ニューヨークと三年振りに会う夫

第16話

 たどたどしい英語とスマートフォンの翻訳機能を駆使してどうにか入国手続きを完了すると、人の流れに沿って出口に向かう。

 スーツケースを引きずり、書店で買った真新しい旅行本を持った私は自動ドアから外に出たのだった。


「ここがニューヨーク……」


 そう呟きながら歩いている間も、現地人と思しきアメリカ人や観光客と思しきラフな格好をしたアジア人系の団体、スーツを着こなしたビジネスマンなどが、私を追い抜かして、各々の目的地に向かって去って行った。私もその流れに乗るように、バス停に向かったのだった。


 若佐先生から離婚届が送られてきてから、二週間が過ぎた。

 あの日、若佐先生に会うと決めると、私はパート先のスーパーにしばらく休みたいと連絡をした。急な申し出にもかかわらず、快諾してもらえると、私はパスポートの申請で駆け回り、留守にしている間の自宅の管理を両親に交渉した。

 私が一人でニューヨークに行く事に両親はあまり良い顔をしなかったが、どうしても若佐先生に会いに行きたいと頼むと、渋々納得してくれたのだった。


 そして今日、私は人生で初めて飛行機に乗って、若佐先生の住むニューヨークにやって来た。

 飛行機から見た時は、あまり外国に来た気がしなかったが、飛行機から降りれば、そこはもう異国。見渡す限り、アルファベットの案内や看板だらけ、日本人どころかアジア人はほとんどおらず、当たり前のように英語を話すアメリカ人ばかりの世界が目の前に広がっていたのだった。


(この時間だと、若佐先生はきっと仕事中だよね?)


 空港に着く前に機内でアメリカの時刻に合わせた腕時計を見る。時計は十二時過ぎを指していた。日本を経ったのは昨日の夕方だったので、まさかこんなに時間が掛かるとは思わなかった。地図上で見るとアメリカは日本の近くにあるように感じていたのに、実際はこんなにも離れていたなんて……。若佐先生も同じ事を考えたのだろうか。

 すっかり座り疲れしてしまったので、バスを待ちながら凝り固まった身体をほぐす。学生時代はずっと新幹線で移動していたので、ここまで身体が凝り固まったのも初めてだった。直行便にしたのは正解だったかもしれない。空港内も広く、分かりづらかった。日本の空港の中でさえ広く、地図を片手に自分の搭乗口を探す羽目になったのだから。

 しばらくすると、バスが来たので他の観光客やビジネスマンの後に続いて乗り込む。日本とは違い、乗車料金が先払いという事に違和感を持ちつつも、あらかじめ日本で両替していたドルで支払い、スーツケースを持って窓側の席に座った。

 ほどなくして全員が乗車すると、バスはゆっくりと走り出したのだった。

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