第2話:冒険者ギルドからの追放
「はあああああああああああ!? てめえ、俺たちのことバカにしてんのか!」
「こいつムカつく!」
「何ですか! その言い方は!」
「大したこともできないくせに、偉そうな口をきくな!」
案の定、ゴーマン達は激怒してしまった。それにしても、何でこいつらはすぐに怒るのだ?
「おい、どうしたんだ」
そのとき、酒場の奥から禿げ頭の太った男が出てきた。ギルドの支配人のコモノンだ。
「あ、ゴーマン様方でありましたか。どうかされましたか?」
騒ぎの原因がゴーマン達だと知った途端、コモノンはコロッと態度を変えた。一応勇者パーティーは、このギルドで一番の実績がある。報奨金はクエストの難易度が上がるほど多くなり、その分ギルドに入る金も増える。つまり、ゴーマン達はギルドの稼ぎ頭なのでペコペコしているというわけだ。
「役立たずのゴミ無能をクビにしてんだけどよ。歯向かうんだよ、こいつ」
ゴーマンが言うと、コモノンも見下したような目で見てきた。
「私もお前の働きぶりを見てきたが、全く役に立ってないじゃないか。つべこべ言わず、さっさとこのギルドから出て行ってくれ」
「そうだ、コモノン。こいつの冒険者ランクを最低のDランクにしてくれよ」
冒険者ランクは基本的に上がることしかない。しかし、何か大きな事故などを起こしてしまったときは、ランクを下げられることがある。もちろん、俺は事故など起こしていない。
「いや、しかし、ゴーマン様。それはちょっと……」
さすがのコモノンも渋っている様子だ。ギルドの支配人と言えど、何もなければ冒険者ランクは下げられない。そんなことをすれば、この先支配人としてやっていけなくなる。
「じゃあ、こいつのせいで俺たちがケガしたってことにしろよ。そうすりゃ、冒険者ランクを下げられるだろ。もちろん、それなりのお礼はさせてもらうぜ?」
ゴーマンが何枚かの金貨を見せながら話している。要するに賄賂だ。この金貨で何とかしろと言っている。俺は頬が痒いので、ボリボリ搔きながら聞いていた。
「ゴクッ。し、しょうがないですなぁ。おい、アスカ・サザーランド。お前、今日のクエストでゴーマン様方にケガをさせたそうじゃないか。仮にもCランクの冒険者でありながら、なんてことをしてくれる。今日からお前はDランクだ」
そう言うとコモノンは、奥の方から俺のギルドカードを持ってきた。わざわざ俺の目の前でDランクに書き換える。
「はっ、ざまあねえな。このゴミクズ無能やろうが」
ゴーマンはとても嬉しそうだ。俺の冒険者ランクを下げたからなんだと言うのだ。そして後ろを向いたかと思うと、こそこそと金貨をコモノンに渡していた。言っておくがバレバレだからな。
「いい機会だから、このまま冒険者辞めちゃえばぁ?」
バルバラがニタニタ笑いながら見てくる。辞めるわけないだろ、こんなことで。むしろ、冒険者ランクを一番気にしているのはお前だろうが。
「せめて、あなたに神のご加護がありますように」
カトリーナ、そんな格好じゃ神は祈りを聞いてくれないと思うぞ。
「アスカ、これが公平な判断だ」
ダンよ、お前はこのやり取りをしっかり見ていたか? だとしたら、お前の目は女の体しか見えないと言われても文句は言えないな。
「わかった、そういうことなら俺は出て行く」
俺の心配なんて、余計なお世話ということなんだろう。ここまで言われてしまったら、さすがにもう出て行くしかない。
「そうだそうだ、さっさと出てけ! このゴミ!」
「あたしたちに泣きついてきたって知らないからね!」
「不要物はさっさと出て行ってください」
「お前は最後まで無能な男だったな」
「ゴーマン様方の足手まといめ」
パーティメンバーと支配人に罵られながら、俺はギルドを後にした。
俺は最強の剣士だった父――カイザーと、最強の魔法使いだった母――エリーゼの子として生まれた。
(両親がそんな人たちなので、10歳になる頃にはあらゆる剣術も魔法もマスターしたわけだが)
俺は父と母が果たせなかった“魔王”討伐という目標のため、血の滲むような鍛錬をさらに8年程積んだ。
(そのおかげで、今やSランクモンスターさえも秒殺できるようになったなぁ)
剣を握った瞬間にモンスターの首は飛び、魔法は魔力さえ使わずに念じるだけで発動できる。十分に力がついたと実感したところで、俺はようやく“魔王”討伐に向かった。しかし、旅の道中で一つ厄介事に巻き込まれてしまった。
(あのサタンめ、人に【呪い】をかけやがって)
村を襲っているSランクモンスターのサタンを倒したとき、ある【呪い】をかけられたのだ。その【呪い】とは、【モンスターを100体倒すまで、仲間と同じタイミングでしか攻撃も魔法の発動もできない】というものだ。とっさに対抗魔法で打ち消せばよかったが、村人の救助で対応が遅れてしまった。
(思い返せば、これはなかなか面倒だったな。少なくとも、仲間がいなければ【呪い】は解けない)
そこで俺は“魔王”の情報集めと仲間探しのため、ここのギルドに来た。またずっと一人で修行していた俺は、『仲間と一緒に冒険する』ことに小さな憧れがあった。そうして出会ったのが、ゴーマン達のパーティーだ。
(俺は体が大きいから、あいつらは<荷物持ち>としてちょうど良いと考えたのだろう)
もちろん、俺は<魔導剣士>であることと、【呪い】のことを何度も説明したが分かってもらえなかった。一緒にクエストに出ていればいずれ気がつくだろうと思っていたが、奴らは全く気がつかなかった。
(そして、今日討伐したモンスターがめでたく100体目だったというわけだ)
つまり、俺は厄介な【呪い】が解けたと同時に、パーティーを追放されたことになる。
(さて、この後どうするかな? もうここのギルドにはいられないだろうし、別の街にでも行くか)
俺は周辺の地図を確認する。
「東の方にユタラティの街があるのか」
豊かな“黒い森”のおかげで発展した街だ。ある程度大きな街だから、冒険者ギルドは絶対あるだろう。
(む……。そういえば、【呪い】が本当に解けたかまだ確認していなかったな)
【呪い】をかける時は真実を言わないと効果がないが、もしもの可能性もある。
(【モンスターを10000体倒さないと解けない】とかだとさすがに骨が折れるぞ)
ザッザッザ。
そのとき、何者かが近づいてくる気配を感じた。歩き方からして何人かの人間だ。
「よう、でっかいアンちゃん。さっきはずいぶんと楽しそうだったなぁ」
「俺たちツケが溜まっててよ。アンちゃん、少し金貸してくんねえか?」
「でけえからすぐ見つけられたぜ」
俺の周りを、3人ほどの屈強な男達が取り囲んだ。おそらく、俺から金でも取ろうというのだろう。冒険者の中には、ガラが悪い輩もいる。3人とも見るからに悪人の顔つきだ。なぜ、コモノンはこういう奴らを取り締まらないのか?
「なぁ、少しでいいんだよ」
その中の一人が、指の骨をボキボキ鳴らしながら近づいてきた。俺の方が背が高いので、下の方から見上げている。
「そんなに鳴らすと指を痛めるぞ。それに金など無い。そこをどいてくれ」
無理やり通ろうとするが、男たちは通せんぼして動かない。どうしようかと思っていると、男がニヤニヤしながら殴りかかってきた。
「へっ。バカにすんな、<荷物持ち>ごときがよ。これでもくら……アッ」
シュッ! ドサッ!
男が地面に倒れる。何のことはない、ただの手刀だ。しかし、こいつらの誰も目で追えてないだろう。別の男がナイフで切りかかってくる。
「このやろう! 何しやがっ……ンッ」
ドンッ! ドサッ!
ナイフ男が地面に倒れる。今度は腰に下げている剣でみねうちをした。もちろん、俺は全く動いていないように見えるはずだ。よし、これでとりあえず攻撃できることは確認できた。
「て、てめえ! さっきから見てると調子に乗りやがって!」
最後の一人が、震えながら立ち向かってくる。もうやめとけばよかろうにと思うが、この手の輩は引くに引けないのだ。
「ち、ちくしょおおおおおおおお……ァンッ」
ボンッ! ドサッ!
立ち向かってきた男も地面に倒れる。最後に、俺は低威力のとても小さな《ファイヤーボール》を男の顔の真ん前で破裂させた。破裂と言っても直撃はさせていない。どうやら、魔法も今まで通り使えるようになったみたいだ。
それにしても、なぜこいつらは倒れるとき乙女のような声を出すのだろう。とても気持ち悪いのだが?
「さて、行くか」
俺は地面に倒れてる三人を道端に並べてから、ユタラティの街に向かっていった。
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