・」





さらに失礼な発言をするこの年下男にイライラ

しながらバックから財布を取り出してから

零したコーヒー代として500円玉をテーブルに

バンッと置いてからそのまま

会計カウンターに向かった





( 失礼なヤツ!!)



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