チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【26】異説『北風と太陽』【なずみのホラー便 第113弾】
なずみ智子
異説『北風と太陽』
【問題】
北風と太陽は、人気のない道を歩いている一人の女性を見つけました。
長く艶やかな黒髪、涼しげな顔立ちに雪のごとく白い肌をしたその女性は、まるで妖精のごとき美女でもありました。
競争心だけでなく下心までをも湧き上がらせた北風と太陽は、お決まりの力比べをすることにしました。
どちらが先にあの女性の羽織っているものを脱がすことができるか、と。
まずは北風です。
すると、なんということでしょうか、女性は羽織っているものを脱ぎ捨ててしまいました。
勝負ありました。北風の勝ちです。
北風は得意げにビュウビュウと笑いました。
予期せぬ結末に、太陽はその顔をさらに真っ赤にし、ギランギランと怒り狂いました。
そして、女性を殺してしまいました。
後には女性の骨すらも残りませんでした。
さて、私たちが知っているはずの『北風と太陽』と全く違う結末を迎えた理由は何でしょうか?
【質問と解答】
キクちゃん : 大人げない北風と太陽ですね。特に偉大な存在であるはずの太陽はなんて大人げないんでしょうか。太陽のくせに。ちんけなプライドで命を奪われてしまった女性が気の毒です。確か、原作の『北風と太陽』では、奴らの力比べの対象にされた旅人は男性だったはずです。でも、今回は女性だったので、北風の威力には勝てずに、羽織っているものを脱がされてしまったんでしょうか?
チエコ先生 : NO。キクちゃん、問題文をよく読んでみて。この女性は羽織っているものを”脱がされて”いるかしら?
キクちゃん : ……? あ! ”脱がされて”はいませんね。自ら”脱ぎ捨てて”います。……どういうことだろう? 脱ぎ捨てたら余計に寒くなるはずなのに。……ひょっとしたら、この女性もかの有名な『イソップ童話』の『北風と太陽』のことは知っていて、自分が奴らの力比べの対象にされているのだと気づいたのかもしれませんね。それで、「違う結末にしてやろうかしら?」と奴らを担ごうとしたのでしょうか? でも、最悪な場合、凍死してしまう可能性だってあるのにチャレンジャーにも程がありますね。
チエコ先生 : NO。それと、この女性が凍死することは絶対にないわ。
キクちゃん : 凍死することは絶対にない? どういうことだろう? うーん、うーん……
チエコ先生 : 女性の”自ら羽織っていたものを脱ぎ捨てたという行為”だけど、この女性とってはその方が快適だったからよ。それに「長く艶やかな黒髪、涼しげな顔立ちに雪のごとく白い肌をしたその女性は、まるで妖精のごとき美女でもありました。」という描写は、私たちが知っている日本の伝承の”かの有名な誰かさん”を思い起こさせないかしら? 厳密に言うと、彼女は妖精というよりも……
キクちゃん : ……やっと分かりました。この女性は妖怪・雪女だったんですね。
チエコ先生 : YES。正解よ。だから、怒り狂う太陽に殺された後には彼女の骨すら残らなかった……というよりも、溶けてしまったのよ。
キクちゃん : 『イソップ童話』って、今から2500年以上も昔の古代ギリシャで生まれた寓話集ですよね。だから、今回の問題舞台も西洋世界という思い込みで、私は脳内再生していました。まさか、日本で力比べを行い、結果として雪女を殺害してしまうとは思わなかったです。
(完)
チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【26】異説『北風と太陽』【なずみのホラー便 第113弾】 なずみ智子 @nazumi_tomoko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます