第13話:圧倒的な力
『わ、わらわをバカにするのもいい加減にしろ!こんなに魔法を使える奴が、Dランクなわけなかろう!』
メデューサは、到底信じられないといった具合だ。それもそうだろう、Dランク冒険者に負けるSランクモンスターなんて、聞いたことがない。
「アスカは本当に強いんだからね!」
「さて、そろそろ討伐させてもらおうか」
俺はスタスタと、メデューサに向かって歩き出した。覚悟を決めたのか、奴は逃げようともしない。
『くっ……ここまでかっ!』
「観念しろ」
『……とでも言うと思ったかああああああ!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
突然、洞窟がグラグラと揺れ出した。パラパラと天井から小石が降ってくる。
「きゃああああ!?なに、どうしたの!?」
『ハハハハハハハ!前もって、洞窟の中に爆発の魔法陣を準備しておいたのだ!こんなこともあろうかとなぁ!お前たちも岩の下敷きになるがいい!』
なるほどな。冒険者に討伐されそうになったときの対策を、しっかり用意していたというわけだ。
「お前はSランクモンスターのくせに、案外小心者だったんだな」
『黙れ黙れ!このまま死んでしまえ!』
「どうしよう、アスカ!このままじゃ押しつぶされちゃうよ!」
押しつぶされそうなのは俺たちだけじゃない。石像も壊れてしまっては、元に戻すことはできなくなる。このような状況なら、あの魔法が適切だろう。
――《タイム・ストップ》。
ゴゴゴゴゴ……………………シーン。
心の中で念じるや否や、洞窟の揺れは一瞬で収まった。天井から落ちてきた小石は、空中で停止している。どこからどう見ても、時間が止まっていた。
『「…………えええええええええええええええええええええええええ!?」』
ナディアとメデューサが、同時に悲鳴のような声をあげた。
「い、いったい何をしたの!?」
「この洞窟内の時を止めただけだ。生きている者には使えない魔法だがな。これでひとまず、洞窟が崩れることはないだろう」
『と、と、と、と、と、時を止めただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!そ、そんなことができる<魔法使い>は、大賢者しかいないはずだあああああああああああああああああ!』
「なら、俺は大賢者レベルのDランク冒険者ということなんだろう。まぁ、本業は<魔法使い>じゃなくて<魔導剣士>なんだがな」
メデューサの目は、恐怖で満たされている。こんなに追い詰められたことは初めてなのだろう。本来Sランクモンスターなんて、ギルド総出か超精鋭のパーティーじゃないと倒せない相手だからな。
『ま、まだ終わっとらんぞ!』
メデューサは石像の近くに行ったかと思うと、石像の首を壊そうとする。人質を取れば、このピンチを何とかできると思っているようだ。まさか、Sランクモンスターがこんな惨めな真似をするとは。ふむ、この程度の距離であれば、瞬発力を強化しなくても奴の懐に飛び込めるな。
『少しでも動いて見ろ!お前たちの大事な石像を……!……え?』
ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
石像を壊す間もなく、俺は一振りでメデューサの首を斬り落とす。ゴトゴトと首が地面に転がった。頭に生えている蛇もぐったりしている。
「だから言っただろうに。俺の本業は<魔導剣士>だと」
「やった!メデューサを倒した!アスカすごい!」
ナディアはピョンピョン跳ねて喜んでいる。
「よし、後は石像の目にこいつの目を見せれば呪いは解けるはずだぞ」
「カミラの旦那さんもこの中にいればいいね」
俺が首を取ろうとしたとき、急に頭の蛇が動き出した。
ガブッ!グシャアアアアアアア!
「あっ!魔眼が!」
頭の蛇がメデューサの両目を潰してしまった。首を斬り落としても、まだ生きていたらしい。
『バカめ、油断したな!これで石になった者たちは、元には戻らまい!せっかくわらわの首を斬り落としたのに、残念なことよ!ハハハハハハハ!』
メデューサは勝ち誇ったように笑っている。上位種は生命力が強いようだった。
「アスカ、どうしよう!?これじゃあ石化の呪いを解くことはできないよ!」
「しょうがない。では、俺の魔法で解くことにするか。少し時間はかかるがな」
俺は至極あっさりと言った。いくらハイ・メデューサの魔眼と言っても、所詮は魔法による呪いでしかない。魔法で呪いをかけられるということは、魔法で解除できるということだ。
「……さっきの時を止める魔法の衝撃がすごすぎて、私はもう何も驚かなくなったね」
『そ、そ、そんなことできるわけがない。第一、お前は魔力を使いすぎているはずだ』
メデューサは、ワーワーといつまでも騒いでいる。口で説明するより、実際にやって見せた方が早いだろう。石像の一体に手を置いて、俺は解呪の魔法を念じた。
――《カース・ラ・マリディクション》。
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン。
手で触れたところから、石像は少しずつ人間の体に戻っていく。もちろん、この魔法も文句なしのSランクで、とてつもなく長い呪文の詠唱が必要だ。
「いくら何でもアスカってすごすぎない?こんなことできる人は見たことないよ」
「そうなのか?あまり実感はわかないがな」
『ま、まさかここまで強い人間がいたとは……いずれ…………いや、そんなはずは……ぐっ……』
ガクッとメデューサの首が力尽きた。今度こそ完全に倒したようだ。
「うっ……ここは……カミラ……」
石化の呪いが解けた男が、意識を取り戻す。どうやら、この人物はカミラの夫らしかった。
「もう平気だよ!メデューサはアスカが討伐したから!カミラは街で待ってるよ!」
「ナディア、いきなり言っては混乱してしまうだろう。大丈夫か?石化の呪いは解いたが、まだふらつくかもしれん」
「あ、あなた方は……」
「俺たちは、カウパリーネンの街に来た冒険者だ。メデューサに脅されていると聞いたんでな。討伐に来たというわけだ」
「メデューサ……そうだ!メデューサは!?」
「安心してくれ。ほら、この通りだ」
男にメデューサの首を見せる。
「す、すごい、本当に倒したんですね!あなた方は街の救世主ですよ!」
周りの石像を見ると、ざっと50人ほどいた。やれやれ、メデューサの討伐よりも、こちらの方が時間がかかってしまうな。
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